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日記INDEXページ(タイトルと書き出し部の一覧)はこちらです
1756 11月後半の読書と感想、書評 2023/12/2(土)
1757 旅は道連れなしで 2023/12/9(土)
1758 12月前半の読書と感想、書評 2023/12/16(土)
1759 自営業主とフリーランス 2023/12/23(土)
1760 感情に左右されない生き方 2023/12/30(土)

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11月後半の読書と感想、書評 2022/12/2(土)

1756
こちらあみ子(ちくま文庫) 今村夏子

2010年に発表したデビュー作「あたらしい娘」がいきなり太宰治賞を受賞し、タイトルを「こちらあみ子」に改題し、別の短篇を追加した単行本を出版した2011年には三島由紀夫賞を受賞しています。

2014年に文庫版が出版され2022年に大沢一菜、井浦新などの出演で映画化されています。

この2014年に文庫が出てからはしばらく休筆状態でしたが、2016年以降、主として短篇集がポツリポツリと発表されています。

そして2019年に出版した「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞しています。

広島出身の著者で、その子供の頃の思い出やエピソードがうまく使われている小説です。したがって登場人物の口調は広島弁です。

女性の子供の頃のイメージは、妹や姪など近しい女の子が周囲にいなかったこともあり、私にはイマイチ実感がありませんが、小中学生の頃の主人公あみ子の自由奔放な行動やぶっ飛んだ思考パターンはアルアルなのでしょう。変わり者には違いないでしょう。

タイトルは、まだ小学生の頃にトランシーバーを買ってもらい、「こちらああみ子、応答せよ!」と語るところからつけられています。

実は自分も小学生の頃にオモチャのトランシーバーをクリスマスだったか忘れましたが親にリクエストをして買ってもらったことがあり、小説と同じく、最初は兄とやりとりし、次第に誰も相手をしてくれなくなり、ザーザーと音を立てるトランシーバーに向かってひとりで喋っていた記憶がよみがえってきました。まるで、そのシーンは自分の子供の頃を見ているようで驚きました。

子供とは言え、人の感情や思考に深く入り込んだ内容の小説は、純文学的でもあり、自叙伝的でもあり、読書でしか拡げることができない(と思っている)、他人の感情の流れや生き方をまざまざと見せつけられ、様々な考えが頭の中をよぎっていきます。

著者の狙いではないかも知れませんが、そうした読者に考えさせることができる文学というのは読むとなにかお得感がいっぱいな気がします。

★★☆

            

戦国武将、虚像と実像(角川新書) 呉座勇一

著者は1980年生まれとまだ若い歴史学者さんですが、すでに多くの書籍を書いておられ、テレビでもNHK BSの「英雄たちの選択」などにもゲスト出演し、学者にしては野心を強く感じる方です。

ちょうど10年先輩の歴史学者磯田道史氏(慶応大出身)の後釜を狙っているような気がします。東大卒の著者としては学者として負けたくはないでしょう。

タイトル通り、巷で知られている戦国武将の真の姿とは?というテーマで、様々な古い文献や資料から読み解いています。

ただその記述が正しいのか間違っているのかはあくまで著者の想像でしかありません。

本著で取り上げられている戦国武将は、お馴染みの
1.明智光秀
2.斎藤道三
3.織田信長
4.豊臣秀吉
5.石田三成
6.真田信繁(真田幸村)
7.徳川家康
の7人です。

歴史小説やドラマ・映画では、作家や脚本家が作り上げた想像上の戦国武将が登場しますが、時代によってその姿は大きく変わってきます。

特に戦国時代の後の江戸時代では、神君・徳川家康を英雄視し、徳川家を持ち上げ忖度した内容の記述が多くなり、江戸時代が終わったあとの明治時代は一転して尊皇派や主君への忠義者が名誉挽回を果たし、大戦前には尊皇はもとより、国家のためなら命を投げ出し、朝鮮や中国への侵攻した武将が高く評価されます。

