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日記INDEXページ(タイトルと書き出し部の一覧)はこちらです
1797 7月後半の読書と感想、書評 2024/8/3(土)
1798 EVの普及について考える 2024/8/10(土)
1799 8月前半の読書と感想、書評 2024/8/17(土)
1800 人口減少と外国人増加により影響 2024/8/24(土)
1801 8月後半の読書と感想、書評 2024/8/31(土)

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7月後半の読書と感想、書評 2024/8/3(土)

1797
少年たちの四季(集英社文庫) 我孫子武丸

少年たちの四季
「ぼくの推理研究」(1993年刊)と「死神になった少年」(1997年刊)の2作品を合本し2003年に発刊された文庫版短篇集です。

収録作品は「ぼくの推理研究」、「凍てついた季節」、「死神になった少年」「少女たちの戦争」の4作で、1作目と3作目、2作目と4作目がそれぞれ主人公が同じです。

ミステリー作品ですが、同じマンションに住む少年と少女が主人公で、家庭での親との関係や学校での同級生との関係など、中高生などに向けたライトノベルというにふさわしい構成とストーリーです。

ま、還暦過ぎたオヤジが、自分の若い頃を思い出しつつ読むには、ちょっと苦しいかな。時代がすっかり違っているので。

しかし謎解きはリアリティのあるなしは別として、なかなか新鮮なもので、大人が読んでも十分に楽しめるものでした。

★★☆

著者別読書感想(我孫子武丸)

            

砂上(角川文庫) 桜木紫乃

砂上
2017年に単行本、2020年に文庫化された小説です。北海道で離婚後アルバイトをしながら極貧生活を続ける女性が何度も自伝的小説で新人賞に応募し、その都度、落胆を繰り返しながらもあきらめなかったことで、あるとき敏腕編集者に気に入られ、何度も何度も書き直しを指示され、、、というどこか著者自身の体験も含まれてそうな内容です。

主人公の女性は、母親が20歳の時に生まれた父親が不明(最後で明らかになります)の私生児で、15歳の時に妊娠したため、産んで母親の子供として(つまり主人公からすると姉妹)届けるという複雑な家庭で育っています。

結婚後に夫の不倫が判明し、離婚を承諾し、慰謝料を受け取り、アルバイトをしながら実家の母の元で暮らしています。15歳で産んだ子供(表向きは姉妹)はしっかり者で、すでに正社員になり独立した生活を営んでいます。

そこに関わってくるのが、幼なじみでもあるアルバイト先の独身の店長とその母親や、毎月払いの慰謝料を値切ってくる元夫、そして札幌出張のついでに会いにやってくる大手出版社の女性編集者などです。

極めて限られた世界の中で、やや暗くなりがちな重い話もありながら、明るい母親や、サッパリした性格の妹などとともに、自主性に乏しい主人公がだんだんと変わっていく姿がまぶしくなっていきます。

人生は人によって固い岩盤の上に立っている人もいれば、主人公のようにサラサラとすぐに崩れていく砂上に立っている人もいます。そうした多種多様な生き方を感じられる面白い小説でした。

★★★

著者別読書感想(桜木紫乃)

            

石を積む人(小学館文庫) エドワード・ムーニー・Jr.

石を積む人
生年は不明ですがアメリカ生まれの作家さんで、本業は大学教授ということです。日本語で出版されている著作はこの原題が「THE PEARLS OF THE STONE MAN」だけで、原題を直訳すると「石男の真珠」というタイトルになります。

この作品の舞台はロサンゼルスから北東へ200kmほど行った山間部の田舎町ですが、面白いのはこの作品を元にして、舞台を北海道に置き換えた映画「愛を積むひと」が、朝原雄三監督、佐藤浩市、樋口可南子などの出演で2015年に製作・公開されています。

ストーリーは、田舎で隠退生活をおくる老夫婦の物語ですが、妻のたっての希望で家の周囲に石造りの塀を作って欲しいと以前から頼まれています。妻の実家にあった素晴らしい石塀が忘れられず、そのためです。

しかし妻には心臓に病気があり、もう長くはないことがわかります。そこで老体にむち打って近くの川から石を運び、積んでいく作業をしていきますが、近所の人は「風変わりな石積み男」という名前を付けます。

