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日記INDEXページ(タイトルと書き出し部の一覧)はこちらです
1854 8月後半の読書と感想、書評 2025/9/6(土)
1855 終活の一環で蔵書を処分することにした 2025/9/13(土)
1856 9月前半の読書と感想、書評 2025/9/20(土)
1857 年金と必要な老後資金の実態 2025/9/27(土)



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8月後半の読書と感想、書評 2025/9/6(土)

1854
エアー2.0(小学館文庫) 榎本憲男

エアー2.0
7月に読んだ「巡査長 真行寺弘道」と同じ著者の作品で、2015年に単行本、2016年に文庫化された長編の近未来経済サスペンス小説です。

2025年7月前半の読書と感想、書評(巡査長 真行寺弘道)

2020年東京オリンピック開催以前の東京や、原発事故で帰宅困難地区がある福島が舞台となっています。

肉体労働者の青年が新国立競技場の建設工事で、他の労務者からイジメに遭っていたパッとしない老人と知り合いになります。

しかしその老人は、あとでその謎が明かされますが、自ら最先端の市場予測システムを開発していて、それをその老人の指示に従って政府へ売り込み、莫大な資金を得ることになります。

そこで青年は得た資金を、青年の出身地で原発事故で立ち入りが規制されている福島のエリアを国に特別自治区に指定してもらい、そこに新たな起業家に投資し、福島の復興計画をスタートさせます。

東日本大震災や原発事故をテーマにした小説はいくつか読みましたが、これは新しい切り口で、しかもSF的な要素もあり面白いです。

タイトルはその完全な市場予測システムの名称で、ソフトウエアとハードウェアがセットになったモノという立て付けです。

原発事故で壊滅した地域を再興するために、原発でしか得られない莫大な安定した電力が必要なシステムという組み合わせがなかなか矛盾をはらんでいてユニークです。

2024年には、弱点を克服しスケールアップした続編の「エアー3.0」が出版されています。

★★☆

著者別読書感想(榎本憲男)

            

警告(上)(下)(講談社文庫) マイクル・コナリー

警告
著者の作品には、刑事「ハリー・ボッシュシリーズ」や、弁護士「ミッキー・ハラー シリーズ」が有名ですが、本作は記者の「ジャック・マカヴォイシリーズ」に属する作品で、「ザ・ポエット」(1996)、「スケアクロウ」 (2009)に続き11年ぶりの3作目です。

原題は「Fair Warning」で、2020年に米国で出版され、2021年に和訳版が出版されています。直訳すると「真っ当な警告」と、タイトルはほぼ直訳ですが、もうひとつ、主人公の記者が在籍する実在するアメリカの消費者問題を扱うWEBニュースサイト「Fair Warning」社そのものをタイトルに使っています。

文庫のあとがきで知りましたが著者はこのニュースサイトの取締役でもあり、社長は実在の社長の名前を使っていることから、このサイトのPRにもなっているのでしょう。うまいやり方です。

このニュースサイトは刑事事件を追いかけるようなメディアではありませんが、そこの記者として勤めている主人公が、過去に一夜を共にしたバーで知り合った女性が殺されたことから参考人として刑事の訪問をうけ、その事件を調べると連続殺人の可能性があることを発見します。

ユニークなのは、犯罪事件で画期的な捜査手法となっているDNA検査の盲点や、それを民間企業が利用する場合に規制する法律などがなく、犯罪者にとっては利用価値のあるものというストーリー展開で、新鮮な切り口で楽しめました。

ハリー・ボッシュシリーズの中でも時々登場し、この小説でも大きな役割をする元FBI捜査官のレイチェル・ウォリングや、ハリー・ボッシュの元妻の元FBI捜査官だったエレノア・ウィッシュなど、主人公のロマンス相手として女性FBI捜査官を登場させるのが著者はお好きなようです。

★★☆

著者別読書感想(マイクル・コナリー)

            