そして戦後にはまたガラリと変わり、革新や進取、合理主義、部下思いなどが優れた武将とされていきます。

我々、平成や令和に生きる人達は、多くは昭和時代以降に書かれた小説を読み、それを元にしたドラマや映画を見ることになりますので、本著で触れられている戦国時代や江戸時代、明治時代に書かれた書籍や資料で現される戦国武将の姿は違ったイメージとなります。

そうした時代ごとに、評価がどう変わっていったのかという話しがメインで、本当はどうなの?というのは結局よくわかりません。

そりゃそうです。その時代に生きたら現在とは価値観も社会情勢も物事の善悪すらも違っていて、さらに小説や記録を書いて残した人の立場や思想によっても変わりますから、それで400年以上前の武将達の性格を知り、評価をするのは難しいものです。

★★☆

            

極東動乱(ハヤカワ文庫) デイヴィッド・ブランズ&J・R・オルソン

2019年に米国で出版された本作の原題は「Rules of Engagement」で、直訳すると「交戦規定」となります。著者は二人で、ふたりとも海軍兵学校出身の元海軍士官という変わり種の作家さん達です。日本語版は2022年に発刊されています。

そういう職業軍人だったことから、本著で重要なポイントとなる軍事シミレーション、特に軍隊用の最新ネットワークシステムや世界中の軍隊が躍起になっているハッキング合戦など、リアリティのある内容となっています。

内容はタイトルで表現されている通り、北朝鮮に亡命している天才的テロリストが、ロシアの軍需産業マフィアから極東に軍事的な緊張をもたらして欲しいという依頼があり、中国人民軍、日本の自衛隊、そしてアメリカ海軍のネットワークに自立型のウイルスを仕込むことに成功します。

そして公海上を飛ぶ米国海軍の哨戒機や、自衛隊の護衛艦などに対し、ニセの指令で中国空軍が突然ミサイルを撃ってくるという事態が発生し、全面戦争に陥る前に天才テロリスト対アメリカの若き士官候補生チームとの電子戦が始まります。

もちろんアメリカ人が書く大衆受けを狙った戦争小説ですから、最後はどうなるかは言うまでもないことです。

現代の戦争は、ウクライナやガザで起きている従来型の大砲やミサイル、戦車、歩兵などを使ったものが現実としてありますが、この小説では、あくまでもスマート?に、電子戦で優位に立てば戦争に勝てるという綺麗事のような内容にちょっと現実離れした話しで気持ちが乗っていきません。

★★☆

            

二人のクラウゼヴィッツ(新潮文庫) 霧島兵庫

1975年生まれの著者の小説は今回初めて読みますが、過去にはいくつか時代物の作品を書いておられます。そしてなぜかは不明ですが、今年2023年から名前を野上大樹に変えると発表されています。

文庫の解説に書いてありましたが、著者の前職は自衛官で、陸上自衛隊で攻撃ヘリAH-1S(通称コブラ)に乗っていたというから、著者の描く戦記物には独自の視点や発想があるのだろうと思います。

本著は、タイトルでもわかるとおり、「戦争論」で有名な19世紀前半に活躍したプロイセン王国の陸軍軍人カール・フォン・クラウゼヴィッツを描いています。

2020年に「フラウの戦争論」として単行本が出版された後、2022年にタイトル名を変更して文庫化されました。「フラウ」とはクラウゼヴィッツの妻の名前(愛称?)です。

小説では、フランスの皇帝ナポレオンから侵略され、何度も激突するプロイセン王国の軍人として活躍している時代と、もうひとつは、ナポレオンが失脚し流刑されてフランスとの戦争が終わり、左遷に近い兵学校の校長として余生をおくりつつ、ナポレオンとの数々の戦争を元にした「戦争論」の論文を書いている時代との2つが交互に出てきます。

その兵学校の校長として勤務中は、その仕事に鬱々としながらも妻と一緒に平和に暮らしながら論文をまとめていますが、隣国のポーランドで暴動が起き、再び戦争の危機が訪れて参謀として出征することになります。

