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スペンサー(Spenser)シリーズ ロバート・B・パーカー著 一覧

ロバート・B・パーカー スペンサーシリーズ全巻まとめ へ戻る

01 ゴッドウルフの行方
The Godwulf Manuscript
1973年
\560

大学の図書館で厳重に保管されていた中世の稀覯書(ゴッドウルフ彩飾写本)が盗まれた。
総長の依頼を受けたスペンサーは、犯人と目される学内過激派組織の秘書をつとめる女子学生テリイと接触する。
その深夜、彼女からの電話で駆けつけたスペンサーが見たものは、死体の傍らに立ちつくすテリイの姿だった!
スペンサーは彼女を殺人容疑から救おうと奔走するが、事件の裏には意外な陰謀が・・・
話題のヒーローのデビュー作
シリーズ最初の作品でマニアの中でも評価は高くお勧めの一品です。スペンサーも元警官ですが、この時から探偵小説には欠かせない殺人課の刑事マーティン・クワークとフランク・ベルソンが登場し、その後もスペンサーの良き理解者、協力者としてずっと縁があります。
02 誘拐
God Save the Child
1974年
\740

ボストン北方の町スミスフィールドで建築業を営むロジャー・バートレットの息子が家出して一週間たった。
単なる家出か、それとも…?
両親の依頼で少年ケヴィンを捜すことになったスペンサーは、彼が飼っていたモルモットだけを持って家を出たことに不審を抱く。
やがて、両親のもとに、こま漫画形式の身代金要求書が送られてきた!
スペンサーの恋人ス一ザン・シルヴァマンが初登場ずるシリーズ第二作。
スペンサーの恋人スーザン・シルヴァマンが登場します。スーザンとの絡みはその後ずっと続きますので押さえておくべきでしょう。

03 失投
Mortal Stakes
1975年
\680

スペンサーは、我が耳を疑った。
レッド・ソックスのエース、マーティ・ラブが八百長試合を?
野球賭博には大金がからむ。
あり得ない話ではない…
球団の極秘の依頼で調査を開始したスペンサーはラブの妻リングに疑いをもつ。彼女の秘められた過去が事件の鍵なのか?
やがて冷酷な犯罪組織がスベンサ一を襲うが…
現代の騎士、私立探偵スペンサーが、大リーグの黒い霧に挑む!
人気沸騰のシリーズ会心作、待望の新訳
スペンサーが活躍するボストンはもちろんレッドソックスの本拠地。パーカーもレッドソックスファンらしくメジャーの話題も時々出てきます。3作目の失投 (1975年)はそのレッドソックス球団が舞台です。
04 約束の地
Promised Land
1976年
\600

新しいオフィスでの最初の客は、シェバードと名乗る中年の客で、家出した妻バムを捜しだして欲しいという。
スペンサーは、翌朝シェパードの自宅を訪ねるが、そこで凄腕の借金取り立て屋と出くわす。
どうやら彼の抱える問題は妻の家出だけではないらしい。
一方バムはウーマンリブ運動家たちが企てた銀行襲撃事件に巻き込まれていた…
現代風俗と男女のあり方を鮮やかに描く、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作
アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞し、名実とも評価が高まってきました。
この後ほとんどのシリーズに登場する無茶苦茶強くてしかも理知的な黒人の相棒ホークが初登場です。
05 ユダの山羊
The Judas Goat
1978年
\700

車椅子の老富豪は、そこだけが生命の火を燃やしているような両眼を、ひたとスペンサーにすえた。
妻子を殺したテロリストどもを捕まえてほしい。
標的は九人、報酬は一人につき二千五百ドル、ただし生死は問わない…
老人の依頼を引き受けたスペンサーは助っ人のホークとともにヨーロツパへと飛んだ。
テロリス卜たちの反撃をくぐりぬけて、二人は組織のリーダーに迫るが…
雄大なスケールで放つシリーズ屈指のアクション篇
ヨーロッパが舞台です。依頼人の妻を死に追いやったテロリスト達を追いかけてイギリス、デンマーク、オランダなどを転々とします。相棒ホークも大活躍です。
06 レイチェル・ウォレスを捜せ
Lokking for Rachel Wallace
1980年
\680

「スペンサー、レイチェルが誘拐された。すぐに来てくれ」出版社からの電話はクリスマス気分を吹き飛ばした。
それより二ヵ月前、スペンサーは同じ出版社の依頼である女性著作家の護衛についていた。
だが、女性解放論者であり、レズビアンの彼女とば肌が合わずスペンサーは解雇されてしまった…
その女性、レイチェル・ウォレスが過激派組織に誘拐された!
彼女の足跡を追うスペンサーは大雪に閉ざされたポストンを走る!
シリーズの中でも私のベスト3に入るお気に入りです。レスビアンでフェミニスト活動家(作家)のレイチェルに最も嫌悪されているタイプの男臭いスペンサーがレイチェルの護衛につきますが、隙を突かれて誘拐されてしまいます。
07 初秋
Early Autumn
1981年
\600

離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい。スペンサーにとっては簡単な仕事だった。
が、問題の少年ポールは、対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ固く心を閉ざし何事にも関心を示そうとしなかった。
スペンサーは決心する。
ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。
ボクシング、大工仕事…
スペンサー一流のトレーニングが始まる。
ハードポイルドの心を新たな局面で感動的に描く傑作!
私がベストと思う一品。両親に捨てられたも同然で自閉症になってしまった少年ポール・ジャコミンを自立させるために立ち上がります。
スペンサーの優しさと男らしさがうまく表現されます。
この作品で作家パーカーと主人公スペンサーの名前を世界に知らしめ、ハードボイルドの世界で不動の位置を占めたと言っても過言ではありません。
08 残酷な土地
A Savage Place
1981年
\660

テレビ局のニュース記者キャンディ・スロゥンが護衛を必要としている。
レイチェル・ウォレスの依頼を受けてスペンサーはロス・アンジェルスへと飛んだ。
その晩キャンディは何者かに襲われた。
彼女が迫っている映画撮影所がらみの不正事件の公表を恐れた人間の仕業らしい。
だが彼女は脅迫に屈せず、女であることの武器を最大限に利用して、調査を続けていく…
”女性誇示”の依頼人とスペンサーの捨て身の捜査を描く会心作
 