日本史の探偵手帳(文春文庫) 磯田道史

日本史の探偵手帳
2004年から2016年頃までに文藝春秋などで発表したエッセイ等を、

第1章 中世の武士と近世の武士の違い
第2章 歴史を動かす英才教育
第3章 古文書を旅する
第4章 歴史を読む

の4章にまとめたもので、2019年に文庫として出版されました。

歴史として定番と思っていたことや、時代劇映画などでよくあるシーンなどにも、歴史学者の目からはまた違った解釈や、あり得ない間違いと思うことがよくあるそうです、

例えば、ドラマなどでよくあるシーンとして、商人が、奉行や代官など役人に賄賂として金の小判を手渡すシーンがありますが、小判25枚を紙封した封金は、現在の価値に直すと750万円、菓子折の下に敷き詰めた小判は3億円にもなるそうで、そんな大金の賄賂をやりとりできるはずがないとか。

江戸時代の税金は基本が米で納める年貢だけなので、商売やその他で得られた収入には税金がかからないので、農民でも米以外の作物を作り、収入の道はいくらでもあったとか。一番貧乏なのは物入りも多い下級の侍という話など面白く読めます。

もっともそうした知識は、仕事の役にたったり、生きていく上で必要なモノではありませんが、日本の歴史の教養のひとつとして味わえます。

また最終章には、「日本と日本人を知る100冊」として著者お勧めの書籍があげられています。

★★☆

著者別読書感想(磯田道史)

            

あなたならどうする(文春文庫) 井上荒野

あなたならどうする
2017年に単行本、2020年に文庫化された1作のオリジナルの歌詞と9作の懐かしい歌謡曲をモチーフとした短篇集です。

収録作は歌詞だけの「人妻ブルース」、あとは短編小説で「時の過ぎゆくままに」、「小指の想い出」、「東京砂漠」、「ジョニィへの伝言」、「あなたならどうする」、「古い日記」、「歌いたいの」、「うそ」、「サルビアの花」です。

最初の「人妻ブルース」以外は実際にある60歳以上には懐かしい昭和歌謡曲のタイトルです。

若い人には馴染みがないと思われるので、タイトルになった曲の歌手と発売年を書いておきます。ほとんどが昭和40年代の曲です。

時の過ぎゆくままに 沢田研二 1975年
小指の想い出 伊東ゆかり 1967年
東京砂漠 内山田洋とクール・ファイブ 1976年
ジョニィへの伝言 ペドロ&カプリシャス 1973年
あなたならどうする いしだあゆみ 1970年
古い日記 和田アキ子 1974年
歌いたいの 山崎ハコ 1975年
うそ 中条きよし 1974年
サルビアの花 早川義夫 1969年

短篇はそれぞれ歌詞をモチーフにしていますが、直接関係はなく、著者の創造力とイメージで書かれているようです。

「ジョニィへの伝言」などはわかりやすく、ジョニー大倉に似た彼氏と、二人でふるさとの町を出て行く予定だったのが、約束の時間になっても彼が来ず、ひとりで東京へ向かう主人公の話など。

一般的には小説中に歌詞を入れるのはJASRACへの使用料が発生するので出版社は嫌がりますが、そうしたことを超越して9作の歌詞が堂々と掲載されていて、編集者をきっと慌てさせたことでしょう。

こうして昭和時代の歌詞とそれをモチーフにしたドラマを並べると、その多くがベタベタした男と女の愛と別れの哀愁を歌い上げたものが多かったなぁという印象です。

もっとも数多くある中から著者自身がこれらの昭和歌謡を選んだわけなので、わざとそういう内容の歌詞を選んだとも言えますが、こういうモチーフの使い方、選び方は小説としては斬新で面白いです。

★★☆

著者別読書感想(井上荒野)

【関連リンク】
 8月前半の読書 卑弥呼の葬祭、大名倒産、オーパーツ死を招く至宝、給食のおにいさん
 7月後半の読書 ドリアン・グレイの肖像、悪い夏、東京自叙伝、ジヴェルニーの食卓
 7月前半の読書 犬はどこだ、巡査長 真行寺弘道、罪責の神々 リンカーン弁護士、日本史を暴く 戦国の怪物から幕末の闇まで


