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読書感想INDEX

白石一文 SHIRAISHI KAZUFUMI
022 記憶の渚にて 021 一億円のさようなら
020 019 彼が通る不思議なコースを私も
018 愛なんて嘘 017 光のない海
016 快挙 015 幻影の星
014 心に龍をちりばめて 013 この胸に深々と突き刺さる矢を抜け(上)(下)
012 砂の上のあなた 011 ほかならぬ人へ
010 永遠のとなり 009 見えないドアと鶴の空
008 どのぐらいの愛情 007 私という運命について
006 もしも私があなただったら 005 草にすわる
004 僕のなかの壊れていない部分 003 すぐそばの彼方
002 不自由な心 001 一瞬の光
読書感想は2010年頃以降に書くようになりました。それ以前に読んだ本の感想はありません。


白石 一文(しらいし かずふみ、1958年8月27日 - )は、日本の小説家。父は直木賞作家の白石一郎。双子の弟は小説家の白石文郎。2010年「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞。初の親子二代での受賞となった。福岡県福岡市生まれ。福岡県立福岡高等学校29期を経て、早稲田大学政治経済学部卒業。その後、文藝春秋に入社、週刊誌記者、文芸誌編集などを経る。1992年、瀧口明の名で投稿した『惑う朝』(応募時タイトルは『鶴』)で第16回すばる文学賞佳作。1994年、滝口明の名で『第二の世界』を上梓。2000年、白石名義での「一瞬の光」で再デビューする。パニック障害を患い、一時休職。現場復帰するも、退社、作家専業となる。「どれくらいの愛情」が第136回直木賞候補作となる。2009年「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」で第22回山本周五郎賞を受賞する。2010年「ほかならぬ人へ」で第142回直木賞を受賞する。(Wikipediaより引用 2022年2月)


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022 記憶の渚にて(角川文庫)

記憶の渚にて2016年に単行本、2019年に文庫版が出版された小説で、ジャンルとしてはミステリーとか一部ファンタジー?という感じの話でした。文庫版で577ページという長編です。

第1部では地方都市で零細なアトピー患者向け石鹸の販売代理をしている主人公が、長く疎遠状態だった作家をしていた兄が謎の自殺し上京しますが、兄の世話をしてくれていたと思われる女性を探し出したところ、その女性と離婚した元夫から難癖を付けられあっさりとナイフで刺されて死んでしまいます。

第2部では第1部から数年後、主人公とその自殺した兄の義理の甥という縁者が主人公となり、作家として活動していますが、自殺した作家の叔父がなぜ自殺しなければならなかったのか、叔父と仕事で関係があった元新聞記者とともに調べていきます。

このあたりから、宗教やスピリチュアルの話が多くなってくるのと、人間関係が叔父や叔母、腹違いの姉妹、遠い親戚など多くの人が登場してきてなかなか頭の中で整理がつかなくなります。

一応、巻頭には主な登場人物が書かれていましたが、実際に登場するのはその何倍もの人たちが次々出てきて、メモリー領域が少ない私は完全にオーバーフローしました。

本当なら登場人物と同時に、その相関関係図(家系図など)もあれば良いのですが、それは後でわかる本題のミステリーの要素にも関わってくるので最初には書けないでしょう。

こうした遺伝子に組み込まれているという前世に経験したことや、手をかざして治療する特殊能力、一晩でアトピーが治る神秘の樹木、亡くなった人の天の声が聞こえるなど、霊やスピチュアルな話はどうも苦手で、読んでいて徐々にしらけてしまったのは個人的な問題で、エンタメとしては脈々とつながる壮大なドラマという話になっています。

★☆☆

3月前半の読書と感想、書評 2024/3/16(土)

021 一億円のさようなら(徳間文庫)

久々に面白い長編小説に出会うことができました。著者の作品は過去に20作品読んでいますが、その中のベスト3に確実に入る面白さでした。

この原作を元にして、NHK BSプレミアムで上川隆也、松村北斗などの出演のドラマが製作されています。

2018年に単行本、2020年に文庫化された通常の文庫本2冊分ほどある665ページの長編ですが、テンポ良くすらっと読めてしまいます。

ただ、家庭や仕事でいままさに悩んでいる人がこれを読むと、リストラや子どもの勝手な振る舞い、妻への不信など、重苦しい場面が次々と発生しますので、ストレスが加わって精神的にはあまりよろしくないかもしれません。