しかしその戦争中にコレラが流行り、1831年にあっけなく戦地で病死してしまいます。

そして時代が過ぎて、妻のクラウゼヴィッツが夫の残した「戦争論」を出版するために駆けずり回ることになるという物語でした。

小説の中では、日本人にはほとんど馴染みがない18世紀初頭に起きたナポレオンと欧州諸国との戦争、イエナ・アウエルシュタットの戦い、アイラウの戦い、ボロジノの戦い、グロースゲルシェンの戦い、ライプツィヒの戦い、リニー、カトル・ブラの戦い、ラ・ベル=アリアンスの戦い(通称ワーテルローの戦い)が詳細に地図入りで説明されています。

ちょうど今、リドリー・スコット監督の大作映画「ナポレオン」が公開されていて話題になっていますので、先にこの本を読んでから映画を見ると双方からの視点で見ることができてよくわかるかも知れません。

聞き慣れない地名や名前が多くて読むのはたいへんですが、1820〜1830年頃というと日本では江戸時代で天保の大飢饉(1832年)などが起きた鎖国時代の真っ只中で、そのような中で欧州ではこのような激動が起きていたということを知れて歴史ファンは大いに楽しめると思います。

★★★

【関連リンク】
 11月前半の読書 忍ぶ川、定年バカ、二千七百夏と冬(上)(下)、長く高い壁 The Great Wall
 10月後半の読書 にぎやかな未来、凪の光景、コブラ(上)(下)、百万のマルコ
 10月前半の読書 太陽は気を失う、ジャイロスコープ、一億円のさようなら、七人の暗殺者


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旅は道連れなしで 2023/12/9(土)

1757
絶景個人的なことですが、私はひとり旅が好きで、特に宿泊をともなう遠方へ旅行するときはほとんどひとり旅です。

子供がまだ小さい頃には、勝手にひとり旅はできませんでしたが、下の子供が高校生になってからは、夏休みや冬休みなどによく行っていた家族旅行はしなくなり、もっぱら旅行に行くならひとり旅です。

元々、若いときから仕事で宿泊をともなう出張をよくしていました。出張はほとんどがひとり旅なので、若い頃からひとり旅に慣れていたということがあるでしょう。

ひとり旅のメリットは、行動が自分勝手にでき、予定や行き先の変更や追加、キャンセルなども自由、自分の体調や興味、関心だけを考えておけば良いことです。

つまり同伴者に気を遣うことはないということです。結構他人に気を遣う性格なので、これが一番大きなメリットです。

映画「ミステリに言う勿れ」では、主人公の学生、久能整が広島で美術展を見た後、日帰りで東京へ帰る予定だったのが、ワケありの女子高生に頼まれ名門旧家の豪邸に急遽泊まることになりますが、その時「よその家の風呂に入るのは嫌」「洗濯物を他人に洗ってもらうのは嫌」「他人と同じ部屋では寝られない」など極度の人見知り?で笑いましたが、なんとなくその気持ちはわかります(わかるんかい!)。

ひとり旅に慣れていると、「寝たいときに寝て、起きたいときに起きる」「目が冴えてなかなか寝られないときは温泉に浸かりに行ったり、テレビを見て深夜までボーと過ごす」など勝手気まま人に気を遣うことなく過ごせることが大事なのです。

逆にひとり旅のデメリットは、「話し相手がいない(喜びや感動を共有できない)」、「ひとりで食事をする」、「体調が悪くなったときなど頼れる人がいない」などでしょうか。

持ち帰り夕食私は「話し相手がいない」というのはまったく気にならない、デメリットとは思わないタイプですが、食事、時に夕食は時々ひとりで食べる寂しさを感じることがあります。