09 儀式
Ceremony
1982年
\660

スーザンがカウンセリング指導している少女エイプリルが姿を消した。
もともと悪い噂が絶えず、売春組織に関わっていた可能性もある。
母親に懇願されたスペンサーは少女救出を引き受けた。
ところが、関係者は固く口を閉ざし、関わりあいになろうとしない。
やがて複雑な糸をたぐりよせ、ようやくエイプリルの居場所をつきとめたスペンサーの前に、狡猾な売春組織がたちはだかった!
揺れ動く少女の性にメスを入れた問題作
 
10 拡がる環
THE WIDENING GYRE
1983年
\460

上院に打ってでようというアリグザンダー下院議員の警護を引き受けたスペンサーは、彼から驚くべき事実を打ち明けられた。

何者かが妻のあられもない姿が映っているビデオを送りつけてきたというのだ。

政敵の無言の脅迫か?
打ちひしかれる議員を救うべくスペンサーは調査を開始した。

スーザン不在のなか、ホークの友情、たくましく成長したポールに支えられ、スペンサーが政界を覆う黒い霧に挑む、好調シリーズ第10弾!
原題は「The Widening Gyre」で「拡がる輪」でほぼそのままの直訳です。1983年の作品(日本語版1984年)で、スペンサーシリーズ10作目の作品です。

物語はアメリカ上院議員選挙に絡みその立候補者に頼まれ、妻のスキャンダルに関連しての依頼です。

そのスキャンダルはおそらくライバルの政敵が仕掛けてきたと推測されますが、そのやり方がスペンサーにはどうも納得がいかず、おなじみの新聞社や警察署の友人の協力を得て、その政敵である下院議員に近づいていきます。

終盤にさしかかり、珍しくギャングに撃たれてしまいますが、軽傷で済み、その後は相棒ホークの力を借りて、問題を無事に解決していきます。

この作品では、スペンサーと離れて暮らすことになった恋人スーザンとのやりとりや、18歳に成長したポール・ジョコミンとの人生についての会話など、事件以外のスペンサーの考え方、生き方などが描かれています。

そのあたりがハードボイルドを期待しているとちょっとうざっぽく思えますが、その後に続くスーザンが男を作ってロスへ旅立ったり、独り立ちしてスターになっていくポールなどとの関係の原点になるのかもしれません。

今後時々出てくる最高の銃使いヴィニー・モリスが登場します。実はこの無口な殺し屋ヴィニーが登場人物の中で私の一番のお気に入りです。以降時々ちょい役で登場しますが、恋人スーザンの護衛という役回りが多いようです。
11 告別
Valediction
1984年
\460

「わたし、どうしても一人でいたいの」そう言ってスーザンは去っていった。

西湖岸で断しい仕事につくという。
呆然とするスペンサ一のもとに舞踏団に職を得た友人ポールが、仕事の依頼を持ちこんできた。

狂信的な宗教集団(プリーズ)に連れ去られた女性ダンサーを捜してくれというのだ。

自分との孤独な闘いの中で、闇に包まれた宗教集団に立ち向かうスペンサー!

スーザンとの関係が斬たな局面を迎えるシリーズ注目作
ボストンの私立探偵スペンサーシリーズ11作目の作品で1992年に日本語訳が出ています。

今回の事件は、あるダンスチームの主宰者から怪しい新興宗教集団に自分の恋人がさらわれたと言う事件に首を突っ込むことになりますが、本当の事件はというと、スペンサーの恋人スーザンが精神科医の学位を取った後、ひとりになりたいと遠く西海岸へ行ってしまうことにあります。

そのためタフガイだったはずのスペンサーは精神的にヨレヨレになってしまい、しかもスーザンに男がいることまでわかり、振る舞いが暴力的になるのはまだいいとしても、生きていく気力までを失って、クライマックスでは拳銃を構える犯人に向かって手ぶらで向かっていき、そのため胸を2発撃たれ、意識不明の重体となってしまいます。

物語の内容というか事件そのものは、やや薄っぺらく、ご都合主義的に思いますが、タフガイのスペンサーが、イアン・フレミングの描く本当の007ジェームス・ボンドの姿−−任務のためとは言え、人をひとりやむを得ず殺してしまい、そのせいで、酒浸りになり、ひとりで悩んで苦しむ−−とダブって見えます。

リタ・フィオーレは最初は検事補、その後敏腕弁護士として登場しますが、何度もスペンサーを誘惑しようとしてフラれ続けます。
12 キャッツキルの鷲
A Catskill Eagle
1985年
\720

西海岸へ去ったスーザンから手紙が来た。留置場に入れられたホークを助けてほしいという。
スーザンは新しい土地で恋人を得たが、スペンサーとの間で悩み、見かねて訪れたホークが逆に恋人の罠にはまったのだ。
そればかりか、今度はスーザンがその恋人にどこかへ拉致されてしまった。
ホークを脱獄させたスペンサーは、彼女を求めて決死の捜索行に乗り出す!
雄大なスケールと息もつかせぬアクションで放つ、シリーズ話題作

 
13 海馬を馴らす
Taming a Sea-Horse
1986年
\500

十六歳の時に自ら売春婦の道を選んだエイプリルが、突然姿を消した。

親がわりのスペンサーは、彼女が売春婦を食い物にする悪質な店にいることを突さとめ、なんとか連れ戻そうとする。

が、その店の男に夢中のエイプリルは耳を貸そうとせず、数日後、ふたたび失踪してしまった。

行方を追うスペンサーのまえに、やがて卑劣な犯罪組織存在が浮かび上がる…

背徳の街で巨大な悪に闘いを眺むスペンサー!「儀式」の続編
「儀式」では通りで身を売るしか救いがなかった少女エイプリルを、比較的まともな高級娼館の女主人へ引き渡してどうにかどん底から救い出したものの、そこで新たに知り合った男に騙され、飛び出したまま行方不明になります。

そのエイプリル・カイルを救うためにスペンサーが活躍をするわけですが、エイプリルを引き抜いたポン引き男を見つけて情報を引き出し、さらにその同じ男に使われている娼婦のジンジャーへも接触をします。そこで彼女から12歳の時に父親に性的暴力を受け、その父親に16歳で娼館へ売られた過去の身の上話を聞くことになります。