主人公は、東京の大手医療機器会社で理不尽なリストラに遭い、親戚の叔父が経営する福岡の化学メーカーに誘われ順調に出世していたものの、叔父が引退してからは閑職へ追いやられている中年サラリーマンです。

主人公には学生の娘と息子がいますが、それぞれ若い身で結婚を前提とした恋人がいて、娘は妊娠、息子の彼女は息子の従姉妹にあたり、主人公を閑職に追いやった会社の社長の娘という複雑さです。

そしてタイトルにあるように、妻には亡くなった叔母の遺産を相続した数億円の遺産があり、それをずっと隠していることがあるとき発覚します。

主人公は、そうした子供達の問題や、妻の隠し財産、仕事の問題などにより人間不信に陥り、妻に黙って福岡の家を出て金沢で新たに人生をやり直すことにします。

タイトルの「一億円」とは、妻が隠していた財産があることがバレた後に、主人公の夫に好きに使って良いと渡したお金です。その一億円を持って仕事を辞めて家を出て、金沢で再起するという流れです。

小説の中には、悪意に満ちた邪悪な人が何人も出てきます。誰でもそういう人を何人も見てきているでしょう。私もそうした邪悪な人が出てくると、今までせっかく忘れようと努力してきましたが、ある人物のことが思い浮かび、凄く嫌な気持ちになりました。

私の昔話でもそれほど強烈に思い浮かべてしまいますので、いま現在そうした邪悪な人と関わり合いを持っている人は思わず投げ捨ててしまいたくなるかも知れません。

例えば、いまイジメで苦悩している人が、イジメを喜々として仲間と共におこなっているシーンが何度も出てくる小説を読めるか?ということです。

小説の主人公は、そうした邪悪な人を見て、自分の中にもそうした同じ邪悪な感性があるのかもと悩む場面もありますが、それらに打ち勝てる強さがあり、また慕ってくれる社員や家族がいて救われます。

まるで上がったり下がったりのジェットコースターのように浮き沈みを経験する人生を生きていく主人公ですが、果たしてここまで一人で決めて強くなれるか?と言うと、自分は自信はないです。

★★★

10月前半の読書と感想、書評 2023/10/21(土)

020 翼(鉄筆文庫)
「死様」をテーマにしたTwitterでの競作小説で、2011年に単行本が刊行され、その後2014年に文庫化されました。

主人公の女性は半導体の大手企業に勤める中堅社員ですが、風邪を引いて会社近くのクリニックへ行くと、大学生時代の親友と結婚している男性医師とバッタリ出会います。

その男性は大学生時代に、つきあっていた主人公の親友と別れるから結婚して欲しいといきなり迫られるという異常な過去があり、今でもまだその要望は強く残っていることがわかります。

女性にしてみれば、そうしたエリート医師にずっと慕われ続け、さらに言葉に出して結婚して欲しいと言われると心が動かないはずはないと思いますが、主人公は親友との関係もあり、悩みながらも拒否し続けます。

そこで、競作のテーマになる「死様」ということになりますが、それは読んでもらうとして、なかなか複雑な人間模様で個人的には「ありえねー」という感じですが、メロドラマだと思って読むとそれなりに面白く読めるかも。

しかし(男性が考える)女性心理を描かせると、谷崎潤一郎か、三島由紀夫か、宮本輝か、浅田次郎か、白石一文かっていうぐらい、見事な出来映えです。

★★☆

6月後半の読書と感想、書評 2023/7/1(土)

019 彼が通る不思議なコースを私も (集英社文庫)
2014年に単行本、2017年に文庫化された長編小説です。著者の作品は文庫になったものはできるだけ読むようにしていて過去に19作品を読みましたが、最近読んだのが2020年なのでちょっとサボり気味で2年ぶりになります。

普通の恋愛小説かな?ぐらいに思っていましたが、主人公の女性が合コンで気が合ってそのまま結婚した相手の男性には不思議な能力があることに気がつきます。

その男性は、小学校の教師をしていましたが、普段から子供中心には考えない既存の教育システムに限界を感じていて、結婚と同時に辞めてしまい、様々な問題を抱える子供達を集めた体育塾を始めます。

主人公の女性は大手企業で働いているのと、男性の実家は裕福なので、最初のうちは赤字でもなんとかやっていけますが、女性に抜擢の異動があり、関西へ転勤をすることになります。なかなか現代風なカップルです。

