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池井戸潤 IKEIDO JUN 既読書籍

009 民王
008 アキラとあきら 007 ようこそ、わが家へ
006 オレたちバブル入行組  005 下町ロケット
004 鉄の骨 003 空飛ぶタイヤ(上)(下) 
002 BT'63(上)(下) 001 果つる底なき
読書感想は2010年頃以降に書くようになりました。それ以前に読んだ本の感想はありません。


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1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学文学部および法学部卒業後、1988年に三菱銀行(当時)に入行。1995年32歳の時に同行を退職し、コンサルタント業のかたわら、ビジネス書の執筆など。1998年『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞を受賞、作家デビュー。2011年『下町ロケット』で第145回直木三十五賞受賞。(Wikipediaより引用 2022年)

009 民王(文春文庫)

2010年単行本、2013年に文庫化された日本を舞台にし、政治を扱ったコメディSF小説です。

漢字が読めない総理大臣とか、理想を追い求めて政治家になったものの、政治力学と利権誘導などにまみれていく中で変わっていく政治家などが面白おかしく書かれています。

さらにSF要素として、アメリカの製薬会社で密かに開発された意識を別人と変換できる技術がテロ組織に漏洩して、総理大臣とそのバカ息子の意識が入れ替わるというとんでもない内容です。

著者の小説では、リコール隠しの「空飛ぶタイヤ」や、ゼネコンの談合問題を描いた「鉄の骨」、不良債権まみれの都市銀行が舞台の「果つる底なき」など硬派なものが好きですが、こうしたおちゃらけた小説も書いていたとはちょっと意外な感じがしました。

感想としては、ちょっとふざけ過ぎということで、評価は厳しいものとなります。それは上記にも書いたように「硬派なビジネス系小説」を書く(書いて欲しい)作家というイメージが私の中にはあり、それとの落差が許容できなかったためと思われます。

銀行員出身の著者にしてみれば、政治を扱うことと、それをコメディに仕立てるのはおそらくチャレンジだったと思いますが、空回りしてしまったようです。

★☆☆

11月後半の読書と感想、書評 2022/12/3(土)

008 アキラとあきら (徳間文庫)
2006年から2009年に雑誌に連載されながらその後単行本化はされず、2017年にテレビドラマ化されることとなり、その2017年にいきなり文庫化されて発刊されました。

2006年〜2009年頃と言えば、ドラマや映画化もされ著者の代表作ともなっている三菱自動車のリコール隠し問題を描いた「空飛ぶタイヤ」(2006年)や、地下鉄談合事件をモデルにしてNHKで連続ドラマ化された「鉄の骨」(2009年)、テレビで大ヒットした「半沢直樹シリーズ」(2004年〜2014年)などと重なる時期で、そうした中から、「下町ロケット」(2011年)が、直木賞に輝いています。

元々大学卒業後に三菱銀行へ入り、10年ほどサラリーマン生活を過ごしていた筆者だけに、金融、経済、財務等には明るく、そうした経済テーマの小説が真に迫っていて群を抜いています。

人気作家になったから言うのではないのですが、デビュー作「果つる底なき」が2011年に文庫本として登場した時、すぐに購入して読み、この作家は将来、城山三郎や高杉良以上の経済小説の作家になるかもと思いました。そしてその後も新しく文庫が出るたびに著者の小説は面白く読ませてもらっています。

この小説の主人公は、二人のアキラ。貧しい町工場に生まれ育った山崎瑛と、大手海運会社の御曹司の階堂彬です。

その二人が知恵を絞って戦うのかと思っていたら、まったく違い、二人とも東大を出て大手都銀へ入り、入社時研修でお互いの力を認め合い、その後、様々な危機を乗り越えていくという成長物語ってところです。

二人が協力し合うのは、最後の最後のわずかなところだけで、ずっと二人の両極端な人生が、それぞれに並行して描かれます。

720ページと、かなり長い小説ですが、途中ダレるようなこともなく、次々とテンポよく話が展開していき、とても面白く読めました。さすがとしか言えません。

将来起業したい、あるいは金融や企業買収などの仕事がしたいと漠然と思っている人は、そうしたビジネスの現場で起きている割とリアルな世界を垣間見られますので、若い人にお勧めです。

★★★

1月後半の読書と感想、書評 2019/1/30(水)