現役時代、出張先で宿泊するときはだいたい現地社員と夕食を一緒に食べることが多く、知らない街でひとりで夕食を食べるという経験はあまりありません。

その寂しさを感じないようにするため、宿泊先のレストランでは夕食を食べず、外の洋食屋やラーメン店などひとりで行っても平気な店へ食べに行きます。また疲れているときにはコンビニで弁当を買って部屋で食べたりします。

体調面は、今まで旅先で具合が悪くなったりトラブルに遭ったりしたことはないので、ひとり旅の時には、事前の準備や体調管理をしっかりおこない、無理なスケジュールは作らないように気を配っています。ま、国内なら、言葉も通じるし、携帯電話もあり、健康保険も使えるので特に心配はしていません。

そうしたひとり旅ですが、リクルートの「じゃらん宿泊旅行調査2023」によると、コロナ禍前の2018年度に18.0%だったひとり旅の割合は、21年度に20.1%、22年度は19.8%とわずかながら上昇しています。

男女別で見ると、男性のひとり旅がどの年代でも圧倒的に多いのも特徴ですが、男性では若いほど宿泊をともなうひとり旅の割合が多いようです。

1年を区切ったデータではひとり旅は約20%ですが、過去に宿泊をともなうひとり旅をしたことがある人は36%というデータがあります(公益社団法人日本観光振興協会 全国観光情報データベース、2019年11月調査)。

旅行者の3〜4割がひとり旅となると、観光ホテルや旅館ももう少しシングル客を歓迎する部屋や宿泊プランが充実してきそうです。

現在はまだ観光ホテルでは団体客優先の意識が強く、個人客やましてひとり旅の客は冷遇されている雰囲気があります。もう昭和の頃に多かった団体客なんてそうそうないと思いますけどね。

私はひとり旅の宿泊先は、都市部ならビジネスホテルの中から選ぶことが多いです。理由はシングルルームがとりやすいことと素泊まりの宿泊料が安いからです。

地方の観光地でビジネスホテルがないときは、普通の観光ホテルや旅館、リゾートホテルに泊まりますが、素泊まりでも部屋はツインルームのシングル利用となり料金はやや高めになります。

あとホテルの部屋についている浴室は狭くてくつろげないので、大浴場や温泉付き浴場のあるホテルを優先的に探します。もし大浴場のないホテルに宿泊する時は、ホテルに入る前に、温泉付きの日帰り湯などに寄ってからホテルに向かいます。

旅行ではほとんどマイカーを使うことが多いので、目的地の近くに安いホテルや大浴場付きのホテルがないときは、少し離れた場所で宿泊することもあります。

例えば春や秋の行楽シーズンの京都市内のホテルは予約がとりにくいですが、隣の滋賀県、しかも駅近でなく、国道沿いに建っているようなビジネスホテルならすぐに予約ができます。クルマなら京都市内まで30分で行けます。

これからもまだ身体が元気で動くうちに、年に1〜2回は遠くのまだ行ったことがない場所へひとり旅をしたいと計画しています。

【関連リンク】
1638 マイカーで行く東京から京都・大阪・和歌山へのルート
1490 八十八箇所巡礼データ
678 東北巡り


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12月前半の読書と感想、書評 2023/12/16(土)

1758
葬式組曲(文春文庫) 天祢涼

1978年生まれの推理小説を得意とされる作家さんの作品で今回初めて読みました。この作品は2012年に単行本、2015年に文庫化されましたが廃刊後、2022年に別の出版社から再び文庫が出版されています。

内容は連作短篇小説で、「父の葬式」「祖母の葬式」「息子の葬式」「妻の葬式」「葬儀屋の葬式」の5篇からなっています。

従業員は4人だけの小さな葬儀屋が舞台で、タイトル通り様々な人の死に関わりながら、一般人にはあまり馴染みがないお葬式の実態や、そこで働くこと、そしてそれぞれの死にまつわる謎や葬儀の遺言などをドラマ化しています。

葬式というと厳かで静謐とした雰囲気がありますが、当然ながらビジネスとして成り立っていて、葬儀屋や僧侶はこのときばかりと失意に打ちひしがれている遺族に対してアレもコレもとお金を使わせることに専念していきます。