その後その娼婦は誰かに殺されてしまい、スペンサーの怒りに火がつきます。なぜジンジャーが殺されなければならなかったのか?誰が殺したのか?そして飛び出していったエイプリルは今どこにいるのか?黒幕は誰か?という謎だらけの追跡が始まります。

それらの事情を調べるため、まず手始めに殺されたジンジャーの故郷へ出向き、そこで父親にジンジャーの仇とばかりに、わざと喧嘩をふっかけ、殴り合いをするあたり、まさにスペンサー流の調査といったところです。

タイトルの「海馬」は「タツノオトシゴ」や「セイウチの別名」という意味と、最近脳科学などでよく聞く「本能的な行動や記憶に関与する大脳辺縁系の一部」という意味があります。

最初は、深く考えずにただ本能だけで行動するエイプリルのことを指しているのかと思いましたが、作品が書かれた1982年頃と、原題の「Taming a Sea Horse」からするとやっぱり「タツノオトシゴ」で、エイプリルのことを、海流などの流れに逆らわず、外洋を漂い、擬態を用いて隠れ住むその特性に重ねているのしょう。全然違ってたりするかも。
14 蒼ざめた王たち
Pale Kings and Princes
1987年
\600

ニューイングランドの田舎町で、コカイン密売を追っていた新聞記者が惨殺された。
調査を依頼されたスベンサーは現地に赴くが、警察をはじめ町全体が事件に関して完全に口を閉ざし、手掛かりがつかめない。
やがて、事件に絡む三人の女が浮かんだ…
警察署長の妻、若いソーシャル・ワーカー。
記者殺しは不倫の清算だったのか、密売組織の仕業なのか?
非情なドラッグビジネスの世界に挑むスペンサーの苦闘!
スペンサーシリーズ14作目(全40作)となる小説です。スペンサーシリーズは23作を既に読んでいて、今までに2回同じ作品をダブって買ってしまいましたが今回は大丈夫でした。

ストーリーは南米人が多く住む地方都市で新聞記者が殺された事件を解明するために出掛けます。

なんとなくコカインの犯罪との関係が臭うのですが、続けてスペンサーが接触をした警察署長やその子供までが殺され、意外な展開へと続いていきます。

もちろん相棒ホークもジャガーに乗って後半からですが颯爽と登場します。
15 真紅の歓び
Crimson Joy
1988年
\500

ボストンの街は異常な連続殺人事件に恐れおののいていた。

被害者はみな黒人女性で、股間を撃ち抜かれ、胸には赤いバラが残されていた。

警官と自称する犯人の手紙を受け取ったクワーク警部補は、外部の人間であるスペンサーに協力を求め、独自の捜査グループを作る。

ところが、スペンサーに挑戦状が届き、精神科医である恋人スーザンに危険が迫るにおよんで事態は一挙に緊迫した!

狂気の殺人鬼に立ち向かうスベンサー。
パーカーの作品では珍しく、通常は「私」が語る一人称が多い中で、この小説では犯人と思わしき人物が淡々と独り言のように語っているところがあります。

その犯人とスペンサーの推理が最初は遠いところにあるものの、徐々に近づいていき、最後には交わっていくところがなんともスリルがあって楽しめます(実際は犯人自らから近づいていったのですが)。

内容は、黒人の中年女性が惨殺される事件がボストンで相次ぎ、ボストン市警のクワークに頼まれてスペンサーも犯人捜しを始めます。

そして別のよく似た事件が起き、その犯人が捕まりますが、クワークもスペンサーも犯人は別にいることを確信します。しかし連続殺人事件を早く決着したい人達の妨害を受けながら、引き続き真犯人捜しを続けることになります。

タイトルは、犯人が警察やスペンサーに対する挑戦状を突きつけ、さらに女性を殺した現場に真っ赤な薔薇を残していくという、快楽殺人に通じるところからきているのでしょう。

このシリーズの中には、殺し屋に狙われ命からがらということも多い中、この作品ではそのような場面はなく、そして最後はあっけない幕切れとなり、悪役がサイコっぽい異常者だとしてもどうも小粒すぎて、相棒ホークが活躍するシーンもなく、やや全体に物足りなさを感じます。

この作品では派手なアクションではなく、恋人スーザンとの知的でエロチックな会話や、スーザンの精神科医としての専門性を生かした犯人の行動分析などに重点を置いた楽しみ方をするのが正しいのかも知れません。
16 プレイメイツ
Playmates
1989年
\520

名門タフト大学の理事会がスペンサーに妙な依頼をしてきた。

同校は全米大学バスケットボール・リーグの有カ校なのだが、最近故意に得点を減らしているとの噂が流れており、その真偽を確かめてほしいというのだ。

やがてスペンサーは、リーグ最強の黒人選手ドウェインが巧妙に得点操作をしていることに気づく。

将来を約束された彼がなぜそんなことを?

八百長事件に巻き込まれたスター選手のために一肌脱ぐスペンサー!
大学のバスケットチームに所属し、プロのスカウト間違いなしと言われている選手に八百長疑惑が起きたことで、その大学が私立探偵スペンサーに調査を依頼するところから始まります。

八百長をおこなったかどうかの調査なら、すぐに終わってしまいますが、パーカーの理想とする探偵像はそれだけにとどまらず、依頼者である大学を裏切ってでも、将来のスター選手の芽をつみ取ってしまうだけのことに満足せず、殺し屋を送り込んでくる八百長を仕組んだマフィアを敵に回しながら、スキャンダルに発展しないよう落ち着き先を考えます。

またその生意気で自信過剰で、そそのかされて八百長に手を染め道を外そうとしているスター選手を心身両面で支え、賢明に助けようとするガールフレンドの誠実な対応に報いてやろうとするところが、スペンサーのスペンサーたる所以でもあるでしょう。

スポーツの世界を舞台としたこのシリーでには他に「失投」があります。こちらはメジャーリーグ、地元のボストンレッドソックス所属選手のやはり八百長問題についての調査でした。

スペンサー自身レッドソックスのファンでもあり、その他の小説の中にもホームグラウンドのフェンウェイ・パークや、メジャー中継をテレビで観戦しているシーンが登場しています。

中にはレッドソックスのライバル球団として「ヤンキースに入団した風変わりな日本人」と当時悪役のイメージがあった伊良部投手のことを書いたものもありました。
17 スターダスト
Stardust
1990年
\640