007 ようこそ、わが家へ (小学館文庫)
ミーハー的には「半沢直樹シリーズ」で、文学少年少女的には直木賞を受賞した「下町ロケット」で、そして社会派としては「鉄の骨」や「空飛ぶタイヤ」で、それぞれよく知られた銀行出身の売れっ子作家さんの文庫オリジナル作品で2013年に発表されました。

いずれも元銀行員という仕事を通じてなじみのある企業あるいはビジネス小説が多い作家さんなのですが、この小説はそれらとは一線を画しタイトルからもわかるように「家族」が主たるテーマになっています。

と言っても主人公の一家の主は銀行マンで中小企業へ出向していて、その会社で不正を見つけたものの、所詮は外様という軋轢との戦いがあり、そうしたところは著者の最も得意とするところです。

その主人公は通勤途中で電車に割り込みをしてきた男に勇気を絞って注意をします。それがきっかけとなり、自宅への嫌がらせが始まり、エスカレートしていくという、重苦しい話しです。

しかし、通称イヤミス(イヤな気分になるミステリー)の湊かなえ氏や沼田まほかる氏の小説とは違って、両親と二人の子供の4人家族の関係は極めて良好で、一緒に協力しあって犯人を突き止めようとするなど、著者の性格が反映しているかなと思われます。

そして勤務先の中小企業にも、自宅への嫌がらせにも、最後に意外な展開が見られましたが、なかなかストレートなビジネス&ファミリー小説と言えるでしょう。

★★☆

5月後半の読書と感想、書評 2017/5/31(水)

006 オレたちバブル入行組 (文春文庫)
テレビドラマで人気を博した半沢直樹シリーズの第1作目の小説として有名です。この文庫が発売された2007年から2008年前半頃には店頭に平積みをされていた時期がありましたが、当時はそれほど人気が高かったわけではありません。

私も著者の本では、デビュー作の「果つる底なき」や「BT’63」をすでに読んでいましたが、「またお得意の銀行小説(著者は元銀行マン)か」ぐらいに思い、買うことはありませんでした。その後出てきた主人公は銀行員ではない「空飛ぶタイヤ」「鉄の骨」「下町ロケット」などは面白く読ませていただきました。

しかしご存じの通り2013年にはテレビで大ヒットし流行語大賞にも選ばれるほどの人気となり、再び書店では「半沢直樹フェア」が仰々しく開催されていました。著者にとってはこうしたテレビや映画で作品が映像化され、それがきっかけでベストセラーとなり、その影響で別の作品も一緒に売れるのはとっても旨味があるでしょう。

それだけに作品の映像化による原作使用料は、大ヒットして興行収入58億円と言われる映画「テルマエ・ロマエ」でさえ、その原作者ヤマザキマリ氏に支払われた原作使用料はたったの100万円だったというように、おそらく信じがたいほど安くても我慢せざるを得ないのが現状かも知れません。ヒットするかどうかまだわからない時に契約するわけですからね。

物語は、主人公の半沢直樹がバブル真っ盛りの中、就職活動をおこない、悠々と都市銀行の内定をとり、順調に階段を駆け上がっていたところ、バブルが弾けてしまいます。

支店の営業成績を上げるため、支店長命令でろくな審査もせずに企業融資をおこなったところ、それが不良債権になってしまい、あとは支店長以下に責任を押しつけられ、窮地に追いやられそれを同期の仲間達にも助けられ奔走するというものです。

「すさまじきものは宮仕え」とはよく言ったもので、特にエリートが集まる大手企業ではこうした社内政治力学や、上司の不正行為、ミスが発生したときのスケープゴート探し、子飼いの部下や社内派閥の構成、ゾンビとか妖怪と呼ばれても権力にしがみつく老人など、事実は小説より奇なりということは、大手企業に勤務したことがない私ですら知っていますが、今の若い人達は、こうした現実ではあり得ないようなビジネス下克上物語で少しは溜飲を下げたりするものでしょうか。

5月後半の読書と感想、書評 2014/6/4(水)

005 下町ロケット (小学館文庫)
もう10年も前に出た半沢直樹シリーズ「オレたちバブル入行組」(2004年)、「オレたち花のバブル組」(2008年)がテレビドラマになって大ブレークした作家さんですが、もちろんそれ以前に作家としての実力も十分備わっていて「空飛ぶタイヤ」(2006年)、NHKでドラマ化された「鉄の骨」(2010年吉川英治文学新人賞受賞)など順風満帆で、この「下町ロケット」(2010年、文庫は2013年)では2011年直木賞を受賞しています。