葬儀屋の仕事は如何にして他社よりも早く、死亡者とその遺族の元へ駆けつけるかというのが一般的な手法ですから、死亡者の情報が一番早い病院や警察と利権で深くつながっている葬儀屋も少なくありません。

そういうところは病院や警察への謝礼の分だけ割高になるので、できれば亡くなる前に本人があらかじめ葬儀の内容(想定参列者数や家族葬にするとか)を考慮し、ネットの評判も調べて(サクラも多いが)決めておき、もし亡くなったらここに電話をして依頼をすると決めておくのが良さそうです。

私も学生時代に、葬儀屋ではなかったものの、葬儀でよく使われる竹材を扱う店でアルバイトしていたことがあり、発注先や納品先(葬儀場)へ竹飾りをよく配達、設置していたことを思い出しました。タダみたいな汚い竹を私がもみ殻で必死に磨いたものが、葬儀場では何万円にも化けていました。

主人公はその葬儀社を父親から継いだ若い女性社長、葬儀のことに詳しい胡散臭い雰囲気の中年男性、ただひとりの身寄りの祖母を亡くしたばかりの若い男性などです。

1話完結のミステリー小説ですが、驚いたことに最後の「葬儀屋の葬式」でちゃぶ台のひっくり返しがおこなわれますので、それまでの短篇にいくつもの伏線が敷かれているのがユニークで楽しめました。

★★☆

            

ちえもん(小学館文庫) 松尾清貴

今回も初めて読む作家さんの作品で、2020年に単行本、2022年に文庫化された長編小説です。著者は1976年生まれで、2004年にデビュー、現代物もありますが、歴史物がお得意のようです。

本著は江戸時代に実際に生きた貧しい漁村に次男として生まれ、その後才能を生かして商人になっていく名もなき男をモデルにした歴史小説です。

前半から中盤は、かつて山口県の瀬戸内にあった小さな漁村櫛ケ浜(現周南市櫛浜町)で廻船問屋に生まれ、病弱で次男ゆえ本家の厄介者と言われていた少年が、仲間内では体力では負けるが知恵で勝負とばかりに頭角を現していきます。

そして商才を発揮し、生まれ故郷を離れて長崎の香焼島(こうやぎしま、現長崎市香焼町)に新たな漁場を開き、役人達の命令で本意でないものの唐や南蛮との抜け荷の脱法行為をしながらも事業を拡大していきます。

鎖国中の当時は、幕府が認めた輸出入以外、外国船との抜け荷は重罪で、見つかれば関係者全員が市中引き回しの上で斬首と厳しくなっている頃です。

そしてクライマックスは、長崎で座礁し沈没したオランダの商船引き揚げ法を考え提案します。そのオランダ商船とは抜け荷をおこなう予定になっていて、他人事ではなかったこともあります。

表向きは、余所者の身でありながら漁場を開くことを許してくれた長崎にお礼をしたいということと、なにかと因縁をつけてくる地元の有力者の排除です。

ちえもんと村人から呼ばれて信頼を集めていきながらも、子供の頃から仲が良く未来を語り合った親友を海で亡くしていて、その想いを引きずりながら、再び生まれ故郷の海へと戻ってくるラストは泣かせます。

★★☆

            

夜市(角川ホラー文庫) 恒川光太郎

1973年東京生まれの作家さんで、32歳の時にこの作品でデビューされました。この作品は日本ホラー小説大賞を受賞し、さらに直木賞の候補作にも入る新人離れした作品と言われています。ジャンルとしてはホラー小説がお得意のようです。

個人的には怖がりなのでホラー作品はあまり好きではありませんが、本作品はホラーというより、ファンタジー小説または幻想小説と言えるもので、特に背筋が凍るような思いはしません。