イジメや家庭の問題など、現実にもたびたび報道されるような様々な子供の問題を男性は仲間の協力を得ながら解決していきますが、そこには抵抗勢力もあり、子供によかれと思ったことでも、時には親から訴えられたりすることもあります。難しい問題をはらんでいます。

そうした一種の世直し事業は成功していきますが、やがて死期が近いことを悟った男性は、、、

最後のパラレルワールドというか、ふりだしに戻るところはちょっと理解不能でした。

★★☆

2月後半の読書と感想、書評 2022/3/2(水)

018 愛なんて嘘(新潮文庫)
2014年に単行本、2017年に文庫化された短編集で、「夜を想う人」「二人のプール」「河底の人」「わたしのリッチ」「傷痕」「星と泥棒」の6編からなります。

著者の作品は好きで、これが19冊目になります。初期の作品、「一瞬の光」「不自由な心」「僕のなかの壊れていない部分」などが新鮮に感じて次々読んできましたが、2009年に直木賞を受賞後はあまり読まなくなってしまいました。

いずれも若い女性を主人公にした物語で、こうした小説は主として女性作家さんが得意とするところですが、中年男性が書く若い女性の心理描写は、私の既成概念が邪魔するのか、やや不自然で、理解不能な行動もあり、そうした意外性が狙いなのかもと思いつつ、私には違和感がつのりました。

タイトル通り、いずれも現状の恋愛や結婚生活を望まなく、平和な家庭を平気に捨てて昔の彼氏だったり、直感でこの人と思える相手のところへ行ってしまうような情熱的で行動的な女性を主人公にしています。

ま、古い女性観を男性自らが打ち破るという側面は小説としては悪くはないでしょうけど、現実的にはありそうもないことが多く、シンデレラシンドロームじゃないけど、現状に不満だらけの夢見る乙女に向けた小説?という気がしてなりません。

あまりにもリアルな事情を知ってきた中年男性が読むと、どうにも複雑な感情を持ってしまいそうです。

★☆☆

6月前半の読書と感想、書評 2020/6/17(水)

017 光のない海 (集英社文庫)
2015年に単行本、2018年に文庫化された長編小説です。

著者の作品は割とお気に入りで、調べたら過去に直木賞受賞作の「ほかならぬ人へ」(2009年)や、山本周五郎賞の「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」(2009年)など17作品を読んでいますが、最近はご無沙汰していて、2016年に読んで以来、3年ぶりに読みました。

以前、横山秀夫著の「出口のない海」を読んでいたので、タイトルが似た名前だけにそういうイメージというか先入観がありましたが、まったく違うものでした。

主人公は中堅の建設資材販売会社の社長を務めていますが、離婚して独身です。

昔、ある販売員から買った壺が割れてしまい、そこからつながっていく不思議な(って言うかあり得なそうな)縁、自分が社長になったこれまた不思議な縁、会社の寮をまかせていた老夫婦がうけた凄まじい過去、その他にも主人公の上司と浮気をして出て行った妻との関係、幼なじみというか父親役だった若い経営者との関係など、とにかく盛りすぎってほど理由(ワケ)が盛られています。

その中でも自分を社長まで引き上げてくれた、女性経営者の存在が大きく、大きな年齢差を超えての密やかな恋愛というのが大きなテーマともなっています。

小説的には宮本輝氏の小説?って思うような、ちょっとした雑学が方々にちりばめられていて、まったく読んでいて飽きない小説です。

ただひとつの小説の中に、非現実的に、人の性悪なところをいろいろと盛り込みすぎって感じはゆがめません。面白かったですけどね。

★★☆

5月前半の読書と感想、書評 2019/5/15(水)

016 快挙 (新潮文庫)
2013年に単行本が刊行され、2015年に文庫化された小説です。著者は私とほとんど同世代ということもあるせいか、その話には共感できることが多く、文庫化された小説は、2003年に文庫化された実質的なデビュー作「一瞬の光 」以来ほとんど読んでいます。そして2009年の「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞されたのは嬉しいことでした。

「快挙」とは、また変わった小説のタイトルだな?と思いつつ、なんの予備的知識もなく購入して読みました。この著者の作品は安心して読めるので、文庫本で見つけると中身は見ずすぐに買います。

今回の小説の主人公は、若いときにカメラマンを目指していたものの芽が出ず、いまは浅草のホテルでフロントのアルバイトをしながら、出版社の編集やライターの仕事を手伝ったりしている定職を持たない男性。