老夫婦と近所に住む少女とは知り合いになりますが、そのボーイフレンドとその友人が問題児で、塀を壊したり倉庫に落書きをしたりと嫌がらせをし、さらには主人公の老人を突き飛ばして重傷を負わせます。

果たして石積みの塀は愛妻が存命中に完成するのか?という流れで佳境に入っていきます。

原題の真珠とは、まだ若くて稼ぎが少なかった頃に妻に買ってあげた不揃いの真珠を妻はいたって気に入っていて、亡くなる時にも身につけていたものです。

しかしその真珠も悪ガキに盗まれてしまいます。そちらの行方も気になりますが読んでからのお楽しみということで。

ちょっと夫婦間の愛情にしては度を超した粘着質過ぎて、特に日本人には受け入れられそうもないですが、欧米の仲の良い夫婦だとこういうこともあり得そうです。

そして、妻を亡くした後、生きる気力をなくした主人公の復活は?ということがラストへの感動を呼ぶことになります。

★★☆

            

世論調査の真実(日経プレミアシリーズ) 鈴木督久

世論調査の真実
2021年に発刊された新書で、著者は日経リサーチの方です。特に新聞社の世論調査について知りたかったので読んでみました。

テレビ局はその系列の新聞社がおこなった世論調査を引き合いに出すことが多いですが、最近は各社の世論調査を並べて出す傾向にあるようです。

それぞれ世論調査の結果に違いが出るのは、調査対象者の選び方や、調査方法(固定電話や携帯電話、街頭インタビューなど)、調査の質問内容(仕方)、そしてその結果概要のまとめ方にそれぞれ差が出ると言うことがわかりました。

個人的には、一般紙は朝日新聞、仕事をしていたときにはプラスして日経新聞を購読していましたが、どうしても世の中の動きは、ネットがない時代にはテレビはあまりみないので、その狭い情報の中だけに長くとどまっていました。

しかしなにかで朝日新聞の調査と読売新聞の調査では大きな乖離があることに気がつき、同じ大新聞社でどうしてこんなに結果が違ってくるのだろう?と不思議でした。

そういう意味では、比較的中立的と思われる通信社(時事とか共同など)の調査はというと、それもあまり確かなものとも思えず、実際的に自分に調査の電話がかかってきたことはなく、本当にどこまでちゃんとやっているのかという疑惑もあります。

やっているほう(マスコミ)は真剣にやっていても回答者がいい加減に返答しているケースもあり、なかなかこの世論調査というものは昭和時代ならともかく現代では信用がおけないものへと変わってしまったなという感想です。

★★☆

【関連リンク】
 7月前半の読書 メルカトルかく語りき、新聞という病、臨床真理、釧路湿原殺人事件
 6月後半の読書 鍵のない夢を見る、悪しき正義をつかまえろ、ふなうた、大量廃棄社会
 6月前半の読書 四つの署名、牛の首、残酷な進化論、盤上の夜


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EVの普及について考える 2024/8/10(土)

1798
久しぶりにEV電気自動車の普及について書いてみます。

リーフ 世界を見ると、IEAのデータでは2023年の自動車の新車販売においてBEV(純電気駆動)とPHEV(EV駆動が主のハイブリッド)を足した台数の割合は18%になっています。

2022年が14%、2021年が9%だったことからすると着実にEVの割合は増えていますが、意外とその増加は当初の予想より緩やかに見えます。

EV(BEVとPHEV)の普及率が高い国(2022年時点)は、ノルウェー(88%)、アイスランド(70%)、スウェーデン(54%)など北欧諸国が上位5位までを占めていて、続いてドイツ(31%)や英国(23%)など欧州勢が占めています。(出典:Global EV Outlook 2023)

そのような中で日本のEVの普及率はわずか3%ほどで、主要国の中ではもっともEV化が遅れている国と言えます。

その理由は、国内販売の約半分のシェアを持つトヨタが、内燃機関で駆動するハイブリッドエンジン車(駆動が内燃機関とモーターの2通り)を販売戦略のメインとしているためで、それらのクルマが世界基準ではEVの範疇に入ってこない点が大きいでしょう。