ハリウッドの人気女優ジル・ジョイスが、ドラマのロケでポストンにやって来た。

彼女は謎の脅迫を受けて怯えており、スペンサーは身辺警護と調査に当たることになった。

だが、気難しく、いつも酔ってばかりいるジルは、真相を探るのに必要な情報さえなかなか教えてくれない。

やがて、ジルのスタント役の女性が死体で発見され…

実在するショウ・ビズ界のスターたちの様々な逸話をちりばめた、スペンサー流ハリウッド物語
ボストンの私立探偵スペンサーが初めて登場したのが1976年「ゴッドウルフの行方」(日本語翻訳の単行本は1984年、文庫版は1986年)ですから、米国ではスペンサーが登場してすでに37年が経ちます。

その間、著者も読者もどんどんと年を取っていきますが、小説の中に登場するスペンサーの年齢はほとんど変わらず、いつも若々しくたくましいナイスガイをキメてくれます。

さて本作品は原題も「Stardust」で、激しい視聴率争いを繰り広げるテレビの人気女優に襲いかかる正体不明の相手にスペンサーとホークが活躍します。

その「スターダスト」以降、「昔日」や「虚空」「春嵐」などにも登場するロサンジェルスの顔役を護衛しているメキシカンの腕利きガンマン、チョヨがここで初登場します。

こうして長くスペンサーシリーズを読んでくると、小説に登場する女性には一定の法則があるようで、その多くは最初はわがままで、放埒的で、セクシーなファッションを身につけ、誰もが振り返りそうな美人です。

今回は売れっ子女優ということもあり、それが特に強調されているのでそう感じるのかも知れませんが、パーカーの一種あこがれが反映していたとも思えなくはありません。
18 晩秋
Pastime
1991年
\600

スペンサーとの運命的出会いから十年−−自閉症の少年から、ダンサーとしてすっかり成長したポールが新たな問題を抱え、スベンサーの前に現れた。
連絡のとれない母親を捜し出してほしいという。調べると、母親はチンピラと駆け落ちし、しかもその男はギャング組織の金を持ち逃げしていた。
やがて、スペンサーは男を追うギャングと渡りあうことに・・・
スペンサーの生い立ちを挟み、親子と男女の絆を描く名作「初秋」の続編
初秋の続編で、初秋で救った少年ポール・ジャコミンが立派なアーティストになって登場します。
19 ダブル・デュースの対決
Double Deuse
1992年
\560

少年ギャンク団の縄張りで、14歳の少女とその赤ん坊が12発の銃弾を撃ち込まれて殺害された。

卑劣な犯行に憤るスペンサーとホークは殺人の証拠をつかむため、彼らの周囲を監視する。

やがて浮かび上がったのは、暴行、強盗、麻薬所持などの行為に走る無軌道な少年たちの恐るべき姿だった。

彼らとの直接対決に挑むべく、二人はギャンク団の拠点に乗り込んでいった!スペンサーの人生に新たな転機が訪れる、シリーズ注目作
スペンサーシリーズ第19作目で、1992年の作品です。いつもなら主人公の私立探偵スペンサーが依頼者から捜査や人捜しを頼まれ、当初は単独で動き始め、途中からホークに助っ人を頼むという流れですが、この作品では珍しくホークがテレビ局に勤める友人の女性のためにスラム街団地「ダブル・デュース」で暴力犯罪組織をつぶすため、逆にスペンサーを助っ人に雇うというストーリーです。

スペンサーはホークからこの仕事の手助けを頼まれたとき、報酬は半分と主張しますが、ホークからはそれだけの価値はないと一蹴され三分の一で受けることに。この絶妙感がたまりません。結局は報酬は元々ゼロだったので、半分でも三分の一でも変わりはなかったんですけどね。

この小説に出てくる不良グループのリーダーは、その後更正して「スクール・デイズ」(33作目、2005年)に登場しスペンサーを助けます。

私の場合読む順序が逆になってしまったので、その時には知りませんでした。この長いスペンサーシリーズでは過去の事件で登場した人物がよく出てくるので、それもまた楽しみになっています。

恋人スーザンとの関係では、この回でトライアル的にスーザンのアパートで同棲生活を始めますが、結局はうまくいかず元のアパートへ帰ることになります。それは最初から見えていましたけどね。
20 ペーパー・ドール
Paper Doll
1993年
\620

商級住宅地で名家の女主人が何者かに殺された。
警察の捜査に業を煮やした被害老の夫は、スペンサーに調査を持ち込んだ。
被害者には恨まれる理由はなく、通り魔の犯行としか思えなかった。
だが、被害者の家族と会ったスベンサーは夫と息子、娘のそれぞれが秘密を抱えていると感じる。
幸せな家族の姿は幻影なのか?やがてスペンサーに調査を妨害する巨大な圧力がかかり…
シリーズ中もっとも緻密なプロットで贈る第20作
スペンサーの友人達が多く登場します。中でもゲイの刑事リー・ファレルにはとっても味があります。
21 歩く影
Walking Shadow
1994年
\740

恋人のスーザンたっての願いで、スペンサーは彼女が理事を務める劇団の美術監督を尾ける不審な影の正体を探ることになった。

しかしその矢先、劇団の俳優が射殺され、その犯人捜しも依頼される。
さらに理事の一人を尋問した直後中国人ギャングが手を引けと脅してきた。

警察も非協力的ななか、スペンサーは助っ人にホークとギャングのヴィニイ・モリスを呼び寄せるが…
重層的なブロットで読みごたえ十分のシリーズ迫力篇
スペンサー・シリーズ21作目のこの作品は1994年に発刊(ハヤカワ文庫は2001年発刊)されました。今度のスペンサーの相手はアメリカ社会に根付く中国マフィア達との闘いです。

恋人スーザンが所属する劇団員が公演中に射殺され、地元警察は頼りにならないので、その犯人を追い詰めるため方々へ出掛けて蜂の巣を突きに回ります。

そうするとそれが気に入らない中国人マフィアのボスが出てきて最初は脅し、次には実際に若い殺し屋のベトナム人を使って襲撃を仕掛けてきます。

いずれも難なくしのいで、自分のケツを守るため、いつものように相棒ホークと、射撃の名手ヴィニイ・モリスを雇っていよいよ中国マフィアとの対決を仕掛けていきます。

銃を抜くのが速いはずのスペンサーとホークが半分ぐらい抜いたところでヴィニイがすでに3発撃って敵を倒すシーンなんかはゾッとします。

タイトルの「歩く影」(原題:Walking Shadow)とは、殺された劇団のメンバーが「何者かにいつもあとをつけられている」ということと、チャイナタウンに巣くう中国人マフィアのことを、とあるチャイナタウンに詳しい白人系の刑事が自分の親に言わせるとその存在が「歩く影」だと言っていたことによります。