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終活の一環で蔵書を処分することにした 2025/9/13(土)

1855
本棚自宅には学生時代の頃から読んできた3千冊を超える蔵書があり、ひとつの部屋にはロフト部分を含めて書棚を並べビッシリと本を詰め込んでいました。

しかし、しかし、あまりの重さで床が抜けるんじゃないかという不安と、大きな地震が起きたときには天上付近まで積み上げられた書棚と本が倒れてきて大きな被害を受けるんじゃないかと心配でした。

さらに60代も後半となり、後顧の憂いなきよう、残った家族が困る大量の蔵書の処分を含む終活も考えなければと思い、まずは蔵書を思い切って半分以下、できれば1/3の千冊ほどに減らそうと決意しました。

NHK Eテレの番組「心おどる あの人の本棚8 京極夏彦」を見ていたら、「一度買った本は手放さない」「この本と一緒にいたいという気持ちが奇跡を生むこともあるんです」「書籍はインテリアじゃない、書籍は取りやすく整理整頓されていることが大事」「なぜ本を捨てる?増えすぎたから捨てるという選択肢は最初からない」という京極夏彦氏の言葉が胸に刺さりますが、書籍がライフワークで飯の種の方とは違い、狭い家に住む年金生活者は背に腹は代えられません。

効率を最優先にする人には「本なんて読めばすぐに捨てればいいだけ」という人もいますが、私は書籍には深い愛着と著者に対してのリスペクトがあり、資源ゴミの日に、ひもでくくってまとめて出してしまうという割り切ったことができません。

そこで少しでも納得がいく方法で処分しようと、あまりに安直で一般的ですが古書買い取りに出すことにしました。

古書買取では、売れそうな書籍は業者が値段を付けて新たな読者へ提供されることで有効な再利用ができます。

売れそうもない書籍は、資料によると一部は各種施設へ寄付をするらしいですが、多くは残念ながら資源ゴミとして処分されるようです。

ただそれは私の目には入らないところでおこなわれ、単に責任転嫁ですが仕方がないことです。少しでも多くの本が救出されて役立ってもらえることを願うばかりです。

まず始めたのは、一番手間が少なそうなブックオフの「宅配買取」です。

通常古本など古物を売るときには事前に運転免許証など本人確認書類の提出が必要です。

最近はオンライン上でもそうした認証と手続きがネット上で簡単にでき、ブックオフオンラインでも写真を撮って送るだけでした。

宅配書籍 本人確認の認証ができれば、あとはWeb上で申し込みをして、段ボール(2Lのお茶やミネラルウォーター6本用の頑丈でやや小さめの箱)に詰められるだけ本を詰めて送るだけです。

宅配買取には自分でコンビニなどへ段ボールを持っていく「持ち込み配送」もありますが、量がある場合は、自宅まで取りに来てもらうほうがずっと楽です。書籍は重いですから。

またブックオフの宅配買取にはタイミングを選ぶとキャンペーンとして査定価格が30%アップになる期間が頻繁にあります。

別に処分を急いでいるわけではないので、送る準備だけしておき、その時を待って申し込みをしています。

長く書棚に置いているとカバーが色あせ、ほこりがついているもの、栞代わりにメモやレシートを挟んでいるケースあるので、1冊1冊中身を点検し、アルコールを含んだウエットティッシュでカバーを綺麗にしていくので、準備に時間がかかることもあります。これは必須の作業ではありませんが、双方気持ちよく売買できると嬉しいです。

一度に段ボール3〜4箱分、およそ1箱に30〜80冊(単行本や文庫、厚さなどによって詰められる冊数が大きく変わります)詰めておき、キャンペーン期間(概ね月1回1週間ぐらい)が来れば、オンラインで申し込み自宅に宅配会社に受け取りにきてもらいます。