本作品は2005年に単行本、2008年に文庫化されていて、表題の「夜市」と「風の古道」の中篇2篇が収録されています。

この2作品はまったく別物ですが、内容的には非常に近く、人間がすぐ近くにある異世界へ入り込むことによって様々なことが起きていくという話です。欧米風のファンタジーというよりは、水木しげるの妖怪の世界に近いかも知れません。

「夜市」では昔、弟と一緒に入り込んだ異世界で、何かを買わないと元の世界に戻れないことから、人さらいに弟を売って戻ってきた青年の苦悩と贖罪、「風の古道」では、友人とともに冒険のつもりで入り込んだ異世界の古道で、その古道で産まれたために戻れず放浪を続ける青年と一緒に旅をする話しです。

どちらもハッピーエンドとは言えませんが、それでも嫌な感情が湧いてくるものではなく、やっぱりホラーとは思えない異世界幻想小説というものでしょう。

★★☆

            

歴史探偵 忘れ残りの記(文春新書) 半藤一利

著者は一昨年2021年に90歳で亡くなっていますが、ジャーナリストとして、また作家として少年時代に自身戦争を体験したことや、戦争に関わった人を仕事で取材した経験などを生かした作品を多く残しています。

本著も、様々な雑誌や広報誌などに書いたエッセイをまとめたもので、かなり繰り返しで重なっている部分がありますが、戦争中の貴重な話がいろいろと参考になります。

過去に読んだ「日本のいちばん長い日」と「ノモンハンの夏」の感想は、著者別読書感想(半藤一利)にまとめてあります。

また著者の配偶者が夏目漱石の孫ということもあり、夏目漱石に関連した作品も数多くあります。

この2021年に出版されたエッセイ集では、著者が戦前の下町の向島生まれで、戦争中の浅草や銀座、そして東京大空襲で逃げ惑った話など、貴重な体験談が読めます。

またこのエッセイ集シリーズには「歴史探偵 昭和の教え」と「歴史探偵 開戦から終戦まで」(いずれも2021年刊)の続編があります。機会があればまた読んでみたいです。

★★☆

著者別読書感想(半藤一利)

【関連リンク】
 11月後半の読書 こちらあみ子、戦国武将、虚像と実像、極東動乱、二人のクラウゼヴィッツ
 11月前半の読書 忍ぶ川、定年バカ、二千七百夏と冬(上)(下)、長く高い壁 The Great Wall
 10月後半の読書 にぎやかな未来、凪の光景、コブラ(上)(下)、百万のマルコ


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自営業主とフリーランス 2023/12/23(土)

1759
ビジネスシーン過去に何度か書いていますが、フリーランスは、「特定の企業や団体に所属したり、特定の組織の活動に専従せず、雇用契約や労働契約の関係を結んで労働力を提供するのではなく、業務委託などにより自らの技能をサービスや成果物を通じて提供することによって生活する、社会的に独立したライフスタイルの個人事業主を指す総称である」(wikipedia)という解釈がなされています。

そのひとつである個人事業主は「自ら独立した事業を行う自然人を指す。日本の法律では消費税法基本通達1-1-1において自己の計算において独立し、事業を行う者、同第2条1項3号では事業を行う個人と定義され、慣習的には個人事業者または自営業者とも称される」(同)ということで、なんとなくフリーランスと個人事業主と自営業主は共通するところもあり、また違っているところもありそうで、それぞれの言葉の使い方が難しそうです。

ひとつ基準があるのは、フリーランスという場合は、自分以外に他に雇っている人がいない(つまりひとりで事業をやっている)「雇用的自営業等」ということがあるようです。

それでも個人商店などではひとりで仕入れから販売まで全部をやっているケースは多そうですが、やっぱり彼らをフリーランスとは言いません。

それはフリーランスと呼ばれるためには、上記の条件の他、「特定の相手との取引に依存している」という条件がつく場合があるそうです。それが上記の「雇用的」ということなんですね。