しかし日本の自動車メーカーの主顧客は北米や欧州などで、国内販売はグローバルの販売全体の20%にも満たず、国内の事情よりも世界の動向を見ながら車作りをしていかなくてはなりません。

今は最大の輸出先の北米が、まだ欧州や中国ほどEV車に積極的でないことから、EVにカウントされないハイブリッドエンジン車でお茶を濁していますが、いずれは安価なバッテリーの調達や充電インフラの遅れなど国内事情がどうあれ、この10年ほどでEVばかりのラインナップにせざるを得なくなるでしょう。

その他、トヨタと同様海外輸出がメインとなっているホンダはEVシフトを早くから宣言していますが、最近ちょっと風向きが変わってきています。

“脱エンジン”戦略のホンダ、EV販売失速で見直す?幹部が回答(日経XTECH)
2040年までに新車販売の全てを電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする。ホンダが“脱エンジン”の電動化戦略を発表したのは2021年4月のことだった。
この3年間で、自動車業界を取り巻く環境は大きく変わった。EVシフトは減速感が漂い、中国市場は冷え込む。それでも、ホンダ執行役で最高財務責任者(CFO)の藤村英司氏は「戦略を変えずに推進していく」と2024年2月8日に開いた2023年度第3四半期(2023年4〜12月期)の決算会見で語った。

私の場合は、クルマにあと10年乗れるかどうかという「ガソリンエンジン逃げ切り世代」なので、10年後のことはどうなっても構わないのですが、現状では国内でのEVの普及に様々な障害があることを理解しています。

日本に住む世帯は、一戸建て住宅と集合住宅がほぼ半々です。そして年々共同住宅の割合が増えています。

ちょっと古いデータしかないのですが、10年でそう大きく変化しているとは思えませんので引用します。

総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査
戸数 割合 割合
一戸建て 28,599 55% 3大都市圏 45%
共同住宅 22,085 42% 3大都市圏 52%
長屋 1,289 3% 3大都市圏 2%

一戸建て住宅の場合、すべての住宅敷地に直接電源をひくことができる専用の駐車場があるわけではありませんが、仮に全戸にあるとします。

同様にマンションやアパートなどの場合、新しい高級マンションでは専用のEV充電設備が備わっていることもあるでしょうけど、ほとんどないので仮に全部ないとします。

つまり、日本国内で、自宅でEV充電が可能な人(世帯)はざっくり半分です。

自宅で充電できない人がEV車を買うという想像は今のところできません。例えばマンション住まいの自営業の人が毎日通う店や事務所で充電できることはあるでしょうけどレアケースです。

したがって、新車販売台数のうち商用車を除きEV車が売れるのはどんなに頑張っても一戸建ての専用駐車場がある半分のユーザーで、その半分の人も価格や好み、充電設備設置の難しさでEVを積極的に選択するとは限りません。

EVが新車販売数の半分以上にするためには、EV購入で大きな補助金がもらえるとか、自動車税が恒久的に大きな差がつくとか、メーカーがガソリンエンジン(ハイブリッド含む)車をほとんど販売しなくなるか、ガソリン価格が今の2倍以上に上昇するとか、ガソリンスタンドが大きく減りかなり遠くへ行かないと給油ができないとかでしょう。国の施策や民間企業の(やむを得ない)戦略としてはどれもありそうです。

北欧のように新車販売台数の7割、8割にするためには、古い集合住宅の駐車場を含め、半強制的にEV充電設備を新たに設置する法律でも作らない限り、日本の住宅事情を考えると相当に難しそうです。

また、もしすべての集合住宅に設備を作ったとしても充電の順番待ちや、充電しっぱなしで動かさない人がいたりして住人同士のトラブルが頻発しそうです。ほとんどEVが普及していない現在でも、行楽シーズンのサービスエリアでは充電の順番待ちの長い行列が各地で発生しています。

それよりも、毎日使っても1週間ぐらいは充電が不要(想像するに満充電で実質500km以上が走行可能)か、充電時間が数分で終わるような画期的な大容量高性能バッテリーが登場するのを待つ方が、古い集合住宅全部に充電設備を作るより可能性がありそうです。

