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久坂部羊 KUSAKABE YO 既読書籍
005 | 人はどう死ぬのか | ||
004 | 芥川症 | 003 | 嗤う名医 |
002 | 日本人の死に時 そんなに長生きしたいですか | 001 | 無痛 |
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1955年大阪府生まれ。大阪大学医学部卒業。外科医、麻酔科医を経て、外務省に入省、サウジアラビア、オーストリア、パプアニューギニアの在外公館で医務官として勤務し、帰国後は在宅医療に従事。同人誌『VIKING』での活動を経て、2003年に『廃用身』で作家デビュー。代表作に「無痛」(2006年)、「神の手」(2010年)、「嗤う名医」(2014年)など。(Wikipediaより引用 2022年) |
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005 | 人はどう死ぬのか(講談社現代新書) | |
2022年に発刊された新書で、様々な医療現場に携わったあと、現在は在宅医療を中心にされている著者が本音で語る終末医療、つまり人の死に方についての指南書と言えるものです。 繰り返し書かれているのは、終末医療には限界があり、患者本人のためではなく、その周囲(家族や遠い親戚など)のために、「ベストを尽くしている」という態度や医療を提供することだけという空しい話です。 つまり患者の意思とは関係なく、高齢者や末期癌を患っている人の具合が悪くなると、家族などが慌てて救急車を呼んで病院へ移送されると、そこで待っているのは、ほとんど意味のない検査と治療でそれことスパゲッティ状態にされてしまうという現在の終末医療を非難しています。 現在は約7割の人が病院で亡くなるということですが、「死にたくなければ病院へ行くな。病院へ行くから死ぬんだ」と誰かがテレビの番組で話をしていましたが、7割の人が病院で亡くなっているならそれも正しいかも知れません。 著者も繰り返し、穏やかに最期を全うしたいなら「高齢者や末期癌の人はむやみに病院へ行くべきでない」と書いています。 著者の小説や他の新書でも同様のことがよく書かれていますが、そうした無用な終末医療を避けようとする思想や行動はマスコミや医療従事者含む一部の人には不評で、「人命は地球よりも重い」という迷言でなかなか普及していかないことが著者のジレンマとなっているようです。 私自身、もう高齢者になって、終末を迎える時期も近くなってきましたが、自分の死に方というのはなかなか思い描けず、たとえ考えたとしてもそう思い通りにいくわけもなく、難しい問題です。 本著にも出てきますが、医者に対して「自分ならどういう死に方が一番良いか」という質問では「癌」という答えが一番多いそうで、それはある日突発的に死に至るのではなく、ある程度は計画的に死に近づけるため、その準備をすることができるということでしょう。 この本の中でちょっとわかりづらいなと思ったのは、書かれている理想の終末医療の前提は寿命が近い高齢者向けの話のはずで、これが癌など他の重篤な病気でも体力もある若い人の場合はまたちょっと違うように思います。 そのあたりの区別が書かれていないので、「若い人の終末医療を懸命におこなわないとはけしからん!」という誤解を生じる人がいるように思います。 私もそう遠くない時期にこうした終末医療を選択する時がやってきます。その時には、本書を参考にして ・口から栄養を摂れなくなっても胃ろうは断る ・痛み止め以外の栄養補給などの点滴も断る ・呼吸が苦しくても人工呼吸器は断る ・自宅で倒れてもむやみに救急車を呼ばない を大きく紙に書いて貼っておき、家族にも重々申し渡しておこうと思います。 ★★☆ 2月後半の読書と感想、書評 2024/3/2(土) |
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004 | 芥川症(新潮文庫) | |
ユーモアたっぷりに芥川龍之介の小説をモチーフにした短編集です。もちろん著者の本職でもある医療との関わりがある内容が多く、笑いながらも怖くなってくること請け負いです。 2014年に単行本、2017年に文庫化されています。 短編のタイトルはそれぞれ、「病院の中」「他生門」「耳」「クモの意図」「極楽変」「バナナ粥」「或利口の一生」となっていて、どこかで聞いた名前ばかりとなっています。 「藪の中」→「病院の中」 「羅生門」→「他生門」 「鼻」→「「耳」 「蜘蛛の糸」→「クモの意図」 「地獄変」→「極楽変」 「芋粥」→「バナナ粥」 「或阿呆の一生」→「或利口の一生」 ※前が芥川龍之介作の小説でそれをモチーフに作られて言います 著者の小説やエッセイを読むと、「医療に過大な期待はするな」というニュアンスが含まれていることが多くあります。 つまり医者も普通の人間ですから、期待以上のことを求めるのもいけないし、患者は神様ではないので、ほどほどの治療や投薬で我慢するべきだという考え方です。 エッセイの「日本人の死に時 そんなに長生きしたいですか」(2007年)でも、国内での自然な老衰という死に方が減り、本人の意思とは無関係に、闇雲に生き長らえさせるために高年齢でも高度な医療(=高額医療)が駆使され、その結果、意識も戻らないまま脳死や内臓の不全等で死亡するというむなしさなどが綴られていました。 そうした実態を普段から目の当たりにする仕事ゆえ、わかることもあるでしょう。 時々書くのですけど、若くて健康な人に「もしかの時、延命治療を受けたいか?」と聞くとだいたいは「受けたくない」と答えるのに対し、余命間もない重病人に同じ質問をするとほとんどが「受けたい」と答える人間の弱さというか、立場の違いによって考え方も変わってしまうことが、人間的で自然なことでもあります。 とりあえずは、こうしたユーモアをもって、医療と人生について考えてみるのが良いのかもしれません。 ★★☆ 5月前半の読書と感想、書評 2019/5/15(水) |