そうすると無店舗であってもECビジネスや、店舗で不特定客と商取引をしている事業主はフリーランスではなくなります。

一般的に個人事業主と言えば、街の個人商店主やチェーン店ではない飲食店主や、美容院、理髪店などの個人店主などです。その多くは不特定の相手と商取引をしますのでフリーランスとは言わないのでしょう。

もっと言うと、農業や漁業の第1次産業と、販売などのサービス業の第3次産業には個人事業主が多く、建築業を除き製造系の第2次産業は個人事業主は少ない感じです。

建築関係は土木、内装、外壁、鉄筋、左官、配管、塗装、電気工事、大工など仕事が細かく分かれていて、それぞれに得意な専門性の高い職人という個人事業主が多くいます。

その中で建築関係で特定の技術を持ち会社に所属せずに個人でやっている職人さんは、前述の基準からすると古くからあるフリーランスと言えそうです。

一般的に代表的なフリーランスと言えば?パッと思いつくのはWEBデザイナーや、プログラマー、ライター、マーケティング、カメラマン、イラストレーター、脚本家、司会者などの専門職など幅が広く、カタカナの職業が目立ちます。

また最近流行っている、ユーチューバーやアフェリエーター、プロゲーマーなども個人でおこなっている限りその範疇に入ってきそうです。

さらにその仕事を本業としてやっているのか、昨今流行りの副業としてやっている場合も同じなのか、同じフリーランスでも基準は曖昧です。つまり本業では会社員として働きながら、副業でフリーランスとして働いている人が現実的には多そうです。

  ◇  ◇  ◇

それはともかく、総務省労働局の労働力調査を見ると、自営業主(個人事業主)は、年々減り始め、15年前の2007年から100万人以上減少しています。

就業者数と自営業者数

2022年の就業者数は6723万人で、そのうち自営業主は514万人、自営業主の割合は7.6%と10%を割っています。調べる前は2〜3割は個人事業主がいると思っていたのでこれは意外でした。

調査の記録がある中で、自営業主が一番多かったのは、今から66年前の1957年で、1千万人を超えていました。その時の全就業者の中で自営業主の比率は24%で、就業者の4人にひとりが自営業主でした。

そのように減少を続けている自営業主ですが、フリーランスというくくりで調査した内閣府発表の「日本のフリーランスについての政策課題分析」を見ると、「特定の発注者に依存する自営業主、いわゆる雇用的自営業等は、増加傾向にある。」とあり、1985年に128万人だったのが、2015年には164万人となっています。

また、副業で年に1回でもフリーランスとして収入を得たことがある人を含めると、1500万人という「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版」(ランサーズ株式会社)の報告書もありますが、実態はよくわかりません。

この自営業者514万人がフリーランス1500万人へと変わる数字のマジックは、上記にも書きましたが、フリーランスという職業の基準が曖昧なことと、ちょっと副業でフリーランス的な働き方や収入があるとカウントしているためと思われます。

コロナ禍の影響で、余った時間を副業でという人や、ライフスタイルの変化、新形態のウーバーイーツの配達などスポットで働ける個人事業主としての仕事の増加などもあり、今後もフリーランス的?働き方や収入額は増えていくことになるのでしょう。

そうした働き方の多様化は、今までの統計方法では表せず、測れず、評価ができません。困ったものです。

いや、しかし、師走の慌ただしい時に、いろいろ調べまわって疲れました。

【関連リンク】
1445 フリーランスに関しての調査より
1439 耐え忍べるかフリーランス
1068 個人事業主の中でもフリーランスとしての働き方


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感情に左右されない生き方 2023/12/30(土)

1760
今年は今回が最後の投稿となります。
本年もお世話になりありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いいたします。

思えば、2020年6月に仕事からリタイアし、今年で3年を超え、ようやく仕事にまつわる(悪い)夢をほとんどみなくなってきて、すべてが値上げラッシュでお金の苦労はあるものの、ほぼストレスフリーの無職生活に慣れてきました。