私もデビュー作「果つる底なき」(1998年)以降、著者のほとんどの作品を読んでいます。2000年頃まではビジネス小説といえば城山三郎氏、源氏鶏太氏、梶山季之氏、清水一行氏、高杉良氏、山田智彦氏などが主流で、それを好んで読んできましたが、こうした新しい現代のビジネス小説の書き手が増えてきて喜ばしい限りです。

但しビジネス小説というのは割とパターンが決まっていて、ナイスミドルの主人公が巨大企業の悪や権力を振りかざす傲慢な上層部、接待、裏金、官製談合、融資停止、敵対的買収、理不尽なクレーム、利権政治家や官僚達の介入などに押しつぶされそうになりながらも、果敢に戦って一矢を報いるというもので、個人的には飽きてきたかなという感じもあります。

しかし想定している読者層は、主人公に自分を重ね合わせて現実のモヤモヤを少しでも吹き飛ばしたいと思っている30代〜40代の中堅ビジネスマンということでしょうから、そうした水戸黄門的ワンパターンで正解なのでしょう。漫画の島耕作シリーズもこの流れでうまくいった例ですね。

昨年亡くなった山崎豊子氏も「華麗なる一族」や「沈まぬ太陽」でビジネスの現場を描くことが多かったのですが、企業に限らず幅広い社会全般をとらえ、著者の思いや願い、社会意義などが語られ、単なる勝った負けたのビジネス小説ではなく社会派小説と言われた所以ではないかと思います。

著者も「空飛ぶタイヤ」では、実際に起きた三菱自動車の欠陥車が引き起こした死亡事故をモチーフに、巨大自動車メーカーとその系列銀行の傲慢さと内部腐敗をえぐり出しましたが、これはまだデビュー間もない時期でもあり、そこまで書いて大丈夫か?と並半端な決断ではできなかったのではないでしょうか。実際に出版後に映像化されるまでには様々な妨害工作などもあったのではないかと思われます。

3月前半の読書と感想、書評 2014/3/19(水)

004 鉄の骨 (講談社文庫)
2010年に放送があったNHKの3夜連続ドラマの原作で、主演には小池徹平が出ていました。そのドラマは全部を見られなかったことと、小説とドラマでは受ける印象が違うことを知っているので、原作本をじっくり読んでみることに。おおよそのエンディングを知っていただけに読むのにちょっと躊躇はありましたが。

この著者池井戸潤氏の小説は「果つる底なき」(文庫2001年)、「BT’63」(文庫2006年)、「空飛ぶタイヤ」(文庫2009年)をすでに読んでいます。

「空飛ぶタイヤ」は三菱自動車のリコール隠しを主題とした企業小説ですが、着眼点はその大手企業だけでなく、大手企業に翻弄される運送会社や零細企業について事件のあらましもわかるよう興味深く書かれています。

2010年には「下町ロケット」で直木賞を受賞されていて、その受賞作とともに2010年に発刊された「ロスジェネの逆襲」は面白いと評判なので、そのうちに文庫化されたら読みたいなと思っています。

今までの著者の作品を見ていると、その多くは「沈まぬ太陽」や「不毛地帯」などの著作を持つ企業小説の大御所山崎豊子氏と同列の長編企業小説というジャンルですが、ちょっと違う点は取材した事実を積み上げて、その企業の中で苦闘する姿を小説にしてしまう山崎流とは違い、実際に起きたことを下地として、それとは違うミステリー仕立ての新たな小説にしてしまう点でしょうか。どちらが好みかは読者によりますが、私は双方とも好きです。

「鉄の骨」の主人公は中堅の総合建設会社に入社した20代の男性。技術系として建築現場で働いていたところ、本社業務部への異動が発令されます。

この業務部というのは公共事業の発注において業界各社と談合をとりまとめるセクションで、正義感あふれる主人公がサラリーマンとしての立場とのあいだで葛藤があり、その中でもがく姿を描いています。

この談合については一般的な知識では業界がより高い利益を得るためにおこなわれる絶対悪という側面だけが知られていますが、一方の業界事情として、果てしない値引き合戦で企業が疲弊してしまう無茶な競争をおこなわず、業界の健全な発展のために適正な価格で落札してこそ生きていけるという必要悪だという論も紹介されています。

つまり無理して競争すればするほどその下請けや孫請けににしわ寄せがいき、やがては工事の完成を見ずに破綻してしまうことになると。ま、業界の外から見ると、その論にはちょっと無理があるのはやむを得ないところです。

