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読書感想INDEX

荻原浩 OGIWARA HIROSHI 既読書籍

027 二千七百夏と冬(上)(下)
026 ストロベリーライフ 025 冷蔵庫を抱きしめて
024 海の見える理髪店 023 逢魔が時に会いましょう
022 砂の王国(上)(下) 021
020 ちょいな人々 019 幸せになる百通りの方法 
018 月の上の観覧車 017 ひまわり事件
016 オイアウエ漂流記 015 千年樹
014 四度目の氷河期 013 あの日にドライブ
012 ママの狙撃銃 011 押入れのちよ
010 誘拐ラプソディ 009 さよならバースディ
008 なかよし小鳩組 007 明日の記憶
006 コールドゲーム 005 オロロ畑でつかまえて
004 メリーゴーランド 003 僕たちの戦争
002 ハードボイルド・エッグ  001 神様からひと言

読書感想は2010年頃以降に書くようになりました。それ以前に読んだ本の感想はありません。


1956年埼玉県生まれ。1980年大学卒業後広告代理店に入社。1991年フリーのコピーライターとして築地に事務所を構える。39歳のときに小説を書き始める。1997年、初めて書いた長編小説『オロロ畑でつかまえて』で第10回小説すばる新人賞を受賞し小説家デビュー。『明日の記憶』が、2005年本屋大賞の第2位にランクイン。そしてその1か月後の同年5月第18回山本周五郎賞受賞。2016年『海の見える理髪店』で第155回直木三十五賞受賞。(Wikipediaより引用 2022年)


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027 二千七百夏と冬(上)(下) (双葉文庫)

2014年に単行本、2017年に文庫が出版された長編歴史小説です。歴史と言っても現代(2011年)と縄文時代の終盤近い2700年前とのふたつの時代が舞台です。

主人公は、現代は新聞社の北関東と思われる地方局に勤務する若い女性記者と、2700年前は石器を使って狩猟をメインとしている小さな村の少年です。

縄文時代というのは歴史の中ではすごく長く、諸説あるものの現在から1万6000年ほど前から2500年前までの1万3500年ほどが続きました。縄文時代の特徴は、石器だけではなく土器や竪穴式住居、弓矢などが特徴です。

1万年以上続いた縄文時代から、渡来人の影響で食糧生産の稲作や鉄器などが特徴の弥生時代へ変わるタイミングは、なにかのきっかけで一気に生活風習が変わってしまうというものではなく、おそらく何百年もそれぞれの時代が並行していたはずです。

著者はそこに目をつけて、狩猟主体の縄文部族と、海を渡ってやってきて、農耕を始め米を主食とする農耕部族のふたつが交わる瞬間をドラマ化していています。これがまるっきりの創作だというのは当然ですが、まるで見てきたような描き方で読み応えがあります。

前半部分は縄文時代の少年の話が長く続きますが、そこで使われる言葉が現代の日本語と共通する部分があり、著者の苦心の跡が読み取れます。例えば「イー→イノシシ」「ヌー→犬」「クムゥ→熊」「カァー→鹿」「クヌコ→キノコ」など。誰もそのことを証明したり反論できません。

ちょっと前半部分で間延びして、しかも意味のわからない縄文時代の言葉が出てきて読みづらいですが、慣れてくる中盤頃からは感情移入ができてサクサク読めるようになります。ちょっと我慢が必要ってことです。

現代の新聞記者が出てくるのは、ダム工事現場で、縄文人と弥生人が手をつないでいるような人骨が発見され、その時代を超えた二人のことを考えるという流れです。

前・中盤の密度の濃い内容と比較すると、最後はちょっと淡泊な感じでしたが、面白かったです。

★★★

11月前半の読書と感想、書評 2023/11/15(水)

026 ストロベリーライフ(毎日文庫)
長編小説のデビュー作「オロロ畑でつかまえて」以来、文庫化された小説のほとんどを読んできた著者の小説は好きで、今回の作品(2016年単行本、2019年文庫)もやや遅れましたがようやく読むことができました。

妻と子どもがいる男性が主人公で、広告会社を退職してフリーのデザイナーとして独立したものの、あまり順調と言えない状況に陥っています。

そこへほとんど帰ることがなかった静岡の実家で農業をしている父親が倒れ、一時的に実家へ戻って農業の手伝いをすることになります。

タイトルにもあるように、イチゴをメインにしている小規模な家族経営の農業で、時間をかけて取材をされたのでしょう、農業就業者の高齢化や後継者不足、化学肥料、転作、農業法人、国の施策、補助金など農業に関わる様々な問題を小説の中で露わにしています。