いつものように散歩をしながら趣味で写真を撮っていると、月島の古い飲食店の2階で若い女性が洗濯を干している姿に魅了されシャッターを切ります。その店で切り盛りしている女性に撮影した写真をプレゼントしたことで、二人は急接近することになります。

その後二人は正式に結婚し、主人公の男はカメラマンをあきらめ小説家を目指すようになりますが、須磨にある妻の実家の酒屋が阪神淡路大地震で被害を受けてしまい、両親を励まそうと夫婦で須磨に引越し、店の再開を手伝うようになります。

著者の作品では、男女の目に見えない細やかな感情の糸が入り交じるのが特徴とも言えますが、この小説でも「彼女に会えたことが自分にとって快挙」と言えるまでに時間をかけて醸造されていくストーリーが見事です。

★★☆

3月後半の読書と感想、書評 2016/3/30(水)

015 幻影の星 (文春文庫)
2012年に単行本、2014年に文庫版が発刊されています。ちょうど2011年の大震災直後に書かれた作品ということもあってか、生きる意味、生かされている意味など哲学的な内容の話しになっていて、今まで読んだ著者の作品とはちょっと感じが違っています。でも悪くないですよ。

主人公は、地方の高校を卒業後、地元の酒造メーカーに就職しますが、その会社が大手ビールメーカーに吸収され、元上司の引きで、勤務地も東京に移っています。

地方に住んでいる主人公の母親から、電話がかかってきて「どうして帰って来たのに家に寄らなかったのか?」と言われますが、なんのことかわかりません。

聞くと、実家近くの最寄りのバス停に、主人公のネームが入ったコートが置き忘れてあって、親切な人が届けてくれたという。ポケットの中には主人公が子供の頃好きだったチョコレートまで入っています。

ところが主人公はその場所へ行ったことはなく、しかも置き忘れられていたコートは、東京の自宅の部屋のクローゼットにあるものとまったく同じもの。誰かのいたずらにしてはあまりにも手が込み入りすぎています。

と、ちょっとホラーな感じで話が進んでいきます。そういうところもこの著者の作品としてはちょっと異質な感じです。

その理由は、ひとつには3.11の大震災で多くの生命が一瞬にして消えてしまった、日本全体が重苦しく、やるせなく、厭世ムードが漂う社会的背景を引きずっているって感じです。

そうした命の煌めきや、過去から引きずってきた思いなどをひっくるめた閉塞感の中で生きる人達を軽めの哲学とともに小説化したらこうなりましたって感じなのか。何を言っているのか自分でもよくわからないけれど。

★★☆

10月前半の読書と感想、書評 2015/10/14(水)

014 心に龍をちりばめて (新潮文庫)
2010年に「ほかならぬ人へ」で父親の白石一郎氏と同様、直木賞作家となった著者の2007年の作品です。

この著者の作品も女性を主人公とした作品が割と多いのですが、先に読んだ石田衣良著の「眠れぬ真珠」と同様に、中年に足を踏み入れた独身の美しい女性が主人公です。

2006〜2007年頃というより、そうした設定は、ハーレクイーンズシリーズのように、現代においては女性の読者層にウケがいい永遠のあこがれのテーマなのでしょうかね。 

主人公がまだ2歳の時に目の前で未婚の母親が自殺してしまい、児童養護施設からある福岡の一家に引き取られ養子として育てられます。その後ひとりで東京に出て、フリーのフードライターとして自立しています。

主人公が里帰りをした時に、幼なじみで、子供の頃に親を亡くし似た境遇だった男性とバッタリ出会います。その幼なじみは、背中に龍の入れ墨を持つ元ヤクザで、現在はヤクザ家業から足を洗い、田舎町で焼き鳥チェーン店を経営しています。

主人公の女性には新聞社に勤務する資産家の家系でエリート男性の恋人が東京にいます。

しかしその男性が政治家を目指すことになり、自分が今まで築き上げてきた仕事を捨てることに抵抗があるのと、過去に一度裏切られた経験から「一度裏切った人は二度裏切る」という思いがあり、また男性の両親とは肌が合わないことで悩みます。

恋愛小説とも言える小説ですが、自殺、養子、愛人、麻薬、暴力、ヤクザ、婚約破棄など、ストーリーは結構重く暗い内容です。しかし最後のワンシーンで少しは気が楽になった思いがしました。これだから白石一文氏の小説はやめられないんですよね。

9月前半の読書と感想、書評 2013/9/18(水)