スペンサーシリーズとしては比較的長めの小説ですが、その分読み応えがたっぷりで、最後まで事件の真相が謎でわかりにくく、20年近く前に書かれたものですが、意外と内容の古さは感じられず(ウォークマンやカーフォンなどが出てくるのはその時代の流行だったので仕方なし)、なかなかお勧めの一冊です。
22 虚空
Thin Air
1995年
\740

スペンサーの朋友ベルソン部長刑事は、失踪した新妻リーサの捜索中何者かに撃たれて重傷を負った。
瀕死の彼に、調査を引き継ぐことを誓ったスペンサーはリーサがギャングの男によって拉致され、監禁されていることを突き止める。
スペンサーは、ギャングの抗争に乗じてリーサを救い出すべく、ロス・アンジェルスから強力な応援を迎え入れた…
極限状態におかれた人間の絶望と勇気を描ききる、シリ一ズ中屈指の感動作
ホークの登場しない珍しい作品で、舞台はロサンジェルス。

友人でもある刑事フランク・ベルソンの妻を救い出すため、LAのギャングチョヨと組むことに。
23 チャンス
Chance
1996年
\820

ボストンの暗黒街を牛耳るギャングの娘婿、アンソニイがとつぜん失踪し、捜索依頼がスペンサーのもとに持ち込まれた。
原因はギャング間のトラブルだろうか?
スペンサーはホークと協力し、アンソニイに病的なまでの賭博癖があることを突止める。
彼がギャングの金を持ち逃げしたと読んだスベンサーは、行方を求めて巨大娯楽都市ラス・ヴュガスへ飛ぶ…
欲望の街にとらわれた愚かな男たちにスペンサーの拳が炸裂する!
 
24 悪党
Small Vices
1997年
\800

元検事補の女性から、スペンサーは一年ほど前に彼女が担当した殺人事件の再調査を依頼した。
容疑者の黒人の男には有罪刑決が下っているが、当時十分な弁護がされていなかったのではないかというのだ。
スペンサーは調査を閲始するが、奇妙なことに事件の関係者は不審な態度を見せ、再三脅迫を受ける。
スペンサーは愛するスーザンに警護をつけ、敢然と真相を追及する。
が、何若かに銃撃され瀕死の重傷を負うことに!
スペンサーが殺し屋グレイ・マンに撃たれ瀕死の重傷に。グレイ・マンとはその後和解し、仲間になります。
25 突然の災禍
Sudden Mischief
1998年
\780

スーザンの元夫プラッドがセクハラで訴えられた。
20年ぶりに現われた元夫に対する複雑な想いを胸に、スーザンはスペンサーに助力を求める。
調査を開始したスペンサーに対し、当のブラッドは容疑を否定し弁護士を雇おうともしない。
訴訟を起こした女性は、法曹界の大物を夫に持ち、妥協の余地はなかった。
やがてスペンサーのもとへ二人組が現われ、調査をやめるように脅しをかけてきた。
単純と思われた訴訟の裏に何が…
 
26 沈黙
Hush Money
1999年
\840

ネヴィンズ教授は自殺した学生と同性愛関係だったのか?

教授の潔白を証明するよう依頼されたスペンサーは、学生がゲイの著名人を暴露するミニコミ誌を作っていた事実を突きとめる。

同時にスペンザーは、スーザンの友人の美女KCをストーキングする男の正体も探っていた。

だがスペンサーに歪んだ愛情を抱くKCが、執拗に彼につきまとい…

ただならぬ二つの恋愛事件はスペンサーとスーザンの関係に波紋をなげかける!?

1999年初出、日本語文庫版2005年発刊のスペンサーシリーズ26冊目の本で、原題は「Hush Money」口止め料という意味です。口止め料を払うから沈黙なのか、口止め料を払ったことを沈黙するのかよくわかりませんが、ま、そのような内容です。

10月前半に読んだ「ダブル・デュースの対決」と同じように異例の始まり方を見せます。

つまり相棒ホークから、知り合いの黒人の教授が、生徒と不適切な関係を結んでいたと告発がありピンチに立たされていると相談をされ、お金になりそうもないそのその事件を調べることになります。

と、同時に恋人スーザンからも「友人がストーカーに悩まされている」と相談され、それにも並行して応えることになります。

この全然関係のないふたつの事件を調べていくわけですが、ミステリー小説ファンならば、別々で起きたそのふたつが、最終的はつながっていくと推測するでしょう。私もそう思いましたが、それはありませんでした(笑)。

それぞれを別々にスペンサー風に解決していきますが、なぜ同時進行にしたのかは不明です。

アメリカ国内の黒人とゲイ、それぞれがまだ社会問題として存在しているという問題提起でもありますが、単なる表面上の描写だけでなく人の心の奥深くまでを探っていくところにこの小説の素晴らしいところがあります。

あと謎の多いホークの少年〜青年時代の話しが少し出てきます。これはホークファンにとっては見逃せない作品でしょう。
27 ハガーマガーを守れ
Hugger Mugger
2000年
\840

スペンサーのもとに、遙か南部のジョージア州から依頼人がやってきた。
彼の経営する厩舎馬が何者かに次々と銃撃され、前途有望な競走馬ハガーマガーも狙われているので、犯人を探し出してはしいというのだ。
スペンサーは単身ジョージア州に赴く。
厩舎は厳重に警備されていたが、スペンサーは不穏な空気を感じ取っていた。
競走馬でない馬までも銃撃する犯人の目的は?
やがて凶弾は、思いもかけぬ標的に襲いかかった!
 