もう一つのEVである日本の技術が進んでいる水素発電でモーターを駆動するFCV(燃料電池車)の可能性も期待したいところですが、価格や水素の供給体制など様々な問題が山積みで、昔の日本独自規格の携帯電話のように世界基準にはならずガラパゴス化してしまう可能性もあります。

【関連リンク】
1726 出遅れた日本のEV戦略は巻き返せるか?
1664 EVの出先での充電について
1617 2021年の車種名別販売ランキングとEV化


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8月前半の読書と感想、書評 2024/8/17(土)

1799
午後二時の証言者たち(幻冬舎文庫) 天野節子

午後二時の証言者たち
著者の小説を読むのは、2013年と2016年にダブって購入した「氷の華」以来2作品目です。本作品は、2016年に単行本、2017年に文庫で出版されています。

主人公がいないと言える珍しい小説で、視点が次々と変わっていきます。

内容は八歳の女児が交差点でクルマにはねられ死亡し、事故を起こしたドライバーと弁護士、事故を目撃した主婦、救急車の受け入れを断った医師とその愛人、断ったことをよく思わない病院の看護師、そして殺人事件を追う刑事が複雑に絡んでいきます。

8年前に起きた交通事故とはいえ、それと関係がある人間が続けて殺害されたことがわかれば、犯人は容易に想像がつきそうですが、すぐにアリバイなどを調べるために引っ張ることはせずに泳がすという手法はちょっと考えられず、そのせいで最悪の結果へつながっていきます。

子供を理不尽な事故で亡くした親というのは、果たして何年もかけてその復讐を果たそうとするのか、現実的なのかわかりませんが、小説の題材にはよく使われていそうです。

ミステリーと言うには謎はほとんどなく、なにか淡々と進んでいく小説でした。

★★☆

            

囁き男(小学館文庫) アレックス・ノース

囁き男
英国生まれの著者はこの作品がこの名義では実質的な作家デビュー作となります。というのは別名ですでに数作品(日本語翻訳版はなし)の実績があるそうです。また同姓同名のアメリカの映画音楽などの作曲家(故人)もいますが関係はなさそうです。

本作品は英国で2019年に発刊され、日本語翻訳版は2021年に文庫で出版されています。

ジャンルとしてはスリラーサスペンスで、主人公のシングルファーザーとその息子が引っ越し先で20年前に起きた子供の連続誘拐殺人事件を彷彿させる事件に巻き込まれていきます。

すでに20年前の事件の犯人は捕まり終身刑で収監されていますが、それと同様な事件が発生し、地元の人たちを震え上がらせています。

警察は若手で野心がある有能な女性警部補を責任者に指名され、20年前に事件の犯人を突き止め逮捕しながらも最後のひとりの被害者の遺体を発見することができず、また犯人から自白を得ようとしますが軽くあしらわれ、やがて酒浸りとなり家庭も壊してしまった警部補と一緒に犯人を追うことになります。

「20年前の事件」、「殺されたと思われる子供の被害者の遺体が発見できない」とくれば、もうこれはその殺されたと思っていた子供が大人になって過去のトラウマから・・・というイメージがすぐに浮かびましたがそれはなかったです。

それよりも、20年前に子供の連続誘拐殺人事件を捜査し解決に導いたものの、その後の人生が狂ってしまった中高年の警部補と、主人公のシングルファーザーの関係が意外で「そうきたか」という感じです。

ただ、主人公のシングルファーザーも中高年警部補も、くよくよ悩んでばかりいて、小説では珍しいぐらい弱い男性のオンパレードです。

最後は主人公の親子は救われますが、今回も犯人逮捕へ導きながら犯人の刃に倒れてしまうという半分だけハッピーエンドで終わります。ネタバレごめん

★★☆

            

月の満ち欠け(岩波文庫的) 佐藤正午

月の満ち欠け
著者の小説を読むのは「夏の情婦」以来2作目です。本作品は2017年上半期の直木賞を受賞しています。

2017年に単行本、2019年に文庫が出版されていますが、珍しいなと思ったのはその両方とも岩波書店からの出版です。

というのも、過去に読んだ岩波文庫では「論語」や「カンタベリー物語」「福翁自伝」「失楽園」「フィッツジェラルド短編集」「君たちはどう生きるか」「思い出袋」など、古典か教育的なお堅い文学ばかりで、こうしたミーハー(失礼!)小説は初めてです。岩波も変わったってことでしょうか?

