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著者別読書感想INDEX
吉田修一 YOSHIDA SYUICHI 既読書籍
010 | 橋を渡る | 009 | ひなた |
008 | 怒り(上)(下) | 007 | 横道世之介 |
006 | 日曜日たち | 005 | パーク・ライフ |
004 | 熱帯魚 | 003 | さよなら渓谷 |
002 | パレード | 001 | 悪人(上)(下) |
1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。大学卒業後、スイミングスクールのインストラクターのアルバイトなどを経験。1997年「最後の息子」で、第84回文學界新人賞を受賞し、小説家デビュー。2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞を受賞。同年には「パーク・ライフ」で第127回芥川龍之介賞を受賞。代表作は『パレード』(2002年)、『悪人』(2007年)、『横道世之介』(2010年)、『怒り』(2014年)、『国宝』(2019年)など。(Wikipediaより引用 2022年) |
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010 | 橋を渡る(文春文庫) | |
2014年から2015年にかけて週刊文春に連載された長編小説で、2016年に単行本、2019年に文庫化されました。 第1部に相当する「春」には、子供がいない夫婦の住む都心の一戸建て住宅に、父親の海外赴任の関係で高校生の甥が居候することになり、静かだった家に騒動が起きることになります。 第2部の「夏」では、東京都議会議員の妻が主人公で、セクハラヤジで大問題化し、自分の夫があのヤジを飛ばしたのではないかと疑念と不安を持ちつつ、子供がそのことでいじめられないか、自分が周囲のママ友達から後ろ指を指されないか不安に陥り精神的に追い詰められていきます。 そして早くその話題がニュースからなくなり忘れ去られることを願っていますが、一番仲の良かったママ友が、スイミングスクールのインストラクターと逢い引きしているところを偶然見てしまい、、、 第3部の「秋」は東京のテレビ局でドキュメンタリー制作をしている男性が主人公で、ある日妻が浮気をしていることを知り、一度は許すつもりだったのが、妻から三行半を突きつけられ思わず首を絞めてしまい、逃亡を謀り遠く対馬まで流れてきたものの、指名手配で通報され捕まります。 ここまでに「歌舞伎町風俗」「セウォル号沈没」「東京都議会セクハラヤジ」「STAP細胞論文不正」など、当時実際に起きた風俗や事件が出てきます。 そして第4部の「冬」では時代が一気に70年後の東京に飛んでしまい、そこでは先の1部〜3部で登場してきた人やその子供達がそれぞれに絡んでくると言うややこしい物語です。 なにがややこしいかと言って、第1〜3部にはそれぞれ登場人物が何人も出てきますので、第4部ではその人たちとさらに子供や孫達でもう誰が誰だったかよくわからず何度も前へ読み返すことになります。 せめて登場人物相関図でもあれば良いのですが、そういう気の利いたものはもちろんなく、記憶力の悪い人(私)にはなかなか理解するのがたいへんでした。 ★☆☆ 1月前半の読書と感想、書評 2024/1/13(土) |
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009 | ひなた(光文社文庫) | 久しく著者の作品を読んでないなぁと思って見つけたこの2006年単行本、2008年文庫化とちょっと古い小説を読んでみました。著者の小説は好きなのでよく読んだと思っていましたが、前に読んだのは2017年1月ですから6年間も間が空きました。 ただし、今回の作品はイマイチ著者の作品としてはキレも深みもなく、男女4人のそれぞれが秘密を持ちつつ日常生活を淡々と送っていき、特に大きな波乱も破綻も起きず、それぞれが秘密の日記を書いているかのような体裁です。 今まで読んだ著者の作品は、主人公が犯罪など重い苦悩や葛藤を抱えた重厚な話しが多かった気がしますが、今回は恋愛にしても不倫にしてもいたって軽々しくこれが現代風か?とも思えますが、あとになって知りましたが、初出が女性ファッション雑誌のJJに連載小説として書かれたものということでなんとなく納得です。 若い大学生の女性、その恋人の大学生の男性、その男性の年の離れた兄とその妻の4人が、それぞれ主人公になって語っていくというストーリーです。 大学生の男性は幼児の頃に余所からもらわれていたという過去があり、そのことが最後には明らかになりますが、特に驚天動地ということもなく、収まるところにスッと収まるような話しです。 ★☆☆ 4月後半の読書と感想、書評 2023/5/3(水) |