28 ポットショットの銃弾
Potshot
2001年
\840

西部の小さな町ポットショットから来た美女は、夫を殺した犯人を捕らえてほしいとスペンサーに依頼した。
無法者集団<ザ・デル>の仕業で、町の警察や保安官は静観しているという。
やがて町に赴いたスペンサーは早くも<ザ・デル>と対決し、町の有力者たちが彼らの一掃を要請する。
その数は40人以上。だが、スペンサーは各地から、ホークを初めとする腕利きのガンマンを集める。
その一方で殺人事件の調査を進めるが・・・
過去のシリーズで登場したガンマン達(ホーク、ヴィニー・モリス、テディ・サップ、バナード・フォーチュナート、チョヨ、ボビー・ホース)が結集して荒野の七人をやります。
29 笑う未亡人
Widow's Walk
2002年
\840

初老の裕福な銀行家が殺され、28歳も年下の妻が逮捕された。
弁護士の依頼で調査を始めたスペンサーは、あまりの単純さにかえって不審を抱く。
釣り合わない結婚、事件直前の大喧嘩、アリバイの欠如。
彼女に夫殺しを頼まれたという男まで現われる。
ここまでうかつな犯人があるだろうか?
だがやがて、関係者の裏の繋がりを探り出したスペンサーに銃口が向けられた!
私立探偵スペンサーがポストンに巣食う悪に立ち向かう
 
30 真相
Back Story
2003年
\840

28年前に母を殺した犯人を見つけてほしい…
ある女性から依頓を受けたスペンサーは、迷宮入りしていた事件を調査することに。
被害者は、たまたま銀行強盗の現場に居合わせ、理由もなく射殺されたと思われていた。
だが調べるうちに、FBIの不可解な関与や、大物ギャングの影が見えてくる。
さらに、スペンサー自身やスーザンにも脅迫が及び…
警察署長ジェッシイ・ストーンもゲスト出演する、記念すべきシリーズ第30作
 
31 背信
Bad Business
2004年
\860

夫の不貞の決定的証拠を掴んでほしい。
依頼人の女性マーリーンはスペンサーにこう懇願した。
彼女の夫トレントンは世界的大企業の最高財務責任者だという。
調べを進めるうちに明らかとなる、奇妙な男女関係。
やがてトレントンが会社で死体となって発見され、さらには同社の警備部長まで不審な死を遂げてしまう。
事件を追うスペンサーは、巨大企業の暗部に足を踏み入れることに…。
スペンサーが専門外の事件に挑む異色作
 
32 冷たい銃声
Cold Service
2005年
\840

背中から銃嬢され、ホークが瀕死の重傷を負った。
彼が護衛していた賭け屋一家も殺され、ホークは静かに復讐を誓う。
しかし事件の背後には襲撃の実行犯であるウクライナ・ギャングだけでなく、旧知のギャング、トニイ・マーカスをはじめ、様々な人物の思惑が絡み合っていた…
スペンサーの協力のもと、ホークは真相を追い、復讐計画を練り上げていく。
砕かれた誇りを取り戻す、ホークがホークであるための闘いが始まる!
相棒ホークが撃たれ重傷を負う。対決するために以前スペンサーを撃ったグレイ・マンやヴィニーに協力を依頼する。
33 スクール・デイズ
School Days
2005年
\840

ボストン郊外のハイスクールでスキーマスクをした二人組による銃乱射事件が発生、生徒の少年二人が逮捕された。
容疑者の一人、ジェレドの祖母がスペンサーを訪れ、孫の濡れ衣を晴らしてほしいと言う。
スペンサーは調査を始めるが、警察をはじめ関係者は皆、事件に早く幕を引きたがっている様子だ。
背後にはいったい何が隠されているのか?
スーザンもホークも不在のなか、孤高の騎士スペンサ一が少年の心の奥に潜む真実を探る
 
34 ドリームガール
Hundred-Dollar Baby
2006年
\880

かつて二度にわたりスベンサーに窮地を救われた元非行少女エイプリル。
美しく成長した彼女がスペンサーを頼って現われた。
自ら経営する娼館が何者かの営業妨害を受けていると言う。
ホークと共に護衛に乗り込んだスペンサーだったが、脅迫に至った事情をエイプリルはなぜか頑なに隠し続けようとずる。
「これが私。あなたには救えない」と心を閉ざすエイプリルを憂慮するスペンサー。
もう一度彼女を救うことはできるのか?

今回は過去に2度(「儀式」と「海馬を馴らす」)危ないところを救い出した女性が、スペンサーの本拠地ボストンで高級娼館を経営していたところ、そこへ謎の相手から妨害が入るようになり、スペンサーが乗り出すというストーリーです。

助っ人にはホークはもちろん、最強のゲイと言われているテディ・サップも応援に駆けつけます。このテディ、名前がサップとつくので、どうしても私のイメージとしてはボブ・サップとなってしまうのですが、こちらは白人の銃使いです。

この小説のヒロインは少女の頃から売春をしていて、現在もその中から抜け出せずにいます。スペンサーと恋人スーザンとの会話の中で娼婦についての話しとなり、スペンサーは若い頃に兵士として従軍していた時、その休暇を使い仲間達と「巣鴨のホテルに泊まり、娼婦を買い、そして戦地へ戻った。娼婦を買ったのはその時が最後」と語る場面がありますが、過去の話とはいえ恋人に自分が娼婦を買ったことがあるなんて話しをするとはなんともはやです。

そこで、あれ?スペンサーってベトナム(実質的なアメリカ参戦は1965年〜1975年)へ行ったことあったっけ?と思いましたが、スペンサーシリーズ第1作目は1973年の発行で、その時既に警察官を経験した上で、探偵に職を変えていましたからちょっと無理があります。

解説を読んでわかったのですが、スペンサーは1950年代の朝鮮戦争へ兵士として行ったことになっていたそうで、このシリーズが大ヒットして、約40年間も続いてしまったものだから、そこのあたりの年代が合わなくなってきたということです。確かに仮に20歳で朝鮮戦争へ従軍していたとすれば、今は80歳近い年齢となりますから、ちょっとハードボイルドのイメージが崩れてしまいます。小説の中でも「戦地に行った」としか書いてなくぼかした扱いになっています。

小説の中では一切年齢は明かしてきませんでしたが、イメージとしてはスペンサーはシリーズ最初の頃は30代後半、最近のものは40代の半ばという感じがします。理由は、ボストン市警の警部(マーティン・クワーク)にいつもタメ口を聞いているので、さすがに30代ではありえないだろうと。
35 昔日
Now & Then
2007年
\900