また農業は常に自然(災害や気温、雨量、害虫など)との闘いと融和でもあり、野菜や果物はスーパーで買うしかない多くの都会に住む人達には新鮮な気持ちになれそうです。

そうした中、中途半端に農業を手伝うだけでなく、思い切って腰を据えて農業をやろうとする主人公が決意をするまでの一種のお仕事小説になるのかも知れません。

★★☆

5月後半の読書と感想、書評 2023/6/3(土)

025 冷蔵庫を抱きしめて(新潮文庫)
2015年に単行本、2017年に文庫化された短篇小説集で、「ヒット・アンド・アウェイ」「冷蔵庫を抱きしめて」「アナザーフェイス」「顔も見たくないのに」「マスク」「カメレオンの地色」「それは言わない約束でしょう」「エンドロールは最後まで」の8篇が収録されています。

著者の作品は、文庫になってから見つけると進んで買って読んでいますが、好きなのは「明日の記憶」や「僕たちの戦争」などの長編小説で、今回の著作のようなテーマがバラバラの短編小説はイマイチ好きではありません。

とは言っても、先日読んだ直木賞受賞作「海の見える理髪店」は上手い!というのと、イマイチ〜というのが混ざっていて、当たりに会えばラッキー、それ以外は軽く流せばいいかぁーと読んでみました。

こうした短編小説で、特に女性が主人公のものは、同様に見つけたらすぐに買う作家さんの一人奥田英朗さんには残念ながら及びません。比べられたくはないでしょうけど、どうしても同世代の人気現代エンタメ作家さんとして比べてしまいます。

中身ですが、あまり印象に深く残ったものはなく、DVや摂食障害、顔の醜形恐怖症、失語症など様々な社会問題化しているそれぞれの事象をテーマにしたもので、したがってあまり爽やかでもなければ、コミカル風に書かれていても腹を抱えて笑えるモノでもありません。そういうのばかり集められても、、、という気持ちがあります。

★☆☆

8月後半の読書と感想、書評 2022/8/31(水)

024 海の見える理髪店 (集英社文庫)
2016年に単行本、2019年に文庫化された短篇集で、2016年の直木三十五賞を受賞した作品です。1997年に「オロロ畑でつかまえて」でデビューしてから22年目での受賞となりました。

私はそのデビュー作含め過去に23作品を読んでいますが、もっと早く受賞していても全然おかしくはない活躍ぶりです。

この短篇集は、それぞれ独自の「海の見える理髪店」、「いつか来た道」、「遠くから来た手紙」、「空は今日もスカイ」、「時のない時計」、「成人式」の6篇が収録されています。

共通するテーマはハッキリとは書かれてはいませんが「家族」とか「血縁」というところでしょうか。

中でも本のタイトルにもなっている「海の見える理髪店」は短篇ながら2世代の濃い人生が語られ、読者もあれこれと想像を膨らませる展開で、最後に感動と涙を誘う展開へ向かいます。これは素晴らしい。

著者の長編小説にも素晴らしいものがたくさんありますが、それと比べると短篇にはコミカルな妖怪モノなどちょっと息抜き?って感じで印象深いものはあまりなかったのですが、これは大人の深い小説で確かに一級品です。

「海の見える理髪店」が男同士の関係なら、「いつか来た道」は同じテーマでの女同士の関係を描いています。この二つはペアと言っても良いかも知れません。

★★★

11月後半の読書と感想、書評 2021/12/1(水)

023 逢魔が時に会いましょう (集英社文庫)
2018年に発刊された文庫で、「座敷わらしの右手」「河童沼の水底から」「天狗の来た道」の連作短編小説です。

あとがきを読むと、前の二つの小説は21年前の2000年に小説すばるに掲載されたものだそうで、最後の1作は2018年に書き下ろされました。

座敷わらしと言えば水谷豊主演で映画にもなった著者の小説「愛しの座敷わらし」をすぐに思い浮かべました。

座敷わらしの舞台は遠野ですが、私も数年前に「遠野ふるさと村」などを観光で見てきました。そこには曲屋など古民家が保存されていますが、私が子供の頃、夏休みの度に行った地方にある母親の実家が似たような古民家で、懐かしいような気がしました。