013 この胸に深々と突き刺さる矢を抜け(上)(下)(講談社文庫)
2009年に発刊されたのこの長編小説は、山本周五郎賞を受賞しています。同氏の作品は文庫化されているものはほとんど読んでいますが、今までにない長編で、じっくりと楽しむことができました。

著者の作品タイトルには「僕のなかの壊れていない部分」とか「見えないドアと鶴の空 」など少々変わったものがありますが、この作品はその最たるものでしょう。なにか村上春樹氏を意識しているのかなとも思えますが、それは直木賞作家にとって失礼な感想かもしれません。

しかし小説を読んでいると、意識しているのかどうかはともかく村上春樹氏の香りが漂ってきます。登場人物の名前が日本人なのにすべてカタカナとか、現代の社会の問題をあぶり出し、まるで記事や著者の主張が入ったコラムかと思える箇所がいくつもあります。

例えば、テレビのニュース番組で世界中の貧困層の問題について深刻な顔をして話しているキャスターの年収は5億円ぐらいあって、国内や海外にいくつもの投資マンションを持っていたりします。また朝日新聞など大手新聞記者の年収は30歳代で軽く1千万円を超えていて、優遇された生活が約束されている人達が、明日をも知れない生活保護受給者や派遣切りにあった人達のことを紙面で代弁できるのか?また年間30億円以上の収入があるイチロー選手や映画一本で数百億円を稼ぐハリウッドスターは、そのお金を使うことができるのか?使えないなら貧困層に回してくれてもいいのではないか?など根源的な社会問題が綴られています。

私も以前読んで大きな衝撃を受けた山本譲司著「累犯障害者」を引いて、人には多かれ少なかれ能力には優劣があり、その優劣を無視して「お前は努力不足」と両断してしまうのは狡い勝者のやり方などについては納得させられます。個人的には遺伝などによる知能や才能の優劣と、あとは家庭の経済的環境の違い、つまり裕福な環境で育てられ、莫大な遺産(お金だけではなく人脈や血縁など)やを引き継げる人と、劣悪な環境で育てられ、自力で生きていかなければならないのとでは、その後の人生に大きな差が生じてしまうことは誰でも理解していますが、それをなくそうとは誰も言い出しません。

前置きが長くなってしまいましたが、主人公は、東大で学者の道を歩んでいる妻をもつ大手出版社のやり手の週刊誌編集長。まさに夫婦とも超インテリで、世田谷に買ったマンションで暮らす典型的な勝ち組です。

しかしその主人公は結婚後に胃ガンが発見され、手術で胃の半分を切除、現在も薬を飲みつつ元の仕事に戻って働いています。また子供はひとりいますが、もうひとり赤ちゃんの時に手当てが遅れて死亡させてしまったという過去があります。

この業界がそうだというわけではないでしょうが、主人公は女性関係が派手で、次から次へととっかえひっかえです。もう不倫は文化というより不倫は息抜きかレジャーとでも言わんかのようにです。と思っていると奥さんのほうもしっかりと師でもある教授とデキていたりします。

そういうわけで話しは生臭いものとなるかと思いきや、主人公に見えるはずのない死者が見えたり、死んだ子供の声が聞こえたりとオカルト的な話しへと変わってきて、、、とこれ以上は書きません。

決してとんでも物語というわけではなく、生きているといろんなことが起きるなということや、ひとつの事象を巡って社会ではこういう物事のとらえ方をする人もいるんだなとか、あと時事にまつわる話しも多く登場し、これが10年、20年経ったあとに読むとまた違った感想を持つのかも知れませんが、ちょっと肩肘張って張り切りすぎた白石一文を堪能することができます。

この本は表紙の帯に「書き下ろし」と大きく書いてありましたが、それをみて昨年著者がTwitterに書いたことが大きな話題となったことを思い出しました。

『一年かけて500枚(×400字)の長編小説を書き、晴れて出版。定価1500円で初版部数は5000部。作家の収入は一割(税込み)なので75万円。手取りだと67万5千円。それが年収。ということは月収にすれば56250円。皆さんが図書館を利用すると良心的な作家ほど行き詰まる。』

『だから、せめて「書き下ろし」と銘打たれた本だけでも書店で買ってほしい。書き下ろしの場合、本の印税以外の原稿料は一銭もない。雑誌に連載されたものは掲載時に原稿料を受け取っているのですが、それがない書き下ろしは本の売れ行きがすべて。一年かけて月収6万円ではさすがにやれない。』