「大学教授をつとめる妻の言動がおかしい、調べてくれないか」そう依頼してきた男は妻への疑いと愛情のはざまで苦悩してした。
その姿に過去の自分を重ねたスペンサーは、日頃は引き受けない浮気調査に取り組む。
やはり妻は同僚と浮気をしていた。
だが、その調査は意外な事実を掘り当てていた。
妻の浮気相手は、ただならぬ背景を持つ危険人物だったのだ。
そして犠牲者が…
許し難い敵にスペンサーの怒りが爆発する

ロバート・B・パーカー氏の作品の中で、スペンサーシリーズとしてはラスト4にあたる2007年に出された小説(日本語版は2008年)です。

今まで行った書店の中では、このスペンサーシリーズが一番多く置いてあったのは、丸善丸の内本店ですが、そこでもシリーズの8割ぐらいしかなかったように記憶しています。保管場所に困らないAmazonでも全部が在庫としては持っていないので、シリーズ全部揃えるのはたいへんな苦労です。

そのうちまだ文庫として未発刊分のものを含め、38冊全部が箱詰めされて発売されるかもしれませんね。熱烈なファン以外「誰が買うねん、そんないっぱい」とも思いますが。

さて物語は、お馴染みの相棒ホークと、ガンマンのヴィニー・モリス、西海岸から応援に駆けつけたメキシコ系のチョヨが揃い、なかなか表面化してこない殺人集団を自らがそのターゲットとなって探していきます。

ちなみにスペンサーもホークも最高のガンマンと認める二人、ヴィニー・モリスの活躍は「拡がる環」「歩く影」など数多く、チョヨの活躍は「スターダスト」や「虚空」などで見られます。

題名は、妻の浮気調査を依頼してきた旦那が、その証拠を得た後に、夫婦とも何者かに殺されてしまったことから、その夫婦の復讐に燃え、さらに昔、スペンサーから離れていった恋人スーザンの心変わりが、今回の妻の浮気を心配する旦那の気持ちにシンクロして、それが関連づけられているのだと思われます。
36 灰色の嵐
ROUGH WEATHER
2008年
\880

裕福な婦人からの依頼は奇妙なものだった。娘の結婚式で自分のそばにいてほしいというのだ。

スベンサーは引き受け、スーザンとともに孤島に赴く。

突然の嵐の中、豪華な招待客を集めた結婚式が強行される。だが武装した一団が襲来し、花嫁を連れ去った。

一団を率いていたのは、スペンサーと深い因縁のある灰色男(グレイ・マン)だった。

彼らしからぬ犯行。そして婦人の依頼の裏にあるものは?

疑惑を抱き、スペンサーは調査を始める!
残り少なくなってきたスペンサーシリーズ36作目は、過去(「悪党」「冷たい銃声」)に登場し、最初はスペンサーの命を奪う目的だったのが、その後は和解し、時には仲間としても活躍するようになった全身灰色ずくめの腕利き殺し屋グレイ・マンと再び対決することになります。

この謎だらけでクールなグレイ・マンの人気は高いのですが、この小説で再び適役となってしまった以上、主人公は死ぬわけにはいかないので結局グレイ・マンが死んでしまうのかとちょっと残念に思いながら読み進めます。

最初に娘の結婚パーティが開かれる島の女主人に護衛を依頼されながら、スペンサーの目の前でその娘が誘拐され、花婿や護衛が殺される事件が勃発し、その主犯がなんと顔見知りのグレイ・マン。

そこから二人の闘いが切って落とされます。その後ボストンへ戻ってからは、「なぜグレイ・マンともあろう男がこのような雑な事件を起こしたのか?」「裏で糸を引いているのは誰か?」などを相棒ホークとともに調査を始めます。

しかし「首を突っ込むな」というグレイ・マンの警告に対し、一歩も引くことはないスペンサーをやがてつけ狙う殺し屋が現れたり、グレイ・マンや、パーティが開かれた島の持ち主、その元結婚相手などを調べていくうちに、徐々に謎が明らかとなっていきます。

このあたりは、いつものことですが、「わからない時は、とにかくいろんな人を尋ね歩き、つつき回すと、それを気に入らないと思う奴らがしびれを切らせて尻尾を出す」ということで、その通りになっていきます。

そして、最後の対決のためグレイ・マンがスペンサーの部屋へやってきて語る自身の過去とは、、、う〜ん、、、
37   邦訳版なし
Chasing the Bear: A Young Spenser Novel

2009年
-
 
38 プロフェッショナル
The Professional
2009年
\940

男は、ゲイリー・アイゼンハワーと名乗っていた。腕利きの強請屋だ。

歳の離れた裕福な夫を持つ若妻たちを次々と誘惑し、その関係をばらされたくなければ大金を支払えと要求する。

だが彼に脅された妻たちの依頼を受けたスペンサーは難なくゲイリーの正体を突き止めた。

スペンサーの調査と交渉により事態は収束へ向かうかに見えたが、その矢先に予想もしなかった殺人が!

自らに誇りを持つ男たちの美学を描き上げた注目作
いよいよパーカー最後の作品まで残り少なくなってきましたが、2009年に出版され、つい先日ようやく日本で文庫化された作品です(単行本は高くて買えない)。

ボストンの私立探偵スペンサーシリーズもこの作品を含め残り3作品となります。

この作品では派手なアクションはなく、金持ちの若い妻ばかりを狙って親密交際し、やがて金をゆすり取ろうとする魅力あるジゴロと、その強請をやめさせて欲しいと依頼されたスペンサーとの関係が楽しめる作品です。

話しの前半は、スペンサーもやがて好意すら持ってしまうそのジゴロというか女たらしの男性のことをずっと調べあげ、後半はその男に入れあげるセレブな若妻を中心として物語が進んでいきます。

スペンサーの魅力ある相棒ホークもヴィニィも登場しますが、その腕前を披露する機会はまったくなく、淡々としたストーリーで盛り上がりには欠けますが、じっくり落ち着いて読ませます。

パーカー自身もかなり高齢(77歳頃の作品)で、スペンサーの思考法にもその老成したところが見え隠れするたいへん面白い一品です。
39 盗まれた貴婦人
Painted Ladies
2010年
\940