また、遠野と言えば柳田國男著の「遠野物語」です。8年前に読みました。もちろん座敷わらしの話しも出てきます。

2013年8月後半の読書と感想、書評(遠野物語)
旧家にはザシキワラシという神の住みたもう家少なからず。
この神は多くは十二三ばかりの童児なり。
おりおり人に姿を見することあり。
(中略)この神の宿りたもう家は富貴自在なりということなり。

遠野にも河童淵がありましたが、この小説で出てくる二つ目の短編で河童の舞台は、富士山の裾野辺りが舞台です。

そして最後の天狗伝説のある場所は、広島の北方、島根、鳥取との県境あたりが舞台です。

主人公は、貧乏な文学部の女子大生4年生で、就活はあきらめ、大学院へ進もうとしているところ、民俗学者を紹介され、そこでフィールドワークを手伝うことになります。

最近読んだ小説二つにもありましたが、女子大生(短大生)と(考古)学者というカップリングはよくあるパターンみたいですね。華やかにもなり、小説にしやすいのでしょうね。

妖怪ものですがまったくホラーという感じではなく、ライトにサクッと読めますので、気分転換などに読むといいかもです。

★★☆

2月後半の読書と感想、書評 2021/2/27(土)

022 砂の王国(上)(下) (講談社文庫)
2010年単行本、2013年に文庫化された長編小説です。著者の作品は好きで概ね文庫になっている小説は読んできていますが、その中でもこちらはコミカルなところはほとんどなく、シリアス路線の社会問題小説です。

国内では何年かに1回は、新興宗教の社会問題が現れては消えてを繰り返していますが、そうした繰り返される新興宗教をテーマにした作品です。

主人公は家庭に問題はあったものの、有名大学を出て、一流証券会社でエリートだけが務められるディーリングを経験してきましたが、そこから脱落してからは絵に描いたようなアルコール中毒、家庭崩壊、やがては貯金も尽き41歳でホームレスとなってしまいます。

そのホームレス生活のリアルが長々と描かれていて、気分もめちゃ落ち込んできたところで、「社会に復讐してやる」「ここから反撃だ」と、意を決して変わり者だけどその姿に威光が感じられるホームレスと、もう一人コールドリーディングが得意なインチキ占い師と競馬で得た大金を元手に怪しげな新興宗教を立ち上げます。

そうした立ち上げ時期の苦労話が、事細かいために、かなり重量感のあるページ数になってしまった感があります。もう少しあっさりした内容でも良かった気がします。

最初は地道に会員を集めていくなかで、口コミなどで徐々に広まっていき、政治家や映画俳優なども加わることで、一気に規模が大きくなっていきます。

どうもこの主人公は、自意識過剰気味なところがあり、「自分以外は誰も信じられない」「人をうまく使いこなすことができない」「1歩先を考えるのは上手いが、2歩3歩先が読めない」という、私を含めてどこにでもいそうな過去に成功したビジネスマンという感じで、「同類相憐れむ」ではないですが、憐憫の情を感じます。

事業でも小規模で社員全員の顔がよくわかっている間のマネジメントは割と簡単にできても、ある規模を超えるときに問題が噴出し、一気に崩落していくことがあります。それは宗教も同じです。

ということで、最後にどうなっていくかは、タイトルから想像しなくても自ずと知れたことですが、この主人公にも、本田技研の藤沢氏や、ソニーの井深氏など、絶対に裏切らない親友や部下、身内が周囲に何人かいれば、、、って思うと気の毒に思えてなりません。小説にリアルな感情移入してしまい、読んでいて「なにやってんだ!」とか思わず叫びそうになってしまいました。

★★☆

11月後半の読書と感想、書評 2020/12/2(水)

021 噂 (新潮文庫)
2001年刊、2006年に文庫化された、1997年にデビューした著者の比較的初期の頃の作品です。

年齢が同年代と言うこともあり、作風が気に入り、好きな作家さんで、「オロロ畑でつかまえて」の頃から文庫化された小説はほとんど読んでいますが、この作品は漏れていました。

著者の作品には「なかよし小鳩組」などコミカルな作品も多いのですが、逆に若年性アルツハイマーを描いた「明日の記憶」などシリアスな小説も多くあります。

この小説は、売らんがために創出したクチコミで顧客の商品を売りたい広告会社の社員と、猟奇殺人を追う刑事が主人公のシリアスな小説です。

この本が書かれた当時は、まだネットの普及もそれほどではなく、ようやく携帯電話が高校生にも普及してきた時代ですが、いまのネット社会に普通にあるクチコミの拡散手法や欺瞞的なステルス・マーケティングのような話題がバンバン出てきて、先を見る目があるので驚きです。