ビジネスシーン現役時代から、辞めてからもしばらくは、仕事でなにか大きなミスをしでかして、客先で全身びっしょり濡れるほどの悪い汗をかきながらひたすら謝っていたり、なにか悪い気のある黒い影に追いかけられる悪夢を何度もみました。

実際の仕事では、クレーム処理や、起きてしまった事故や事件の対応をいくつもこなしてきましたが、幸い夢で見たそうした悲惨な事態は起きてはいません。しかしいつも最悪のことを考え心配している根が小心者の証ということでしょう。

しかし人間関係においてはあまり良い思い出の記憶は残らないものの、悪い思い出の記憶はいつになっても、特に眠る前とかに頭の中に浮かんできて、負の感情がムクムクと湧いてくることがあります。もうそうなると穏やかに眠れません。

過去にアンガーマネジメントの本を読んだり、心理学や人間関係のハウツー本は、どれほど読んだか数えきれません。

つまらない怒りは身を滅ぼす 2019/11/27(水)

嫌なことがあったときの私のリカバリー法は、本を読んで学んだことですが、まずそれが「自分の行動や努力で改善できるかどうか」をよく考え、もしできるのならばその方法を考えます。

そしてほとんどこちらのケースが多いのですが、自力ではどうしても改善できないことならば、「考えるだけ無駄なことなので考えない」と割り切るというテクニックを駆使し今までやってきました。「割り切る」というのが難しいのでこれは訓練と努力です。

しかしそれで気持ちがスッと収まるときもあれば、ダメなときもあり、グズグズと過去のことを悩み続けてしまったり、あのときどうすれば良かったかを考えたり、仕返しができないかなど考えるようなこともあります。

ダメですね、まだ人間はできていません。

一番良い、自分がなりたい人は、人の悲しみや痛みを心から自分の身に起きたことのように感じられる、寄り添える人です。そして悪い感情には左右されず冷静な判断と行動ができる人です。

一般的に人の感情には、自分より劣っていたり、困っている人を見たり比べたりするのが大好きで、それで自分が優位に立ち、人より恵まれていると思うことで優越感をを得て気持ちがスッキリするというブラックな習性があります。

火事や事故など災害が起きた時、その現場に関係ない多くの野次馬がワラワラと集まってくるのにはそういう人の感情が表れています。事故渋滞はその事故が起きた車線だけでなく、本来関係のない反対車線でも見物渋滞が起きます。

学校の優劣、会社知名度の優劣、自宅住所の優劣、マイカーの優劣、出世の優劣、年収の優劣、部下の数の優劣、配偶者の優劣、子供の優劣、退職金の優劣、SNSフォロワー数の優劣など、知らず知らずに常に他人と比べています。

次男坊で子供の頃から常に兄と自分を比べつつ負けず嫌いだった自分にも、自然に人と比べていて、勝った、負けた、優越感や劣等感を感じ、その結果、うれしい、悔しいなどの感情がむき出しになることがあります。

子供の頃ならともかく、すでに人生の終盤に差し掛かっている中で、いまさら負けず嫌いや優越感なんて無意味な感情で、いまさら他人と比べてどうだとか、過去に受けた仕打ちについて、悔しいからやり返したいという気持ちなど綺麗さっぱり水に流して忘れてしまいたいのです。

それができない中年や高齢者が、「恨みがあった」「社会に仕返しをしたかった」「許せなかった」と時々大きな事件を起こしています。

そしてそれは社会的立場が弱い人や、決して逆襲されない弱そうな人、逆恨みで真っ当な組織に向かっていくのが常で、決して反社会団体の事務所に爆弾を積んだダンプで突っ込むとか、武装している自衛隊基地に包丁を持って向かっていくというケースはありません。

いつも冷静で温和で、家族はもちろん他人にもいつも優しい人でありたいと思います。

言うのは簡単ですが、複雑な心の中のことなので難しいですけど、精進したいと思います。

どうぞ、皆様方も幸せに満ちた良いお年をお迎えください。

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