さて、このファンタジー小説では、主人公と言える人物や視点が定まってなく、その都度登場人物や視点が変わっていきます。それだけにちょっと登場人物が多く、その関係もややこしいです。

タイトルは月が新月で消えてしまってもまた徐々にその姿を現していくという、仏教で言えば輪廻転生を家族愛と恋愛小説に置き換えたものと考えて良いでしょう。

ストーリーは、、、やや複雑なので読んでみてください。賞もとっていますから読んで損はない小説です。

しかし、雨宿りのために軒先を借りたレンタルDVD店のアルバイトに一目惚れで恋しちゃう人妻がいたりするのもあり得ねぇ-と思ってはしまいますが、そういう深い人間関係が続かないと物語は紡げませんからね。

2022年には廣木隆一監督、大泉洋、有村架純などの出演で映画が製作されていますが、小説よりは少し短縮されているそうです。

★★☆

著者別読書感想(佐藤正午)

            

仕事がなくなる!(幻冬舎新書) 丹羽宇一郎

仕事がなくなる!
今年85歳になりますがまだまだ意気軒昂で様々な仕事をされている著者の2023年に発刊された新書です。著者の新書は過去に「人間の本性」を読んでいます。

個人的には、70歳過ぎたらいい加減ビジネスの現場からは足を洗うべきというのが持論ですが、多様化、長寿命化の現在ではこうした85歳でもバリバリ現役で活躍されるのを否定するわけではありません。

しかし実質的に70歳過ぎたら周囲の声はあまり入ってこなくなり(聞こえなくなり)、自己満足と周囲に集まってくる可愛がっているYESマンが、チヤホヤしてくれて、「求められているんだから、引退なんかまだまだ」と、都合良く勝手な解釈をしている政治家や経営者のなんと多いことでしょう。

言うまでもなく著者は、元伊藤忠商事で叩き上げの社長や中国大使を歴任されてきたエリートで、数多くのビジネス書や指南本を書いておられます。

内容は、この著者は聖人君子か?と思うような良いことがあれこれ書かれていますが、競争の激しい総合商社で鍛えられた著者がそうそう清らか一辺倒で世の中を渡ってきたとはとても思えず、それらの汚れは歳をとると同時に薄まってしまい、記憶に残っているのは清らかな栄光ばかりなのかなとうがって見てしまいます。

しかし、人生の成功者?の話を、しかもジョークのようですが、85歳が考えるAIテクノロジーによる仕事への影響の話を聞く(読む)のは悪いことではなく、話半分ぐらいにして流しながら読むのが良いでしょう。

★☆☆

【関連リンク】
 7月後半の読書 少年たちの四季、砂上、石を積む人.、世論調査の真実
 7月前半の読書 メルカトルかく語りき、新聞という病、臨床真理、釧路湿原殺人事件
 6月後半の読書 鍵のない夢を見る、悪しき正義をつかまえろ、ふなうた、大量廃棄社会


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人口減少と外国人増加により影響 2024/8/24(土)

1800
総務省が先月、2024年1月1日時点の人口統計を発表しましたが、予想されていたとは言え衝撃的な内容となっています。

詳しくは、
日本の人口 1億2488万人 去年より約53万人減 外国人は過去最多(2024年7月24日 NHK)
2024年1月1日現在の日本の総人口は1億2488万人余りで、前の年よりおよそ53万人減りました。日本人の人口が15年連続で減少した一方で、外国人の人口は初めて300万人を超え、過去最多となりました。
外国人を除いた日本人の人口は、1億2156万1801人で、2023年の同じ時期と比べて86万1237人、率にして0.7%減りました。調査を始めた昭和43年以降、減少数・減少率ともに最大となりました。日本人の人口は平成21年の1億2707万人をピークに15年連続の減少となりました。
(中略)
国内に住む外国人の人口は、332万3374人で、前の年より32万9535人、率にして11.01%増えました。外国人の人口は、調査が始まった平成25年は200万5731人でしたが、今回の調査では332万3374人と、1.66倍に増加し、初めて300万人を超え、調査を始めた平成25年以降最多となり、増加数・増加率も最大となりました。