10年ぐらい前に書かれた犯罪小説を読むと、どうしても内容に古さを感じてしまいますが、この小説ではそれが感じられず、よく考えられた小説です。

★★★

5月後半の読書と感想、書評 2018/5/30(水)

020 ちょいな人々 (文春文庫)
2008年に単行本、2011年に文庫化された短編小説集です。この著者の本は文庫はほとんど読んでいるお気に入りの作家さんです。

収録されているのは「ちょいな人々」「ガーデンウォーズ」「占い師の悪運」「いじめ電話相談室」「犬猫語完全翻訳機」「正直メール」「くたばれ、タイガース」の7篇です。

タイトルにもなっている「ちょいな人々」は、本人は一生懸命でも、周囲から見るとその行動や発想がこっけいで、軽薄に見えてしまう人々っていう感じの話です。ま、そうしたイジられキャラの人っていますよね。

「ガーデンウォーズ」は一軒家の隣人同士、枝が伸びて日当たりが悪くなったり、家庭菜園でよく発生するうどんこ病が拡がったりとよく起きそうな問題でいがみ合いますが、最後は両家が協力せざるを得ないオチだったり。

う〜ん、、この著者は短編作品も多いのですが、残念ながらこれはイマイチのってこれません。

デビュー作の「オロロ畑でつかまえて」や映画化もされた「明日の記憶」、「僕たちの戦争」などが長編が好きです。そしてまだ読んでいませんが、直木賞に輝いた「海の見える理髪店」も、楽しみにしています。

★☆☆

7月前半の読書と感想、書評 2017/7/15(土)

019 幸せになる百通りの方法 (文春文庫)
2012年に単行本、2014年に文庫化された短編集です。収録されているのは、「原発がともす灯の下で」「俺だよ、俺。」「今日もみんなつながっている。」「出逢いのジャングル」「ベンチマン」「歴史がいっぱい」「幸せになる百通りの方法」の7編です。

著者は過去4度直木賞候補に挙がりながら受賞を逃しています。時間の問題で、近いうちに受賞されるでしょうけど、ユーモアもあり、いい作品が多く文庫化されたものはほとんど読んでいます。

1作目の「原発がともす灯の下で」はタイトルが示すとおり、2011年に大震災と原発事故が起きた後に書かれたもので、あの災害と事故から日本人の生に対する考え方、生き方に変化が現れ、小説もそれに沿った新しい流れができてきたかなと感じています。

好きなのはオレオレ詐欺の電話をかけている役者志望の男が主人公の「俺だよ、俺」、プータローの息子を叱ったあと会社をリストラされてしまって、家族に言い出せないでいる「ベンチマン」。

離れて暮らしていても通じる親子の関係や、ちょっとした日常の変化で気がつく夫婦の絆とか、つらくて厳しい世の中で必死にもがきながら生きている中にも、ホッと心温まる話しもあります。

本のタイトルにもなっている「幸せになる百通りの方法」は、ビジネス書がすべてみたいな「意識高い系男子」が自由奔放ながらも暗く後ろ向きの歌ばかりを路上で歌っているホームレスな女の子にひかれていくという変わり種ストーリーでなかなか面白かったです。

ただ、こうした短編作品も悪くはないのですが、個人的には「明日の記憶」や「愛しの座敷わらし」のような長編が私は好きです。実入りの割に校了するまでに時間と手間がかかってたいへんだろうとは思いますが。

★★☆

10月前半の読書と感想、書評 2015/10/14(水)

018 月の上の観覧車 (新潮文庫)
2011年に単行本、2014年に文庫化された短編小説を集めた作品です。収録されている作品は「トンネル鏡」「金魚」上海租界の魔術師」「レシピ」「胡瓜の馬」「チョコチップミントをダブルで」「ゴミ屋敷モノクローム」「月の上の観覧車」の8編です。

著者とは年齢が1歳違いと近く、今までに時代と共に見聞きして体験してきた経験則も似ているということもあり、作品は概ね好きで、文庫になった作品の多くは読んできました。

特に早くから若年性アルツハイマー病についての作品「明日の記憶」(2005年)や、直木賞候補にもなった「あの日にドライブ」、タイムスリップもの「僕たちの戦争」、短編の「千年樹」などそれぞれに味があり、また感性が合っていいものでした。