008 | 怒り(上)(下) (中公文庫) | 2012年から2013年にかけて読売新聞に連載されていた小説で、2014年に単行本、2016年に文庫化されました。 また2016年には李相日監督、渡辺謙主演で映画も公開され、妻夫木聡と綾野剛のゲイの絡みシーンなど話題が豊富な作品でした。 どういう内容かはまったく知らないまま小説を読みましたが、簡単に言えば犯罪ミステリー小説で、八王子で起きた夫婦殺害事件の容疑者と疑わしき男が、千葉、東京、沖縄の離島の3カ所に同時に現れ、読者をミステリーの中に引きずり込んでいきます。 千葉の漁協にアルバイトとして働きにきた無口な男性、東京のはってん場でゲイの誘いに応じた宿無しの若者、沖縄の離島で隠れるように暮らしているバックパッカー。その3人を映画では、松山ケンイチ、綾野剛、森山未來が演じています。さて追われている殺人犯人は誰でしょう? ってことで、犯人を公開捜査で追う刑事、それぞれの男達と関わり合う人達、3カ所で様々なドラマが展開されていくのがとてもスリリングで味がありよい出来です。 タイトルは、犯人が殺人現場に書き残したメッセージですが、それはストーリーには関係がなく、内容とも結びつかず、ちょっとこれはミスリードかなって感じ。他によいタイトルはなかったのでしょうか。 そう言えば、この犯人の逃走劇では、「整形手術」「ほくろ除去」「建設会社の住み込み労働」「離島での自給自足」など、「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」の市橋達也受刑者と一部かぶります。「逮捕されるまで 空白の2年7ヵ月の記録」という手記が出版されているので、それを参考にされたのでしょう。 ★★★ 1月前半の読書と感想、書評 2017/1/14(土) |
007 | 横道世之介 (文春文庫) | 2008年〜2009年に毎日新聞に連載されていた小説で、2009年に単行本、2012年に文庫化されています。また2013年にはこれを原作にした映画「横道世之介」が沖田修一監督、高良健吾、吉高由里子などの出演で公開されました(見てないけど)。 小説の内容ですが、著者自身が生まれ育った長崎から法政大学に入学して東京で生活を始めたことをダブらせ、出会いと別れ、友情などの青春群像ってところです。 著者は1968年生まれですから、市ヶ谷にある法政大学に入学したのが1986年頃で、ちょうど狂乱のバブルが始まってきたところです。そりゃーその頃の4年間の大学生活はむちゃくちゃ楽しかったでしょうね。 そのバブルの頃の様子を知りたければ、馬場康夫監督の映画「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」を見るに限りますが、とにかく老いも若きも日本中が悪魔に魅せられ高熱にうなされ、毎日がお祭り騒ぎの日々でした。 さてこの小説、ところどころに突然に現在というか、およそ20年後の登場人物の話しが出てきます。つまりストーリーとして展開しているのは80年代後半のバブル時代なのですが、主人公以外の登場人物の20年後が描かれ、「そう言えば横道世之介ってヤツがいたな」とふと思い出したりするわけです。 その主人公横道世之介の20年後はといえば、、、それは小説をお読みになってください。ハッピーエンドではないものの心温まる物語です。 4月後半の読書と感想、書評 2015/5/2(土) |
006 | 日曜日たち (講談社文庫) | 著者の作品は、「悪人」や「さよなら渓谷」など、世の中の理不尽でもあり不可解なところを鋭く突いていて、面白く読ませていただいています。この作品は連作短編集で、2003年に発刊、2006年に文庫化されています。 九州から家出をしてきたらしい幼い二人の兄弟が、各物語で微妙な味付けで登場してきます。ただ私にはその意味というか、役割がどうもよくわからずに、最後まできました。 各編はそれぞれ違った主人公が登場し、タイトルは「日曜日のエレベーター」「日曜日の被害者」「日曜日の新郎たち」「日曜日の運勢」「日曜日たち」とすべて日曜日でまとめられています。 大都会で暮らす若者を描いた作品ですが、各編ともなにかちょっと納得がいかない終わり方なのは、私の感性のなさからくるものか、それともこういうのがいま流行っているのかは定かではありません。 あるいはもっと刺激的で喜怒哀楽が散りばめられ、ジェットコースターのような展開を、知らず知らずに私が小説に期待をしてしまっているのかもしれません。そうじゃないことを願いたいばかりです。 7月前半の読書と感想、書評 2014/7/16(水) |