日本地図
つまり日本に入ってきた外国人の増加があるので表向きはやや薄まってはいますが、実質的な日本人の減少は86万人で、戦後過去最大の減少です。

9年前の2015年は24万人、5年前の2019年は46万人の減少と年々減少数は拡大しています。

外国人はそのまま日本に永住する場合と、学校や仕事のため一時的に日本に在住し、いずれは帰国するケースがあるので、増加数としてカウントするのはどうかと思いますが、この数332万人は、日本の総人口の2.7%にあたり、ドイツの27%、アメリカや英国の14%、フランスの13%などと比べるとまだまだ極めて少ない割合で、世界で最も移住や難民申請しにくい国のひとつです。

日本の人口の減少数86万1237人というのは、わかりやすく言えば、佐賀県(79万人)や山梨県(80万人)、都市では大阪府堺市(81万人)、静岡県浜松市(78万人)あたりが1年で消滅してしまうというインパクトがあり、それが毎年増大し、繰り返されていきます。

さらに日本の少子化の影響で、公立学校(小・中・高)の廃校数は2002年から2022年の20年間で8,580校もあります。単純に20年で割ると年間平均429校が閉校されていることになります。

8,580校のうち、公立小学校の廃校数は20年間で5,678校ですが、これは全国の公立小学校数18.669校(令和5年度)の30.4%に相当します。つまりこの20年間で1/3近くが廃校になったわけです。

そうすると児童や生徒数が減少し閉校した公立学校は近くの学校と併合されるケースがほとんどで、集約されることで教師や設備などの効率化が図られているはずです。

それなのに「教師の数が足りない」とあちこちから聞こえてくるのは、なにかがおかしい(間違っている)気がします。

確かに教師の高齢化とその多く採用された世代の大量退職などにより、また魅力のない教員のなり手不足などで教員数は減っていると思われますが、そのなにかを解決しない限り教師の数を例え増やしても「足りない!」の大合唱は当分続きそうです。

 ◇   ◇   ◇

外国人の増加で気になるのは、マスコミが報道する犯罪において外国人が絡んでいることを盛んに強調することです。

本当に外国人犯罪は増えているのでしょうか?

外国人の犯罪率は本当に高いのか?国別、在留資格別に徹底検証(2024年1月29日 Divership)
令和2年度における外国人全体の検挙人員は9,529人で、このうち、来日外国人は5,634人、その他の外国人は3,895人となっています。令和2年度の検挙人員総数が18万2582人であることから、外国人の犯罪率は全体の5%しか占めていないことが明らかとなっています。
ちなみに令和2年度末の時点で来日外国人はだいたい170万人ほど、永住者などは120万人ほどいますが、どちらも割合としては0.3%程度が検挙されたことになります。日本に住む日本人で計算すると、日本人の検挙人員はおよそ18万人程度なので、その割合は0.2%程度です。来日外国人・その他の外国人の0.3%程度は若干高いと言えますが、明らかに多いとは言えない差です。

マスメディアが飛びつく「高齢者の交通事故が増えている」も同じですが、高齢者の絶対数が増えれば高齢者の交通事故件数が増えるのは当たり前のことです。見るべきは割合で、高齢者の交通事故割合は他の年代層と同じく何年も大きな変化はありません。

冷静に考えれば在日外国人の犯罪率もそれと同じで、来日外国人数が急速に増えてきたので件数自体は増えることになりますが、外国人が起こす犯罪率は過去と比べてほとんど変わっていないことに気がつくはずです。

しかしマスメディアは、「高齢者の交通事故」や「外国人の犯罪」が増加していることばかりを強調することで国民の興味と注意を引くことをよく知っていて、それを狙って集中して大げさに報道します。

特に「外国人の犯罪が増加」は、保守的な日本人の偏った愛国心を高め、すっかり世界の中では落ち目となってきた経済や外交の中で、「日本人は誠実で優秀」という根拠のない幻想を声高に言うことで読者や視聴者に心地よい報道をするのにもってこいで、国民の自尊心を高めると同時に排他的な感情を植え付けています。

それがやがてはよその一部の国で露わとなっている自国優先主義や無用に国民の対立をあおるファシズム的な大きな流れに結びつかないことを願っています。日本はそれで80年前に痛い目をしていますが、痛みを忘れ、薄れてきた今、再びそのようなことが起きないとは限りません。

【関連リンク】
1637 死刑制度と犯罪人引き渡し条約
914 殺人事件の国際比較
850 少年犯罪は増加、凶悪化しているのか?