後日メールで、受け取ったという通知と、ブックオフオンラインのマイページでタイトルごとの買取価格が知らされ、銀行に振り込まれます。

私の蔵書のようにすべてが新刊本ではない古い書籍の場合、査定価格に大きな期待はできません。

価格が付かないものもあれば、たまに500円ぐらいの価格がつくものまで様々で、均せば概ね買取キャンペーン期間中でも1冊平均が10〜20円というところでしょう。

つまり3箱に単行本と文庫を混ぜて詰めて、150冊(1箱50冊平均)ほど送れば、キャンペーン期間(買取価格30%アップ)で2,500円ぐらいの買取価格になります。

面白いのは、「え?なんでこれがこんなに高く値段がつくの?」という本があり、例えば小説の上下巻で、上巻は7円なのに下巻が50円の買取価格がつくとか、素人には不可解なケースがよくあります。

またブックオフオンラインの中古本販売コーナーで同じ本が2,000円の値段がついているから100円ぐらいで買い取ってもらえるだろうと思っていたら10円ぐらいにしかならないとかもよくあります。需要と供給、在庫量などで様々なアルゴリズムが働いているのでしょう。

そしてブックオフの書籍買取では、裏表紙にバーコード(正確には書籍JANコード)が印刷されていないものは価格がつきません。おそらくバーコードを機械で自動的に読み取り、買取価格を判定するように効率化されているのでしょう。

このバーコードは1990年頃から印刷されるようになりましたので、学生時代の1970年代、社会人になってからの1980年代に買った書籍にはバーコードは入ってなく、ブックオフに送っても査定外になってしまうので除外しています。

バーコードのない古書ばかり残っていき「さて、困った。」と思っていたら、バーコードの付いてない書籍も買い取るという古書買取専門店が自宅の近くにあるのを発見しました。

「戦前の古書から最新刊の古本まで買取!バーコードの有無を問わず」東京書房

ただ学術書やサブカルものが得意ということで、一般的な小説やビジネス書、流行の漫画本などはあまり得意ではない(値が付かないか査定価格が安い)と言うことです。

その買い取り店も宅配買取が可能ですが、モノは試しとばかりにクルマに段ボールに詰め込んだ本をサクッと積み込み店まで運び込みました。

少数の本ならその場ですぐ査定してくれるそうですが、大量の場合は、後日査定結果と銀行振り込みという方法になります。

持ち込んだのは段ボール3箱で、単行本、新書、文庫がそれぞれ1/3ずつぐらい、およそ100冊ほどです。この店が得意という学術書やバーコードの入っていない漫画も数冊入れておきました。

その全体の中で半分ぐらいバーコードの入っていない1990年より前の古びた書籍です。果たして査定の結果は?というと、全部で500円という、一応ギリギリ想定範囲内ですが想定より低い残念な結果となりました。

やはり小説や新書はお得意ではなさそうですが、バーコードの入っていない書籍も引き受けてくれますから仕方がないです。

結果的には、1990年以降発刊の小説やビジネス書、バーコードのあるコミックなどはブックオフ、それ以外は東京書房へという古書処分方法が私の中では定まりました。

他にも「こういう方法があるよ〜!」という良い処分法や業者があれば教えてもらいたいものです。

現在のところ、ブックオフへ700冊ほど、東京書房へ100冊ほど出しましたので、およそ蔵書の1/4ぐらい減らすことができています。今年中には、2,000冊は減らす予定です。

【関連リンク】
1498 蔵書書籍3200冊のタイトル分析
1476 蔵書の著者別冊数上位45位まで
1219 2800冊の蔵書について(1)


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9月前半の読書と感想、書評 2025/9/20(土)

1856
続 高慢と偏見(ちくま文庫) エマ・テナント

続高慢と偏見
著者は1937年英国生まれ(2017年死去)の小説家で、著名なジェイン・オースティンの長編小説「高慢と偏見」(Pride and Prejudice 初版1813年)の続編という形で1993年に出版された小説です。

原題は「Pemberley: A Sequel to Pride and Prejudice」で、日本語翻訳版の単行本は1996年、文庫は2006年に出版されています。Pemberley(ペンパリー)は、小説の中に出てくる英国の架空の地域名で、上流貴族と結婚した主人公が住む邸宅がある場所のことです。