事情などまったく知らない私にはこういった作家さんの悲痛な声は頭にズシンと響きました。でも、ごめんなさい、4年前に出版されたこの本は、著者には1円も入らないブックオフで買ってしまいました。次の新刊(文庫ですが)はちゃんと本屋で買いますので許してください。

7月前半の読書と感想、書評 2013/7/17(水)

012 砂の上のあなた (新潮文庫)
ほかならぬ人へ」(2009年発刊)で直木賞を受賞し、その翌年に発刊された2010年の作品(文庫の発刊は2013年3月)です。

主人公は結婚して家庭に入った30代女性。子供が欲しくて計画妊娠など手を尽くしているその女性の元に、突然見知らぬ男性から「亡くなられたあなたの父親の手紙がある」と電話がかかってきます。

その手紙は主人公の父親から愛人に宛てたもので、筆跡や内容から父親が書いたもので間違いなく、死後はその愛人と一緒になりたいと書かれています。

もうそれだけでもひとつの大河ストーリーが出来上がりそうですが、話しは中盤以降、思わぬ方向へと進んでいきます。詳しくは書きませんが、まったく予想外の展開で、これは家族というより、なにか人間の縁とか運命を強く感じさせられるドラマに仕上がっています。

ただひとつの小説に「妊娠したい女性」「夫とのすれ違い」「亡くなった父の愛人」「突然現れた魅力ある男性」「自分の名前の謎」などいろんな展開を詰め込んでしまったがゆえに、話しがあっちへ飛んだりこっちへ戻ったりと散らかってしまった感はゆがめませんが、前半部分の緩やかでけだるい進行から、後半は展開の早い推理小説のような趣となります。

親が高齢で亡くなると、それまで背負ってきた長い人生には、実の子も知り得なかった様々な葛藤や歴史があり、それを子供が知ることが果たしていいことかどうかは賛否あるでしょう。ただ好きだった肉親に関することをもっと知りたいという欲求もまた起きるでしょう。

今年の暮れに映画上映される百田尚樹氏の「永遠の0」も、特攻で亡くなった祖父のことを孫達が調べ歩く小説ですが、若い人の自分のルーツ探しが今後流行していくかもしれません。映画「真夏のオリオン」(原作は池上司氏「雷撃深度一九・五」)も、孫が亡くなった祖父のことを聞きに祖父の戦友を訪ねるところから始まっていました。

5月前半の読書と感想・書評 2013/5/18(土)

011 ほかならぬ人へ(祥伝社文庫)
「ほかならぬ人へ」は2010年、第142回直木賞の受賞作品です。父親で作家だった白石一郎氏は「海狼伝」(1987)で受賞しているので、初の親子で直木賞受賞と言うことです。

この本には表題の「ほかならぬ人へ」の他に「かけがえのない人へ」の二編が収録されています。まず受賞作の「ほかならぬ人へ」ですが、主人公は名門資産家に生まれながら兄達と比較すると才能が大きく劣っていると自覚し、大学卒業後は家を出てスポーツ用品を扱う企業に勤める男性の、ちょっと変わった悲劇で終わるラブストーリーです。

話の先行きがさっぱり予測がつかず、意外なことばかりで、う〜むと唸らせられました。ラブストーリーと言っても先般読んだ越谷オサム氏の「陽だまりの彼女」のようなキラキラホンワカしたものではなく、親同士が決めていた幼なじみでもある元婚約者とはお友達付き合いしながら、仕事の接待で行ったキャバクラ譲に一目惚れし家族の大反対を押し切って結婚します。

ここまでならばよくある話しですが、そこから驚きの展開が一気に加速していき、読者をグイグイと引き込んでいきます。

さすがにこれ以上は書けませんが、男性が読んでも女性が読んでもワクワク、ドキドキ、最後はウルウルと、読書の素晴らしさを堪能できること間違いありません。できればもう少し長編で書いてもらいたかったところです。

白石氏の小説は私は好きで文庫化された作品はすべて読んでいますが、なぜか映画やドラマになっていません。しかしこの作品はいずれテレビドラマ化か映画化されるのではないでしょうか。

この作品なら原作者へ映画権の申込みが殺到していてもおかしくありませんが、どうなのでしょうね。

もう一方の「かけがえのない人へ」の主人公は、周りから羨まれる同僚のエリート男性との結婚が間近にせまった29歳の女性。結婚相手とは別に、昔の男(元上司)と寄りを戻して再び深い交際をしているというしたたかさ。

マリッジブルーという言葉が昔からあるけれど、相性のいい昔の男が忘れられず、結婚式直前までフラフラとしているところが、世の中の女性の多くは共感を得られるのでしょう。