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8月後半の読書と感想、書評 2024/8/31(土)

1801
獅子吼(文春文庫) 浅田次郎

獅子吼
「獅子吼」「帰り道」「九泉閣へようこそ」「うきよご」「流離人」「ブルー・ブルー・スカイ」の6篇の短篇作品を収録した2016年(文庫は2018年刊)に発刊された短編小説集です。

タイトルにもなっている表題作「獅子吼(ししく)」は、時代は太平洋戦争末期の日本で、語り手が動物園のライオン(獅子)だったりして度肝を抜かれます。

途中から畜産科で学業中に動物園でも働いたことがある男性が徴兵され軍務に就いている中、やがて戦局の悪化にともない動物園の猛獣の射殺を命令されます。実際に、全国各地の動物園でも餌の不足とともに、空襲などで檻から逃げ出すリスクを避けるために動物たちを殺していました。

そうした悲しい歴史とともに、動物の王者としての威厳を守ろうとするライオンの創造的な意志を言語化した珍しい作品です。

その他では、東京大学の入試を受けるつもりが学生運動のため入試が中止となり、1年浪人生活をおくるため都内の格安アパートへやってきた私生児の男性が主人公の「うきよご」、ひとりで旅行中に老人が話しかけてきて戦争中に命令に従わずあちこち旅をしていた将校のおかげで死なずに済んだという話の「流離人」など、面白く読めました。

ただいつも思うのは、著者の作品は長編小説こそ輝いていますが、短篇作品はどうも当たり外れというか、全体的に長編の合間の少ない時間で編集者に拝み倒され無理矢理書かされている?っていう売れっ子作家さんの悲哀を感じるときがあります。

★★☆

著者別読書感想(浅田次郎)

            

弔いのダマスカス(ハーパーBOOKS) デイヴィッド・マクロスキー

弔いのダマスカス
元CIAの分析官だった著者のデビュー作で、2021年にアメリカで出版、和訳版は2023年に文庫で出版されました。

国際的に活躍するスパイを取り上げた小説は数知れないですが、こちらもその例に漏れず、中東の地でスーパーマン的な活躍をします。主人公ですからどれだけピンチに陥っても死なず安心して読んでいられます。

そのアメリカのスパイが活躍するのは、中東シリアの首都ダマスカスです。

化学兵器を開発製造しているのではとダマスカスで調べていたCIAの担当官が二人捕まり殺害されます。実際にシリアでは2013年に反政府軍に対しサリンを使った攻撃をしたという歴史があります。

その復讐と化学兵器の保管場所を突き止めて打撃を与えるというのが主人公の役目で、まずは政権内部にいながらも現政権に不満をもっている女性職員をスパイとしてスカウトし、様々な連絡方法を駆使し情報を集めていきますが、シリア政府も友好国のロシアやイランとタッグを組んでCIAの活動を見張り次々と対抗策を打って出ます。

違法活動が明らかとなった大使館付きのタフなCIAエージェントを生きたまま捕まえるために、シリア側がたった3人の弱い民兵を送り込んで失敗するなど、あり得ない点は数々ありますが、エンタメ性は十分で、そのうち映画化されても不思議ではないでしょう。

しかしこれほど中東の国や軍は極悪非道で、暗殺すべき相手は、捕虜を殺して頭の皮をはぐのが趣味の軍人や、ペドフィリアの軍幹部な、暗殺時には巻き添えで他人に傷つけないのが必須の条件など、徹底して勧善懲悪を貫いています。現実的にはそんなわけなかろうと思いますが。

尾行のまき方、連絡の取り方、要人暗殺の方法、スパイのスカウトの仕方など細かいCIAのうんちくが満載で、ただし事前にCIAにオープンにしても構わないとお墨付きをもらっているので実際の方法とは違うということになりますが、それらの退屈な部分が長々と続き、特に前半は一向に先へ進まず読むのを断念しようかと何度も考えました。