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003 | 嗤う名医 (集英社文庫) | 「寝たきりの殺意」「シリコン」「至高の名医」「愛ドクロ」「名医の微笑」「嘘はキライ」の6編の短編が収録されている2014年に単行本、2016年文庫化された小説です。 著者は現役医師でもあり、過去には「日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか」と「無痛」の2作品を読んでいます。 どの短編も医療にまつわる話しや医療従事者がメインの話しで、ブラックユーモアも散りばめられていて、一般人は知らない医療の世界を垣間見ることができます。事実かどうかはともかく。 医療関係者が読むと、結構あるある話しなのかも知れません。 ラストで大どんでん返しがある「寝たきりの殺意」、豊胸手術の失敗と、美容整形の後始末を嫌がる医療界の無責任さがわかり女性の美容整形の痛々しさを皮肉った「シリコン」、解剖学の技術員と放射線技師の二人が、形の良い頭蓋骨を愛するあまり暴走していく「愛ドクロ」など、医者の視点から見たドタバタがなかなか楽しめます。 でもこの作家さんの小説は、やっぱり長編のほうが面白いという結論に達しました。 ★★☆ 2月前半の読書と感想、書評 2019/2/16(土) |
002 | 日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか (幻冬舎新書) | 現役の医師で私と同年代の作家さんで、昨年長編医療ミステリー小説の「無痛」(2006年初出)を読みました。 同じ医師でありながら作家として二足のわらじをはく恵まれた才能を持つ人は多いのですが、その医師の中でも大病院や大学病院の中で働く医師とは違い、在宅医療の医師であることが特徴的です。 在宅医療の本質は、終末医療に大きく関わっています。またグループホームや軽費老人ホームなど、医師が常駐しないホームへ訪問医師として関わることも多く、患者はおしなべて高齢者で、様々な健康問題を抱え、特に認知症患者と関わるケースも多そうです。 著者はそうした終末医療の現場を目の当たりにして、医療の力で寿命を延ばす今のやり方に反対しています。つまり健康寿命を過ぎてから亡くなるまでの期間が長くなってくるにしたがって介護や医療費の負担、それになにより本人の意志とは違うところで延命処置がなされていくいまの医療制度や社会体制に異を唱えています。 実際に延命処置を施すかどうかは、難しい問題で、この本でも「若くて先が長い人への延命処置は問題ない」と断っていますが、高齢者でもまだこの先数十年生きられる人かどうかは医療に素人の家族にはわからないもので、医者にどうしたいか?と聞かれたら、死の責任を回避するために、できるだけ延命させる方針でいきたいと答えるしかないでしょう。 心身共に弱った高齢者や認知症の高齢者に毅然とした判断を求めるのは無理な話で、元気な家族や周囲の人達は悪意なく「まだまだ死なせないで」という要求を医師に突きつけ、不自然な濃厚医療がおこなわれ、無理矢理寿命が数年、数ヶ月延ばされていきます。 今はまだ健康な人が多い団塊世代がやがては後期高齢者に入り、まさに終末医療が重要になっていく時代になっていきます。できれば介護が必要になる前に、この本を家族とともに読んで、自分の終末医療について自分の意志を家族など周囲に伝えておくのがよいのではないかと思った良書です。 ★★★ 2月後半の読書と感想、書評 2017/3/1(水) |
001 | 無痛 (幻冬舎文庫) | 著者は現役の医者でもありながら、小説を書き始め、2003年に「廃用身」でデビュー、この作品は2006年に単行本、2008年に文庫版が出ています。 また昨年2015年にはTBSでこの小説を原作とするテレビドラマ「無痛 ~診える眼~」が制作されていますが、小説とは少しストーリーが変えられたオリジナル脚本となっているようです。 現役医者でありながら小説を書いてきた森鴎外、渡辺淳一、北杜夫、帚木蓬生、海堂尊、夏川草介など、数多くの作家がいますが、豊富な知識や経験を元にしていて、どれも面白く読ませてもらっています。 この作品も医療モノと呼ばれる町医者を主人公としたミステリー小説で、その主人公は人の外見を注意深く観察するだけで、罹っている病気や病歴などを見抜けてしまう特殊な能力を身につけています。 その能力のひとつに、犯因症という「エネルギー過多の一種で、犯罪を起こす者に現れる徴候」を見抜ける力もあり、未然に凶悪な犯罪が起きるのを察知することができることも特徴です。 タイトルは、未来の無痛治療に道を開くかもしれない「先天性無痛症」からきていますが、私自身まもなく手術を受けることから、こうした無痛手術というのは夢物語です。もし可能ならば早く実現してもらいたいものです。それで多くの人が救われるのですから。 そうした高度な医療と、底辺にうごめく犯罪者とをうまく結びつけた内容となっていて、さらには刑法第39条における「精神障害者等の犯罪に関する責任能力」も取り上げられています。 600ページを超える長編作ですが、内容は特に難しいものではなく、サクサクと読めますのでお気楽な感じでいいかもです。ただ、登場人物のほとんどが、現実にはいなさそうな人ばかりというのがちょっとガッカリです。 ★★☆ 6月後半の読書と感想、書評 2016/6/29(水) |
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