設定や登場人物などはそのままオリジナルを引き継いでいて、執筆時期や執筆者が違うという点については私は違和感はありませんでした。

高慢と偏見」は今年の3月に読みました。

2025年3月後半の読書と感想、書評(高慢と偏見)

また「高慢と偏見」の設定と登場人物を下敷きにしたホラー映画「高慢と偏見とゾンビ」(2016年)という映画も今年6月に見ています。

2025年5〜6月に見た映画(高慢と偏見とゾンビ)

今回の続編を含め、過去に3度の映画化やパロディ作品などが作られることは、それだけこの本編(高慢と偏見)が優れていて多くの人に読み継がれ、愛されているかがよくわかります。

確かに19世紀初頭の英国は世界に先駆けて産業革命などが起き、世界中の富と名声を独占し、やや傾きつつありましたが旧来からの華々しい貴族社会と、労働者のあいだの貧富の差が大きく、ドラマ作りでは面白い時代だったのでしょう。

続編では、トップクラスの貴族の元へ嫁いだ落ち目の貴族出身の娘だった主人公が、上流階級の中で様々な嫌がらせや批判を浴びつつも、奮闘する姿と、跡継ぎができないことで、莫大な遺産が当時英国で主流だった「男子単一長子相続制」のため、親戚へと移ってしまうかもというプレッシャーにさらされることなどがテーマとして語り継がれます。

ただ登場人物はほぼ「高慢と偏見」と同じで、あらためてそれらがどういう人物かという話はこの続編では出てこないので、必ず先にオリジナル版を読んでおくことと、その人物相関がまだ記憶にあるうちに読むことをお勧めします。

それができれば、オリジナルに劣らない、たいへん面白く読める作品です。

★★★

            

夢幻花(PHP文芸文庫) 東野圭吾

夢幻花
2013年に単行本、2016年に文庫化されたミステリー長編小説で、「加賀恭一郎シリーズ」などのシリーズものではない単独の作品です。

タイトルは、本作品でテーマとなる覚醒効果があるとされる黄色い花のアサガオなど、通常には存在しない草花の俗称です。

主人公は、水泳が得意で、大学時代にオリンピックを目指せるほどの能力がありながら、あることから断念した女子大生。

その女子大生の祖父が、黄色い花びらのアサガオを咲かせたあとに、何者かに殺されてしまい、それを発見したことから、事件に巻き込まれていきます。

子供の頃から私の自宅の庭でもアサガオは毎夏に母親が大切に育てていて、青や紫、赤色のアサガオを見るたびに「夏だなぁ」というお気楽な印象しか持ってませんでしたが、確かに黄色いアサガオというのは見たことがありませんでした。

実際に黄色いアサガオの種に覚醒効果があるのかどうかは不明ですが、大麻草や、コカの実、ケシの種など、麻薬や覚醒剤の多くは植物から作られるので、身近な鑑賞用の草花の突然変異でそうした作用のある実や種が発生しても不思議ではありません。

なかなか読み応えのある面白いストーリーでした。ホントにこの著者の作品には大きなハズレはないです。

★★☆

著者別読書感想(東野圭吾)

            

うれしい悲鳴をあげてくれ(ちくま文庫) いしわたり淳治

うれしい悲鳴をあげてくれ
著者は1977年生まれの楽曲の作詞活動をメインにしている方で、中孝介、土岐麻子、少女時代、布袋寅泰、Little Glee Monsterなど多くの楽曲の作詞を手がけています。著書としてはこの作品が初めてのものです。

音楽系の雑誌「ROCKIN'ON JAPAN」に2004年から2009年に連載されたものと、一部書き下ろしをまとめたもので、半分が小説、半分がエッセイという変わった構成となっています。2007年に単行本、2014年に文庫化されました。