この短編集では仕事、日常の生活、家族の死、淡い初恋など身近なテーマで淡々と語られていき、主人公の年齢も立場もそれぞれですが、なにか重い過去を背負ってきたり、感受性が豊かな普通の市井の人達って感じがして、それゆえに感情移入がしやすく、面白い作品に仕上がっています。

ただそれだけに感動とか、どんでん返しとかに期待はしちゃいけません。

次はビジネス的に求められるこのような短編小説ではなく、じっくりといい長編を書いて、今度こそ誰もが直木賞を推薦する作品に仕上げてもらいたいものです。

★★☆

7月後半の読書と感想、書評 2015/7/29(水)

017 ひまわり事件 (文春文庫)
文庫化されると必ずといっていいほど読むのが習慣となっている荻原浩氏のこの作品は、2009年に単行本、2012年に文庫化されました。

過去に4度直木賞の候補になりながら、まだ受賞はされていませんが、そう遠くないうちに受賞されることは間違いないでしょう。本来なら2004年の「明日の記憶」で直木賞を取っていても不思議ではありません。ちなみに同作品は山本周五郎賞を受賞しています。

私の感想では、荻原氏と経歴も作風も似ていて歳は3つ若い奥田英朗氏は、その2004年に「空中ブランコ」で直木賞に輝いています。時々読んでいるとこれは奥田氏の作品だったか荻原氏のだっけと間違えることがありますが、直木賞に限っては荻原氏にツキがありません。

ひまわり事件の舞台は、ひまわり幼稚園とその幼稚園の隣りに建っていた老人ホームひまわり苑で、幼児と先生、老人がそれぞれが主人公と言える珍しいパターンです。

私も以前なにかで「老人ホームと幼稚園・保育園・小学校を同じ敷地内に作ることで、老人達は子供達から若々しい生のエネルギーをもらい元気になり、子供達はお年寄りや障害者などを大事にすることを覚え最適だ」ということが書かれていましたが、この小説では、幼稚園と老人ホームとのあいだにあった塀を取り除くことで起きる、双方の気持ちがそれとはまったく逆で笑ってしまいます。

しかし残念なことに、この手の小説では、大人(著者)が、勝手に都合よく描く子供(幼児)が、あまりにも現実的ではなく、腑に落ちないことが多くてヘキヘキします。

荻原氏は「ママの狙撃銃」や「押入れのちよ」などで可愛い子供を主人公に仕立てた小説がいくつかありますが、私的にはそれらはあまり秀作とは思えず、いかにも大衆ウケしそうな物語を無理くり作っているようにしか思えません。

私が読んだ荻原作品でお勧めは「明日の記憶」や「神様からひと言」「僕たちの戦争」です。できれば今後は大人のシリアス路線でいってもらいたいものです。

小説やドラマに登場する子供って、ステレオタイプでほとんどがダメな大人よりも部屋の片付けや料理までできてしっかりしていたり、物事をよく知っていて大人顔負けというのが多く、一種ダメな大人からするとそれが理想的な子供の姿なのかもしれませんが、そういうのは現実的にはあり得ないし、可愛げもありません。

この小説でも大人を驚かせるスーパーな幼児が登場しますが、読んでいてその点が不快でもありしらけるところです。幼児は幼児らしく、自分勝手でわがままで、すぐにピーピーと泣き、人見知りをして、知らない人とはろくすっぽ喋れないというのが当たり前なので、それでは現実的過ぎて小説やドラマとして成り立たないというのであれば、使わないのに限ります。

ただ幼児は親の鏡だというのは、この小説に登場する親とそっくりな子供ほどではないにしても、経験上共感を覚えます。

6月前半の読書と感想・書評 2013/6/19(水)

016 オイアウエ漂流記 (新潮文庫)
荻原氏初の無人島漂流ものということで、著者と内容その両方に興味があるのでさっそく買ってきました。無人島漂流ものは古くから小説やそれを原作とした映画がよくありますが、子供の頃からずっとあこがれています。

ちょっと思い出すだけでも、
「ロビンソン・クルーソー」「十五少年漂流記」「蠅の王」「サバイバル・ファミリー」「青い珊瑚礁」「ブルーラグーン」「パラダイス」「流されて」「6デイズ/7ナイツ」「キャスト・アウェイ」「無人島に生きる16人」「東京島」「冒険ガボテン島」「LOST」などがあります。