005 | パーク・ライフ (文春文庫) | 「パークライフ」は第127回芥川賞を受賞した著者の割と初期の作品で、2002年に初出、文庫は2004年に刊行されています。この本には表題の作品と、もうひとつまったく違う内容の「flowers」が収められています。 ここで言うパークとは日比谷公園を指していて、私も以前その近くで働いていたことがあり、周囲の風景描写などたいへん懐かしい思いで読むことができました。 内容は主人公の男性がよく待ち合わせやランチでよく使う日比谷公園のベンチで、時々見かける女性と地下鉄内でバッタリ出会い、近からず遠からずの会話が淡々と進んでいくちょっと風変わりな小説です。 中編小説としては気楽に読めていいのですが、「悪人」や「パレード」のように映画化するのは、特に山場もなく、つかみどころもなく、ちょっと難しいでしょう。 一方のもうひとつの作品「flowers」は仕事を辞め、夫婦で地方から東京へ出てきて、住むアパートが決まるまで高級ホテルで過ごしているという変わったカップルが主役です。 男は飲料水販売会社に就職が決まり、トラックで毎日配送の仕事に就き、女は劇団に入り役者の勉強中。そこに男の同僚に変わった先輩がいて、、、という流れですが、「パークライフ」と同様なにか尻切れトンボ的なモヤモヤが残ってしまう終わり方で、あまり好きにはなれません。 あ、いや、別に勧善懲悪、ハッピーエンドを所望しているわけではありませんが、こうした展開はこの著者の作品の特徴でもあるのでしょうね。それはそれで善とするしかありません。 11月後半の読書 2012/12/1(土) |
004 | 熱帯魚 (文春文庫) | 2007年に出した「悪人」が映画化され一気にブレークした感のある吉田修一氏の初期(2001年)の中短編作品集です。吉田氏の作品ではこれらの他には、優れた物語性を評価され山本周五郎賞を受賞した「パレード」を2006年に一度読み、その後不覚にも2011年に再度購入してしまい再度読んでいます。 この本には「熱帯魚」「グリンピース」「突風」のそれぞれ独立した3編が収められていますが、いずれもちょっと変わった若い男女の恋愛模様といったところでしょうか。そういえば「悪人」も同じように若い男女が織りなす恋愛が最終的には昇華していくところが描かれていました。 おおよそ一世代若い著者の作品には、やはり50代の私にはついて行けないようなところがあちこちに見受けられますが、それでも人間の卑しい感性や心理状態などを描く手腕は「うまいなぁ」と感心させられるところも多くあります。 「熱帯魚」では主人公の大工見習い中の若者と、子連れの元水商売をやっていた美人女性との恋愛と、そこに居候する引きこもりの義理の弟、近所で一人で住むゲイの大学教授などユニークな登場人物の設定で、淡々とした進行で退屈してきたところで主人公が大問題を引き起こし、同時に居候の弟が突然夫婦のお金を持って出奔するという流れでグッと引き締まります。 「グリンピース」では、唯一の親族の祖父が完全介護の病院で余命幾ばくもない状態の中、会社勤めを辞めて仕事もせずに彼女のマンションに入り浸っているというこれまただらしのない若い男性が主役です。 「悪人」でもそうでしたが、主人公の男性はだらしなく、問題を起こし、一方その男性に惹かれている女性はしっかり者で美人とくるのはこの著者の既定路線なのでしょう。 「突風」は上記2つとの設定とはやや違い、金融関連のエリートサラリーマンがなにを思ったか夏休みを房総半島の海水浴場へ行き、突然泊まった民宿でアルバイトを始めるというありえねぇというストーリー。 今どき都会の外車に乗るエリートサラリーマンが、外国にリゾートツアーをキャンセルして千葉の民宿はねぇだろと思いますが、ま、なんとなくそれなりに意外性でぶっ飛んでいて面白かったですけど。 11月前半の読書 2012/11/17(土) |