小説はショートショートと言えるほどの短いもので、オチがあるものもあれば、ちょっと?というものも玉石混淆という感じです。

またエッセイも、小説に近そうな盛りに盛ったような内容で、すべてフィクションと思ってもそう間違っていないだろうなというのが実感です。

元々、作詞など文章を考え創造するのがお得意な方だけに、こうした短文エッセイ(ショートショート含む)はお得意なものでしょう。

小説の「密室のコマーシャリズム」は、浅間山荘事件がカップヌードルの爆発的ヒットした要因というのをうまく利用しているようで、立てこもり事件で犯人が使った粘着テープが全国に知れ渡ることになる話です。

エッセイの「殺人タクシー」は、乗車したタクシーで著者がタバコを吸おうとしたところ(昔はタクシーでタバコが普通に吸えたし灰皿もついていた)、運転手はぜんそく持ちで、大量の薬を見せられ、「タバコは死にますよ」と注意されながら、その運転手は咳き込みながらタバコを吸い始めるという話しです。

そういった話が満載で、それなりに楽しめます。

★☆☆

            

君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい(文春文庫) 浅田次郎

君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい
2011年に単行本、2014年に文庫化された様々な雑誌や広報誌などに掲載されたエッセイを集めたものです。

内容は、子供の頃の話や、祖父や父親など家族のこと、ギャンブルについて思うところ、小説家になるまでの苦労や様々な職業と多岐に渡っています。その中でもまだ未成年だった時代から続いている競馬について多くの話が割かれています。

あとはその時々に書いている小説について、その周辺事情などは映画のメイキング映像のように思い出されて楽しいです。

しかし、執筆された年月やテーマが様々で、寄せ集めした感が拭えず、ホンの暇つぶしには向きますが、読書という範疇にはなさそうです。

こういう売れっ子作家さんの著書を、予算の都合があるのでどうしてもこのタイミングで出したいという出版社の事情が垣間見えます。

そう言えば「僕は人生についてこんなふうに考えている」 (2003年)も、出版社の事情を優先した過去の著書の中から文章を引っ張ってきてまとめただけのひどい内容の寄せ集めの駄本でした。

本著は著者が実際に書いているエッセイ集なので、それよりはずっとマシですが、この著者の魅力はこうしたエッセイやまとめ本ではなく、長編小説にあるということがよくわかります。

★☆☆

著者別読書感想(浅田次郎)

【関連リンク】
 8月後半の読書 エアー2.0、警告、日本史の探偵手帳、あなたならどうする
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 7月後半の読書 ドリアン・グレイの肖像、悪い夏、東京自叙伝、ジヴェルニーの食卓


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年金と必要な老後資金の実態 2025/9/27(土)

1857
年金手帳
「老後資金はいくら必要?」というのは情報番組では定期的に繰り返される定番のネタとなっています。

一般的によく引用される例が、総務省が出している家計調査年報(家計収支編)の支出額と、公的年金の平均受給額を比較し、その不足額と平均余命分を掛け合わせて老後(一般的には65歳時点)にいくらの貯金などあれば良いかという試算をするものです。

その2024年調査のデータでは、65歳以上高齢者夫婦だけの世帯の1ヶ月平均支出額(消費支出)は、256,521円で、急速な物価高を反映しているのか5年前の2019年の237,487円より19,034円上がっています。

さらに消費支出以外に、国民健康保険や介護保険料、市民税、持ち家の場合固定資産税など月4万円ほどが必要になります。この税金や保険料を無視して計算している場合もありますが、それは絵に描いた餅で使い物になりません。

収入は、基本的に公的年金だけで、2024年のデータでは65歳以上夫婦世帯(夫と妻の年金合計)の場合、月225,182円となっています。国民年金だけの高齢者も混じっている平均値なので、厚生年金を受給している世帯よりはやや低めに出ています。

65歳時点で、20年間、85歳まで生きる(65歳男性の平均余命は19.5歳)として、老後資金の不足額の計算は下記の通りです。

収入225,182円−(消費支出256,521円+非消費支出40,000円)=▲71,339円(毎月7万1千円の赤字)
71,339円×12ヶ月×20年(85歳までとして)=17,121,360円
老後には公的年金以外に1700万円が不足するのでその分を65歳までに貯めてください。