荻原氏は「誘拐ラプソディー」や「愛しの座敷わらし」などコミカルで軽いものから、「明日の記憶」や「千年樹」などシリアスなものまで幅広くユニークな作品を連発してきましたが、この「無人島漂流」をどう調理するのか楽しみで購入しました。

場所は南太平洋、よくあるパターンで嵐に遭遇した小型旅客機が海に不時着し、這々の体で脱出した乗客がどうにか無人島に上陸。すぐさま救援隊が来ると思ってら、一向に現れず、仕方なく生きていくために無人島生活を始めます。

無人島に上陸した10人のうち9人は日本人で、1人だけアメリカ人。その日本人のうち5名は仕事絡みで、会社の上下関係や同行していた顧客との関係があり、最初のうちはサラリーマンの悲哀や世にも不思議な習慣が楽しめます。

と言っても荻原氏がよく知っている1990年代のサラリーマンと、21世紀に入ってからのサラリーマンではだいぶんとその習性が変わっていて、若い人が読むと理解できないことも多いのじゃないかな。

あと「キャスト・アウェイ」や「6デイズ/7ナイツ」のように漂流したのが1人や2人ではなく、10人の団体での生活なので、最初のうちは「すぐ助けがくるはず」とまったく緊張感がなく、また十数人が流された「東京島」のように、人間のエゴと暴力、そして本性が丸出しともならず、実社会の延長のまま淡々と過ぎています。

そのようなのんびりしたメンバーばかりなので、島に漂着して本来ならすぐにやるべき食料や飲料水の確保とか発見してもらいやすくするための火起こしなどもせず、拍子抜けです。

普通ならもしものことを考えて、火を絶やさないよう焚き火を何カ所かに分けておくだろうに、火が消えてライターが壊れるともう火がおこせなくなったり、突然のスコールで大慌てしたりと10人も揃っていて現代人はそこまでバカになったのか?と読んでいて不思議に思ってしまったり。

今までの荻原浩氏の作品と比較すると、エンタメ作品としては理解できますが、あまりにも想像できないとんでも設定で、しかもその内容に上記の通り緊張感がなく、正直言って失敗作品じゃないのかなぁって。映画化をして、もう少しリアル感を出せば、それなりに面白く見られるかなというのが率直な感想です。

そういえば荻原作品はどれも映画化に向いていると思うのですが、意外と映画化されたのは渡辺謙主演の「明日の記憶」と高橋克典主演の「誘拐ラプソディー」だけです。「明日の記憶」は最高にいい映画でした。

テレビドラマ化された「僕たちの戦争」や「神様からひと言」以外にも、「千年樹」「あの日にドライブ」「コールドゲーム」「メリーゴーランド」など映画化して面白そうな作品がいっぱいありますが、なぜか伊坂幸太郎氏の作品のようには映画化が実現しません。

3月前半の読書 2012/3/17(土)

015 千年樹 (集英社文庫)
私とほぼ同年齢の現代小説を主とする作家さんで、テーマが多岐にわたり、その内容は深く、私は刊行された小説(20数冊)の文庫になったものはほとんどは読んでいます。

特に印象に残っているのは「オロロ畑でつかまえて」「誘拐ラプソディー」「神様からひと言」「僕たちの戦争」「明日の記憶」などです。

この千年樹は、大きな樹齢千年と言われる樫木を中心とし、その拡がる枝葉のように様々な年代で様々な人が死と生を積み重ねていく姿を連作形式で書かれたものです。

時代は千年前の平安時代から始まり最後は現代ですが、中間は、江戸時代や、昭和でも太平洋戦争の時代や現代などを行ったり来たりします。

時代が次々に飛びますので、しっかりと記憶して読んでいないと、後でその関係性がわからなくなったり(まったく関係ないことも多い)します。

この手法は荻原氏の新しい試みなのでしょうか、今までの小説のように軽くサラッと読んでいると混乱をきたします。

それにしても荻原浩氏はここ最近何度も直木賞候補に挙がりながらも、あと一歩のところで逃し、ちょっと気の毒なところがあります。

しかし同じく私が贔屓にしている佐々木譲氏も昨年に60歳で直木賞を受賞されましたので、荻原氏も間違いなく数年のうちには受賞され、受賞後のインタビューで感想を聞かれたときには「待ち疲れました」と言ってもらいたいものです。