男にとってはなんだかとてもやるせない一品です。最後の終わり方がちょっと残念かな。

4月上旬の読書 2012/4/18(水)

010 永遠のとなり (文春文庫)
親子で直木賞作家となった息子さんのほうの白石氏は、私と歳が近いこともあり(1歳違い)、本名で出版された最初の作品「一瞬の光」からずっと読んできた好きな作家です。

作者と同世代と言うことはつまり主人公とも同世代ということが多く、共感を覚えることが多々あります。

この「永遠のとなり」はかなり作者本人の自伝的な要素が多く含まれていそうで(作者も主人公も早稲田卒、パニック障害になって大企業を退職し、郷里の福岡で療養という点など)、主人公が生きてきた時代と自分のそれがシンクして(小学生時代に大阪万博が開催されシンボルだった太陽の塔がそのイメージとして残っているとか)、小説の主人公ほどには波瀾万丈(浮気が妻にばれて、離婚を経験したり)でないにしろ、自分の生き様を思い返すいい機会にもなりました。

4月前半の読書 2010/4/18(日)

009 見えないドアと鶴の空(光文社文庫)
今年(2010年)「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞した白石一文氏は、同じく直木賞作家白石一郎の子ですが、双子の弟白石文郎氏も小説家で、絵に描いたような作家一家です。

スポーツ選手や政治家は2世、3世が当たり前のようになっていますが、小説家は珍しいのではないでしょうか?

この「見えないドアと鶴の空」は2004年に出ましたが、自身の週刊誌記者としての経験も交えて、純文学風?に作られています。

この人の小説のタイトルには長いものが多いのが特徴で「僕のなかの壊れていない部分」「もしも、私があなただったら」とか、まだ文庫になっていないので読んでいませんが「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」などがあり、「見えないドアと鶴の空」も意味不明な長いタイトルのうちに入るでしょう。

内容は夫婦の葛藤を描くのは常ですが、それに加えて超能力をもった人がバンバン出てきます。イエスキリストも同じような力を持っていて、病人を治していったというような伝説を思い出しましたが、現代にあてはめるとどうしても陳腐なものになってしまいます。まぁ小説なんてものは想像の賜物ですからそれでいいのでしょう。

2月前半の読書とDVD 2010/2/15(火)

008 どれくらいの愛情 (文春文庫)
2009/09/03読了

元出版社編集者出身の白石一文の文庫になった小説は全部読んでいます。

私と歳がひとつ違いの同年代の書く物語は残念ながら印象には残りませんが、なぜか読まずにいられない。時々無性に食べたくなる天下一品のこってりラーメンのような感じか、、、

あっ、小説はこってりとはしていなくどちらかと言えばあっさり系の中編4作です。

9月前半の読書 その1 2009年9月14日 (月)

「BOOK」データベースより
5年前、結婚を目前に最愛の女性、晶に裏切られた正平は、苦しみの中、家業に打ち込み、思わぬ成功を収めていた。そんな彼に突然、電話が。再会した男と女。明らかにされる別離の理由(表題作)。目に見えるものだけでは分からない「大切なもの」に気づくとき、人は感動に打ち震える。表題作の他3作を収録した傑作恋愛小説集。

007 私という運命について (角川文庫)
2008/11/05読了

「BOOK」データベースより
大手メーカーの営業部に総合職として勤務する冬木亜紀は、元恋人・佐藤康の結婚式の招待状に出欠の返事を出しかねていた。康との別離後、彼の母親から手紙をもらったことを思い出した亜紀は、2年の年月を経て、その手紙を読むことになり…。―女性にとって、恋愛、結婚、出産、家族、そして死とは?一人の女性の29歳から40歳までの“揺れる10年”を描き、運命の不可思議を鮮やかに映し出す、感動と圧巻の大傑作長編小説。

006 もしも、私があなただったら (文春文庫)
2008/07/14読了

「BOOK」データベースより
大企業を辞め、故郷の博多で小さなバーを営む藤川啓吾の前に、かつての同僚の妻・美奈が現れた。心の通い合いを強く感じる啓吾だったが、あるひとつの疑念が頭を離れない―。人生の半ばを過ぎた男女が再出発に向けて研ぎ澄まされてゆく。企業の倫理、愛情の深淵をあますところなく描きこんだ長編恋愛小説。