というのが一般的な計算です。

しかし高齢夫婦二人世帯だとしても、実際は、
・厚生年金受給者か国民年金だけか?
・厚生年金の加入年数は?
・配偶者はずっと専業なのか、働いていて世帯主とは別に厚生年金があるのか?
・企業年金など老齢年金以外の年金はあるのかないのか?
などによって個々の収入額は大きく変わってきます。

よく使われる年金額としては、夫が厚生年金、妻が国民保険を満額受け取れるとして、夫の厚生年金165,000円+妻の国民年金56000円で、世帯収入は221,000円というものです。

上記の家計調査年報よりもわずかですが低い理由はよくわかりませんが、夫婦共働きが当たり前になっていて、夫婦共に厚生年金を受給しているケースが実際は多いのかも知れません。

厚生年金は、加入期間と加入時の収入によって受給額も変わってきます。ただ無職期間や自営業期間が長くある人を除き、一般的な会社員の場合、新入社員の時から定年退職時までの40年ほどの平均なので、給料の総額にはそう大きな違いはないでしょう。

支出は、物価が高い都会に住むのと地方に住む場合で違いが出ます。また住まいは持ち家か借家か?持ち家の場合、住宅ローンは終わっているかいないか、マイカーを保有しているかいないか?などによっても大きな違いが出ます。

6月にTBS Nスタで紹介されていた例として、ファイナンシャルプランナー塚越奈々子氏の説明では、持ち家と賃貸のそれぞれで別途必要となる老後資金は下記のようになると言うことでした。

持ち家の人
厚生年金受給者が必要な老後資金 836万円
国民保険だけの人が必要な老後資金 3,661万円
賃貸の人(茨城県家賃8万円前提)
厚生年金受給者が必要な老後資金 2,707万円
国民年金だけの人が必要な老後資金 5,532万円

つまり、厚生年金受給者で、持ち家(ローン済み)の場合、預貯金は836万円で済むのに対し、同じ厚生年金受給者でも、賃貸住まいの人だと2707万円の預貯金が必要と言うことです。

しかもこの賃貸の場合、月8万円という安い茨城県内を前提にしているので、都市部の人気地域に住むのならば、さらに上積みが必要になります。

賃貸住まいで、国民年金だけという世帯だと、もうこれは事実上無理って気もします。ずっと安い僻地へ行くか死ぬまで働き続ける覚悟が必要です。

但し高齢者の持ち家率は家計調査年報によると驚異の96.5%です。意外に思いますが、これは全国平均で、都市部に限るとずっと低くなるようです。

したがって、賃貸の高齢者というのは、入居拒否問題や、物価高で家賃の値上げなど、よくニュースなどで取り上げられますが実際はマイナーなケースです。

公益財団法人 生命保険文化センターによれば、夫婦2人の場合、ゆとりある生活には37万9,000円が必要ということです。
「最低日常生活費」と「ゆとりのための上乗せ額」を合計した「ゆとりある老後生活費」は平均で37.9万円となりました。 なお、ゆとりのための上乗せ額の使途は、「旅行やレジャー」が最も高く、以下「日常生活費の充実」、「趣味や教養」と続いています。

税金の塊のマイカー保有や、喫煙、飲酒、趣味のスポーツ(ゴルフやテニス、ジム通いなど)をするためには、プラスアルファで収入を増やす努力か、預貯金を多く残しておくことが必要になります。

世知辛い話ですが、余計なことは考えず、余裕のお金がない老いたる者は、ひたすら歩き、怪我や病気にならないよう気をつけ、安い生活必需品を買い求め、目刺しと味噌汁の質素で健康的な食事をしろってことなんでしょうねぇ、、、

そんな暗そうな未来を現実に見ている若者が、結婚して子供を育てるようなお金がかかる苦労を背負い込みたくないと思うようになるのも、また一発逆転で金持ちになれるという甘言に騙され犯罪に手を染めるのもわかるような気がします。

【関連リンク】
1830 今の高齢者は年金をいくらもらっているのか?
1817 年金だけで生活したいと思うのは夢物語か?
1011 定年後の生活資金設計

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