003 | さよなら渓谷 (新潮文庫) | 著者の吉田修一氏は、2002年「パレード」、2007年「悪人」などの代表作がある特に若い人に人気がある小説家です。この「さよなら渓谷」は「悪人」の翌年2008年に発刊されています。 最初の部分には、ちょうどこの作品を書いていただろう2006年に起きた秋田連続児童殺害事件の、我が子を殺しておきながら被害者の母親を装い、マスコミに追いかけ回されたあげく逮捕されるという事件をヒントに作られています。 また、犯人と被害者の心的相互依存症、ストックホルム症候群のような男女の関係も出てきたりと、ありきたりとは言え、ミステリー仕立てで登場人物の心理描写が巧みです。 誰しもちょっとした気の迷いや勢いで重大な犯罪を犯してしまう可能性があります。この小説の登場人物には大学生時代に羽目を外しすぎて、名門野球部の仲間と女子高生を寮に連れ込み、酔った勢いで乱暴を働いてしまうという取り返しのつかない凶悪犯罪を起こしてしまいます。これも現実に起きた事件を下敷きにしているようです。 都会で生活していると、満員電車で足を踏んだ肩がぶつかったで喧嘩がちょくちょく起きます。最初は口げんかで済んでいても、それがちょっとした一言やきっかけで、殴り合いになったり、ナイフで刺されたり、ホームから突き落とされたりというようなことが起きます。 多くの場合、先に手を出して相手に怪我をさせたほうが、傷害罪などに問われることになり、当然前科がつきます。厳しい勤務先なら懲戒解雇され、転職しようにも賞罰ありの前科持ちを喜んで採用してくれる会社など多くありません。一時の怒りでふとしたことからそうなってしまうと、今まで築いてきた安寧な人生が狂ってしまうことになってしまいます。 6月前半の読書 2012/6/16(土) |
002 | パレード (幻冬舎文庫) | 2002年に出版され、第15回山本周五郎賞を受賞した作品です。著者の吉田修一氏は43歳、同じ2002年に「パーク・ライフ 」で芥川賞も受賞した気鋭の作家さんです。しかしなんと言っても同氏の名前を不動のものとしたのが2007年に出版され、その後2010年に妻夫木聡主演で映画化された「悪人」でしょう。 この「パレード」も藤原竜也主演で2010年に映画化されていますが、「悪人 」ほどにはブレークせず、私も観ていません。 内容は、2LDKのマンションに男二人、女二人の独身者がゆるい共同生活をしている中に、新宿二丁目で身体を売っている若い男性が転がり込んできます。 そしてその住人一人一人が順番に一人称で語っていくというストーリーで、その方式は決して目新しくはないものの、誰が主人公で、中盤ぐらいまで物語がどのように展開していくのかよくわかりません。 今では当たり前になってきた独身者のルームシェアは、2002年当時ではまだ珍しかったのではないでしょうか。しかもこの小説で出てくるパターンは1部屋に二人が寝るという、昔の言葉で言えば相部屋パターンです。 今の若い人の多くは、一人一部屋が普通の子供時代を過ごしてきていますので、家族でもないのに一部屋に、年齢も生活パターンも違う人が一緒に住むなんてまず考えられません。一部屋に相部屋でずっと過ごすというのは、バブル時代に日本に金を稼ぎにやってきた貧しい国の人達だけの世界です。 先日読んだ「風が強く吹いている」に出てくる、学生向けの賄い付きで家賃3万円という、2階の床が抜けるボロアパート青竹荘でも双子以外の8人は一人一部屋でした。そういう点ではちょっとあり得そうもない設定ですが、そういう細かいところは無視してもいいのでしょう。 12月後半の読書 2012/1/4(水) |
001 | 悪人 (上)(下) (朝日文庫) | 金髪に染めた妻夫木聡主演で最近映画化され有名になりました。 いつも正義の味方風の役ばかりだった妻夫木聡がタイトル通り悪人役を初挑戦し、さらに根強い人気のある深津絵里との濃厚ラブシーンがあるというのが映画のウリでした。まだ観ていませんが。 著者の吉田修一氏は1968年生まれの42歳、東野圭吾氏より10歳若く、伊坂幸太郎氏と年齢的には近く、ちょうどノリにのった威勢のいい時期なのでしょう。 その伊坂氏と同様に作品数も多く、書店では平積みされ比較的よく目にするライトノベルな人気作家さんです。 この悪人では九州の地方都市で織りなす若者のライフスタイルを描いていますが、出会い系サイトや合コンで知り合った肉体だけの軽薄な男女関係の描写が多く、様々な重苦しい感情と爽やかさ交差するような恋愛ものとは一線を画しています。 この小説を読んだだけでは、この内容がどうして映画化までされるようになったか、私には少しも理解ができません。 12月前半の読書 2010/12/18(土) |
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