005 草にすわる (文春文庫)
2006/07/30読了

「BOOK」データベースより
「生きていたってしょうがないよ」。大企業を辞めた洪治は、最低五年間は何もすまいと誓い、無為な日々を過ごしている。ある日彼は、一年近く付き合う彼女から昔の不幸な出来事を聞かされる。死ぬことに決めた二人は、睡眠薬を飲む。絶望。その果てに彼が見たのは…(表題作)。なぜ人間は生まれ、どこに行くのか。「覚醒の物語」二編と初期に別名義で発表した一編を収録。

004 僕のなかの壊れていない部分 (文春文庫)
2005/04/01読了

「BOOK」データベースより
「あなたはほんとうに死にたくはないのですか? もしそうだとしたらその理由は何ですか?」(本文より)
大手出版社に勤める29歳の青年、松原直人。とびぬけた記憶力と研ぎすまされた論理展開能力を持つ彼は、生と死の意味を求めて日々自問自答を続けている。論理を超えた温かな視線で生をとらえる恋人、獣じみた性で結びついたセックスフレンド、親の愛情を受けずに育った女子大生、目をみはるほど美形で厭世的な青年など、個性の強い人間たちが織り成す世界の中で直人が見出したものとは…。

著者は4作目となる本書で新境地を開いた。生きる意味を不器用なほどまっすぐに追い求める姿勢はそのままに、文章はより簡潔になり、文体は力強さを増した。過度に理知的な語りや突き放した性描写に落ち着かない気分にさせられながらも、読み手は不安を抱えたままぐいぐい引きつけられ、ページをめくってしまう。鋭すぎる文体が生み出す怪しい吸引力は本書の大きな魅力であり、著者の新たな武器である。

後半に入り、論理的一貫性の先に宗教的な視点が感じられた。直人が母のように慕っていた女性がお寺の長女であったことから、直人の思考に否応なく仏教徒的な考えが流れてこんでくるのだ。このあたりは好みが分かれるところだが、裏を返せば、そういう地点にまでたどり着くほど深く考え抜かれているということだ。「生きる意味」を問う小説が少ない中、そんな疑問に真っ向から挑んだ本書がロングセラーとなっている。(小尾慶一)

003 すぐそばの彼方 (角川文庫)
2005/02/17読了

「BOOK」データベースより
次期総裁選レースの本命といわれる大物代議士を父にもつ柴田龍彦。今は父の秘書として働くが、4年前に自らが起こした不始末から精神的に不安定な状況に陥り、自分名義のクレジットカードすら持つことが出来ない不遇な状況にある。父の総裁選出馬を契機に政界の深部に飲み込まれていく彼は、徐々に“自分”を取り戻しはじめるが、再生の過程で人生最大の選択を迫られるときに直面する…。理想と欲望の狭間を揺れ惑う心。彼が一度きりの人生で本当に求めていたものは何だったのか?―現代日本の政界の実状と内幕をリアルに浮き彫りにして描き、人間の存在意義と人生における愛の意味を問う、究極の物語。

002 不自由な心 (角川文庫)
2004/09/01読了

「BOOK」データベースより
大手企業の総務部に勤務する江川一郎は、妹からある日、夫が同僚の女性と不倫を続け、滅多に家に帰らなかったことを告げられる。その夫とは、江川が紹介した同じ会社の後輩社員だった。怒りに捉えられた江川だったが、彼自身もかつては結婚後に複数の女性と関係を持ち、そのひとつが原因で妻は今も大きな障害を背負い続けていた…。(「不自由な心」)人は何のために人を愛するのか?その愛とは?幸福とは?死とは何なのか?透徹した視線で人間存在の根源を凝視め、緊密な文体を駆使してリアルかつ独自の物語世界を構築した、話題の著者のデビュー第二作、会心の作品集。

001 一瞬の光 (角川文庫)
2004/02/05読了

「BOOK」データベースより
三十八歳という若さで日本を代表する企業の人事課長に抜擢されたエリート・橋田浩介。彼は、男に絡まれていたところを助けたことがきっかけで、短大生・中平香折と知り合う。社内での派閥抗争に翻弄されるなか、橋田にとって彼女の存在は日増しに大きくなっていった。橋田は、香折との交流を通じて、これまでの自分の存在意義に疑問を感じ、本当に大切なことを見いだしていくのだった…。―混沌とした現代社会の中で真に必要とされるものは何かを問う、新たなる物語。各紙誌書評で絶賛と感動の声を集めた気鋭のデビュー作、待望の文庫化。



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