そうした部分を過ぎて後半でようやく物語は動き出し、一気にクライマックスへとなだれ込んでいきます。

中東でも、イランやイラク、イスラエルなどの話はよく見たり聞いたりしますが、シリアという国は日本との関係が薄くあまり知られていません。そうした知らなかったシリアのことを知るには、敵対するアメリカ人視点ですが少しだけ役立ちそうです。

★★☆

            

キンモクセイ(朝日文庫) 今野敏

キンモクセイ
2018年に単行本が出版された本著は、著者のデビュー作からなんと199作品目ということです。それにしても多作な作家さんです。

しかし過去に読んだ作品からは手抜きや使い回しって感じのものはなく、本著もかなりの力作と思いました。

シリーズ物が多い中で、本作品は単独のもので、主人公は警察庁警備局警備企画課所属のキャリア採用の官僚です。警備局とは主に公安事案を扱うので戦前で言えば特高のような組織に当たります。

そんな中で、法務省官僚が何者かに射殺され、その対処を指示されながらも、なにかの力が働きすぐに解散となり、なにか裏がありそうだと先輩官僚や、同期で他の省にいる官僚仲間達と調べ始めます。

そこで出てきたのがタイトルにもなっている「キンモクセイ」というワードで、そのワードに込められた秘密を知ったことで法務官僚は殺されたのではとわかってきます。

しかしこうした官僚達が今の日本を動かしていることは頭では理解していても、こうして例え小説とは言え内輪の話を読むと複雑な気持ちになってきます。

それは決して「主権たる国民のため」というよりも、省益や利権、自己保身、エリート意識(プライド)など、下々の庶民には遠い世界で自分たちに都合良く国を動かしているに過ぎないのかな?ということです。

本著でも触れられていますが、恣意的な運用が可能な「特定秘密保護法」や「改正組織犯罪処罰法」「共謀罪」などは、平和で何も起きていないときには無視できるものでも、それこそなにか国に非常事態が起きたり、政治家や官僚にまずいことが発生して隠したいときには、これらの法律が国民の行動や声を封鎖する威力を発揮することになります。

フィクションとは言え、なにか国民の知らないところで政治家や官僚の都合が良いように法律が変わっていくという不気味さを感じられる小説でした。

★★☆

著者別読書感想(今野敏)

            

絶唱(新潮文庫) 湊かなえ

2015年に単行本、2019年に文庫化された連作短篇小説集です。短編4編のタイトルは「楽園」「約束」「太陽」「絶唱」です。

この4篇に共通するテーマが、南太平洋にあるトンガ王国と阪神淡路大震災の記憶で、これは著者の作家になる前の体験(著者は震災当時震源に近い西宮に住んでいたことや、その後海外ボランティアでトンガで教師をしていたことなど)が反映されているものと思われます。

文庫の帯には「号泣ミステリー!!」と書いてありましたが、涙はまったく出ず、ミステリーというような感じもしませんでした。読み込み不足なのか、それとも感情の動きがにぶいのか?わかりません。

ただすでに30年近くが経とうとしていて記憶が薄れてきている阪神淡路大震災の当時を忘れることができず、多くの大切な人や身近な人を失ったり、人生が狂わされた記憶を引きずっている人はまだ多くいるのだろうと想像できます。著者もそのひとりなのでしょう。

少し前まで、東日本大震災関連の小説を選んで多く読んできましたが、同じ震災でもやはり身近で起きて実感のある震災の方が時間を重ねても忘れられないのだろうと思います。

関西在住の作家さんが少ないのか、こうした阪神淡路大震災をテーマにした小説は意外と少なく、横山秀夫著「震度0」や、東野圭吾著「幻夜」、あと宮本輝著の小説で震災の記憶が時々出てくるぐらいのものしか読んでいません。

著者もこの震災をテーマにした小説を書くことに長くためらいがあったようですが、実体験を元にした震災と、それによって起きる人の生活の変化や関係性を考えさせられるものでした。

★★☆

著者別読書感想(湊かなえ)

【関連リンク】
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 7月後半の読書 少年たちの四季、砂上、石を積む人.、世論調査の真実
 7月前半の読書 メルカトルかく語りき、新聞という病、臨床真理、釧路湿原殺人事件

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