17世紀の名画「貴婦人と小鳥」が美術館から盗まれ、身代金が要求される。

解件を内密に処理したい美術館側の意向を受けた美術史教授のプリンスが受け渡しに赴く。

依頼を受けたスペンサーは護衛として彼に同行した。

だが受け渡しは失敗、プリンスはスペンサーの眼前で命を落としてしまう。

誇りをかけ、無償での調査を開始するスベンサー。

だが事件の鍵は名画の来歴に潜む闇の奥に存在した。

サスペンスフルに展開する注目作
この小説にはいつもお馴染みの相棒ホークやその他友人のガンマンが登場してこない珍しい作品です。それだけに派手なアクションシーンはないかと思っていたら、いきなりプロの傭兵らに命を狙われることになり、二度も死にかけます。愛犬パールの直感や、偶然が重なり怪我もなく助かるところはかなりご都合主義のところがありますが、主人公ですから仕方がありませせん。

いつもならホークやヴィニーなど腕のいい相棒に背中を守られて読者も安心して読めるのですが、今回は州警察のヒーリィ、ボストン市警のマーティン・クワーク、フランク・ベルソンや検察にいるお友達の助けを借りながら、基本自己解決で頑張ります。それは私立探偵としてのプライドをめちゃくちゃにされたことによります。

美術館から盗まれた小鳥と貴婦人を描いた絵画を取り戻すため、美術館の顧問を務める大学教授から、犯人から要求があった金と絵画の受け渡し時の護衛を引き受けたスペンサーですが、なすすべもなく目の前で教授は爆殺されてしまいます。

殺された教授の周辺を調べていくと、教授自身のスキャンダルや保険金、大物弁護士、それに元アウシュビッツで殺されたユダヤ人とその末裔のグループなどが浮かび上がってきます。そうした藪を突いていると、殺し屋が現れ、スペンサーの捜査の方向が間違っていないことを確信していきます。

もうこの調査スタイルは水戸黄門の印籠のようで特に変わりはありませんが、なぜ相手側がリスクがあり、手のかかる殺害方法をとるのか?とか、たまたま関係者を尾行をした時に限り黒幕と思われる男が一緒にいるのか?とか、オランダ美術に詳しい人を探していたら偶然知り合った愛犬仲間が紹介してくれたりとか、あまりにもうまく出来過ぎているな?と思わなくもありません。こういう小説はスピード感が重要なので、あまり細かなことにこだわるよりもスイスイいくのがいいのでしょうね。
40 春嵐
Sixkill
2011年
\940

ポストンで新作映画を撮影中の俳優ジャンボ・ネルソンの部屋で、若い女性が変死した。

人気スターのスキャンダルにマスコミは大騒ぎし、誰もが断罪を求める。だが事件を担当するクワーク警部は証拠もなしに彼を逮捕する気はなかった。

クワークの示唆を受けたスベンサーは、弁護側に雇われる形で調査に乗り出したが、そこでジャンポの護衛についていた一人の青年と出会う・・・

圧倒的な支持を受けてきた人気シリーズの最終作
2010年に亡くなった著者の最後の作品で、2012年に邦訳の文庫が発刊されています。ボストンの私立探偵スペンサーシリーズは40年間続き、全39作品、私がこのシリーズを読むのもこれが38作目(1作は邦訳版なし)で一応最後となります。

今回は前作同様に準レギュラーだった相棒ホークが旅行中ということで登場しないぐらいで、内容的には従来のものと特に変わったことはなく、著者としてはまだまだスペンサーシリーズを書きたかったんだろうなと思えてきます。また著者と同様に老いてタフな探偵から引退するスペンサーを描く気はなかったと見えます。

ストーリーは、ある映画俳優が宿泊していたホテルの部屋で、若い女性が絞殺された状態で発見され、当然その俳優が疑われます。スペンサーの知り合いの刑事がやってきて、どうも不明な点が多く、興味本位のマスコミは俳優へのバッシングを続ける中、なにか引っかかるということで調査を頼まれ、俳優を守りたい映画制作会社と弁護士を通して調査を引き受けることになります。

この作品ではもうひとりの主役がいます。それは殺人容疑者がかかる映画俳優のボディガードを勤めていたものの、スペンサーにこてんぱんに痛めつけられたことでクビとなり、スペンサーの元へ弟子入り?することになったアメリカ先住民(インディアン)の男ゼブロン・シックスキル(通称Z)です。

今までクワークやホークをはじめとして多くのタフガイを仲間にしてきましたが、今回新たな仲間入りをすることになったZは残念ながら最初で最後の登場となってしまいました。

とは言え、スペンサーシリーズは別の作家が後を引き継いで書くらしいので、それらの作品にはまたホークもZも登場することになるのでしょう。ジェームズ・ボンドが登場する007シリーズが原作者イアン・フレミング亡き後、すでに何作も作られているような感じでしょうか。

最近のアメリカでのエンタティメントでは出演者の人種構成にとても過敏で、映画やドラマ、コマーシャルフィルムなどを見ても、昔のように白人ばかりが出てくるというのは皆無で、例え白人が主役でも、必ず人種構成比を考慮しアフリカ系や先住民系、南米系、東洋系などのマイノリティを混ぜることが求められています。

それに配慮したかどうかは不明ですが、このシリーズではアフリカ系のホークがほぼレギュラーで登場し、その他にもスペイン系(メキシコ系)や東洋系(主に中華レストランですか)の人物がよく登場してきます。白人においてもアイルランド系、ユダヤ系、ラテン系、ゲルマン系、ロシア系など各種が登場します。それが今回ではアメリカ先住民ということなのでしょう。

名作だった「初秋」で両親からほとんど捨てられた状態の少年ポールに対し、自立して強く生きる術を教えたように、家庭や友人に恵まれず、クスリと酒浸りになっていたZに、立ち直るきっかけとして強い意志と戦う力を時間をかけて教えていきます。なんとなく初期の頃の作品初秋をもう一度読み返したくなりました。 

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著者別読者感想INDEX

イアン・フレミング著「007ジェームズ・ボンドシリーズ」全巻まとめ

同じく好きなローレンス・ブロックの「元アル中探偵マット・スカダーシリーズ

私立探偵ハードボイルド小説2つ 2014/12/24

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【関連リンク】
スペンサーシリーズの読み方(初級者編)

さらばスペンサー!さらばロバート・B・パーカー

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