8月後半の読書 2011/9/4(日)

014 四度目の氷河期 (新潮文庫)
2009/10/26読了

「BOOK」データベースより
小学五年生の夏休みは、秘密の夏だった。あの日、ぼくは母さんの書斎で(彼女は遺伝子研究者だ)、「死んだ」父親に関する重大なデータを発見した。彼は身長173cm、推定体重65kg、脳容量は約1400cc。そして何より、約1万年前の第四氷河期の過酷な時代を生き抜いていた―じゃあ、なぜぼくが今生きているのかって?これは、その謎が解けるまでの、17年と11ヶ月の、ぼくの物語だ。

013 あの日にドライブ (光文社文庫)
あの日にドライブ 」というタイトルや表紙の写真だけ見るとリゾート地を走るさわやかなドライブ物語のように思えますが、エリート銀行マンからタクシー運転手になった中年男性の物語です。

タクシー業界のことが詳しく書かれていて(どこまで事実かどうかは知りませんが)面白おかしく読めます。さすがに名ストーリーテラー荻原浩です。ただ終わり方がどうもスッキリしません。

6月前半の読書 2009年6月14日 (日)


「BOOK」データベースより
牧村伸郎、43歳。元銀行員にして現在、タクシー運転手。あるきっかけで銀行を辞めてしまった伸郎は、仕方なくタクシー運転手になるが、営業成績は上がらず、希望する転職もままならない。そんな折り、偶然、青春を過ごした街を通りかかる。もう一度、人生をやり直すことができたら。伸郎は自分が送るはずだった、もう一つの人生に思いを巡らせ始めるのだが…。

012 ママの狙撃銃 (双葉文庫)
2009/02/14読了

「BOOK」データベースより
「もう一度、仕事をしてみないか」。二人の子どもにも恵まれ、ささやかながら幸せな日々を送る福田曜子の元に届いた25年ぶりの仕事の依頼。幼い頃にアメリカで暮らした曜子は、祖父エドからあらゆることを教わった。格闘技、護身術、射撃、銃の分解・組立…。そう、祖父の職業は暗殺者だったのだ。そして、曜子はかつてたった一度だけ「仕事」をしたことがあった。家族を守るため、曜子は再びレミントンM700を手にする。

011 押入れのちよ (新潮文庫)
2009/02/03読了

「BOOK」データベースより
失業中サラリーマンの恵太が引っ越した先は、家賃3万3千円の超お得な格安アパート。しかし一日目の夜玄関脇の押入れから「出て」きたのは、自称明治39年生れの14歳、推定身長130cm後半の、かわいらしい女の子だった(表題作「押入れのちよ」)。ままならない世の中で、必死に生きざるをえない人間(と幽霊)の可笑しみや哀しみを見事に描いた、全9夜からなる傑作短編集。

010 誘拐ラプソディー (双葉文庫)
2008/10/26読了

「BOOK」データベースより
伊達秀吉は、金ない家ない女いない、あるのは借金と前科だけのダメ人間。金持ちのガキ・伝助との出会いを「人生一発逆転のチャンス?」とばかりに張り切ったものの、誘拐に成功はなし。警察はおろか、ヤクザやチャイニーズマフィアにまで追われる羽目に。しかも伝助との間に友情まで芽生えてしまう―。はたして、史上最低の誘拐犯・秀吉に明日はあるのか?たっぷり笑えてしみじみ泣ける、最高にキュートな誘拐物語。

009 さよならバースディ (集英社文庫)
2008/05/31読了

「BOOK」データベースより
霊長類研究センター。猿のバースディに言語習得実験を行っている。プロジェクトの創始者安達助教授は一年前に自殺したが、助手の田中真と大学院生の由紀が研究を継いだ。実験は着実に成果をあげてきた。だが、真が由紀にプロポーズをした夜、彼女は窓から身を投げる。真は、目撃したバースディから、真相を聞き出そうと…。愛を失う哀しみと、学会の不条理に翻弄される研究者を描く、長編ミステリー。

008 なかよし小鳩組 (集英社文庫)
2008/02/20読了

「BOOK」データベースより
倒産寸前の零細代理店・ユニバーサル広告社に大仕事が舞いこんだ。ところが、その中身はヤクザ小鳩組のイメージアップ戦略、というとんでもない代物。担当するハメになった、アル中でバツイチのコピーライター杉山のもとには、さらに別居中の娘まで転がりこんでくる。社の未来と父親としての意地を賭けて、杉山は走りだすが―。気持ちよく笑えて泣ける、痛快ユーモア小説。

007 明日の記憶 (光文社文庫)
2007/11/25読了

「BOOK」データベースより
広告代理店営業部長の佐伯は、齢(よわい)五十にして若年性アルツハイマーと診断された。仕事では重要な案件を抱え、一人娘は結婚を間近に控えていた。銀婚式をすませた妻との穏やかな思い出さえも、病は残酷に奪い去っていく。けれども彼を取り巻くいくつもの深い愛は、失われゆく記憶を、はるか明日に甦らせるだろう!