そして談合の行き着く先は役人や政治家が自らの利益のためにそれに関わってくる、いわゆる官製談合となり、そこに根が深い問題があると語っています。

11月前半の読書 2012/11/17(土)

003 空飛ぶタイヤ(上)(下)(講談社文庫)
2002年に神奈川県で起きた三菱自動車工業(三菱ふそう)製のトラックのタイヤが走行中に外れ、それが親子を直撃した死亡事故がテーマになっています。

事故が起きた当時はそのトラックを使用していた運送会社の整備不良と報道されたのを私は記憶していますが、その後メーカー(三菱)が車輪を固定するハブの耐久性に問題があることを知りつつ、多額の損失を避けるためリコールの届け出をおこなわず、事故が起きるたびに「整備不良」として使用者に責任をなすりつけ、国交省へもそのように報告をしていた「三菱自動車によるリコール隠し」だったことが明らかになっていきます。

小説の主人公は事故を起こした零細な運送会社の社長で、調べていくうちに事故の責任が自動車メーカー側にあるのではと思いますが、被害者から責め立てられ、警察からは家宅捜査を受け、大口の取引先からは取引停止を宣告され、しかも事故の原因となった証拠品の返還要求をしても、メーカーからは無視をされ、社業が追い詰められていきます。

そして他にも同様な事故が起きていることを突き止めていくのですが、傲慢な大企業(グループ)は責任を認めず、零細企業いじめが続き、いよいよ倒産の危機に瀕していきます。

メーカー(三菱自動車工業)は2000年にもバスやトラックの不具合のクレーム隠しを指摘されていて、当時大きな問題となり、社長も交代し反省をしたはずなのですが、結局は組織の論理で同じことを繰り返します。

この小説は2009年にテレビドラマ化されましたが、さすがに巨大な広告スポンサーでもある三菱グループを敵に回すことは地上波のテレビ局にはできるはずもなく、制作と放送は視聴者課金のWOWWOWで、視聴者も限られるため大きな反響はありませんでした。ドラマのDVDがあるようなので、今度見てみたいと思います。

小説では神奈川県警が業務上過失致死を視野に入れ、メーカーに対して家宅捜査、上層部を逮捕し、危機にあった運送会社には責任がなかったことがわかり、救われるところで終わります。

現実の裁判の行方は、三菱自動車の元部長ら2人が業務上過失致死傷の罪で起訴され、一、二審で有罪判決を受け、現在まだ上告中です。つい最近2010年3月9日には最高裁で道路運送車両法違反(虚偽報告)で元会長、常務など3名の有罪が確定しました。

上記のタイヤのハブ不良以外にも同様に組織ぐるみで隠蔽していたクラッチ系統の欠陥が原因で、2002年に山口県で起きた死亡事故では、河添克彦元社長や宇佐美元副社長ら4人が業務上過失致死罪で、すでに執行猶予付き有罪判決が確定していますが、このように悪あがき的に罪を認めず、反省がないところがいかにも旧態依然の財閥系大企業で、小説なのでデフォルメされたり、人物の特定はできないようになっているでしょうが、あることないことを書かれてしまい、この先もずっと悪役として残ってしまうことになりました。

三菱の関係者は子供や孫にはとても読ませられないでしょうね。

3月前半の読書 2010/3/17(水)

002 BT’63(上)(下) (講談社文庫)
2007/07/20読了

「BOOK」データベースより
父が遺した謎の鍵を手にすると、大間木琢磨の視界に広がるのは、40年前の風景だった。若き日の父・史郎が体験した運送会社での新事業開発、秘められた恋……。だが、凶暴な深い闇が史郎に迫っていた。心を病み妻に去られた琢磨は自らの再生をかけ、現代に残る父の足跡を調べる――。父と息子の感動長編。

呪われたトラックBT21号の運転手4人が次々と殺され、史郎が精魂を注いだ新事業も立ち行かない。すべては闇の住人、成沢が仕掛けたことだった。愛する鏡子まで成沢の罠に陥り、史郎は苦悩の選択をする――。一方の琢磨は、現代に残っていたBT21号を手に入れる。「物語」のすべてがつまった圧倒的大作。

001 果つる底なき (講談社文庫)
2001/09/05読了

「BOOK」データベースより
「これは貸しだからな」。謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった…。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ一人、銀行の暗闇に立ち向かう!第四四回江戸川乱歩賞受賞作。



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