006 コールドゲーム(新潮文庫)
2007/11/16読了

「BOOK」データベースより
高3の夏、復讐は突然はじまった。中2時代のクラスメートが、一人また一人と襲われていく……。犯行予告からトロ吉が浮び上がる。4年前、クラス中のイジメの標的だったトロ吉こと廣吉。だが、転校したトロ吉の行方は誰も知らなかった。光也たち有志は、「北中防衛隊」をつくり、トロ吉を捜しはじめるのだが――。やるせない真実、驚愕の結末。高3の終らない夏休みを描く青春ミステリ。

005 オロロ畑でつかまえて (集英社文庫)
2007/11/03読了

「BOOK」データベースより
人口わずか三百人。主な産物はカンピョウ、ヘラチョンペ、オロロ豆。超過疎化にあえぐ日本の秘境・大牛郡牛穴村が、村の起死回生を賭けて立ち上がった!ところが手を組んだ相手は倒産寸前のプロダクション、ユニバーサル広告社。この最弱タッグによる、やぶれかぶれの村おこし大作戦『牛穴村 新発売キャンペーン』が、今始まる―。第十回小説すばる新人賞受賞、ユーモア小説の傑作。

004 メリーゴーランド (新潮文庫)
2006/12/01読了

「BOOK」データベースより
過労死続出の職場を辞め、Uターンしたのが9年前。啓一は田園都市の市役所勤務。愛する妻に子供たち、あぁ毎日は平穏無事。…って、再建ですか、この俺が?あの超赤字テーマパークをどうやって?!でも、もう一人の自分が囁いたのだ。“やろうぜ。いっちまえ”。平凡なパパの孤軍奮闘は、ついに大成功を迎えるが―。笑って怒って、時々しんみり。ニッポン中の勤め人の皆さん、必読。

003 僕たちの戦争 (双葉文庫)
2006/09/19読了

「BOOK」データベースより
2001年9月12日―NYのビルに飛行機が突っ込んだ翌朝も、尾島健太はサーフィンをしに海に出ていた。が、突然の大波に呑み込まれ失神、目を覚ますとそこは1944年だった。一方、1944年9月12日―帝国海軍飛行術練習生の石庭吾一は、訓練中に雷雲に突っ込み墜落、現代へとタイムスリップしてしまう。そっくりな容姿のせいで互いに入れ替わってしまう格好になった二人。健太は大戦末期の軍隊でサバイバル生活を送ることになり、吾一は堕落した祖国の姿を嘆きつつも、健太の恋人、ミナミに惹かれてゆく。過去を知る者と、未来を知った者。二人の若者を通して描く、あの戦争、この時代。

002 ハードボイルド・エッグ (双葉文庫)
2006/01/20読了

「BOOK」データベースより
私の名は最上俊平。私立探偵だ。フィリップ・マーロウを敬愛する私は、ハードボイルドに生きると決めているが、持ちこまれるのはなぜかペットの捜索依頼ばかり。正直、役不足である。そろそろ私は変わろうと思う。しかるべき探偵、しかるべき男に―。手始めに、美人秘書を雇うことを決意したが、やってきたのはなんとも達者な女性で…。心優しき私立探偵とダイナマイト・ボディ(?)の秘書が巻きこまれた殺人事件。くすりと笑えてほろりと泣けるハードボイルドの傑作

001 神様からひと言 (光文社文庫)
2005/12/16読了

「BOOK」データベースより
大手広告代理店を辞め、「珠川食品」に再就職した佐倉凉平。入社早々、販売会議でトラブルを起こし、リストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へ異動となった。クレーム処理に奔走する凉平。実は、プライベートでも半年前に女に逃げられていた。ハードな日々を生きる彼の奮闘を、神様は見てくれているやいなや…。サラリーマンに元気をくれる傑作長編小説。



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