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読書感想INDEX

伊集院静 IJUIN SHIZUKA 既読書籍

022 東京クルージング 021 日傘を差す女
020 志賀越みち 019 愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない
018 ノボさん(上)(下)小説 正岡子規と夏目漱石 017 不運と思うな。大人の流儀6 a genuine way of life
016 大人の流儀 015 羊の目
014 瑠璃を見たひと 013 星月夜
012 水の手帳 011 白い声(上)(下)
010 アフリカの王 上・下 009 岬へ―海峡・青春篇
008 春雷―海峡・少年篇 007 海峡―海峡・幼年篇
006 オルゴール 005 ジゴロ
004 受け月 003 白秋
002 三年坂 001 遠い昨日
読書感想は2010年頃以降に書くようになりました。それ以前に読んだ本の感想はありません。


1950年〜2023年11月(73歳没)。山口県生まれ、立教大学文学部日本文学科を卒業。卒業後電通勤務を経てCMディレクターになる。1981年『小説現代』に『皐月』を発表し作家デビュー。代表作に『機関車先生』。山口県防府市を舞台とした自伝性の強い『海峡』三部作等がある。伊達歩の名で作詞家としても活躍。近藤真彦に提供した『愚か者』で、1987年に第29回日本レコード大賞を受賞。その他『ギンギラギンにさりげなく』などのヒット曲がある。1992年『受け月』で直木賞を受賞する。(Wikipediaより引用 2022年)


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022 東京クルージング(角川文庫)

昨年(2023年)11月に亡くなった著者の2017年に単行本、2020年に文庫化された長編小説です。

小説ですからもちろんフィクションですが、登場してくるのはメジャーに挑戦した松井秀喜氏(実名で登場)と、NHKの元ディレクターで、松井秀喜や王・長島などのドキュメンタリーを制作した大谷実氏(別名で登場)です。

大谷氏は、39歳の若さで志半ばで癌で亡くなりましたが、亡くなる寸前まで周囲に病気を隠して番組制作に奮闘されたようです。そのあたりの周囲に気を遣いながら必死に生きていく姿がこの小説でも描かれ心打たれます。

第1部は、野球好きの作家の主人公とNHKのディレクターが松井秀喜のメジャー挑戦のドキュメンタリーを制作することになったいきさつや、作家とディレクターの心のふれあいがテーマになっています。そしてディレクターから過去に結婚を誓った女性がある日突然消えてしまったという私的な話を聞かされます。

そして第2部では、その消えてしまった女性を主人公とし、壮絶な過去と、拉致誘拐同然で男に連れ去られ、子供を産み、逃げ惑う話が展開していきます。

そういう内容なので、前半部は心穏やかに読めますが、後半は虐待や暴行、逃避行と読んでいても心苦しく胸の痛くなる内容とガラリと変わります。

タイトルは、そのディレクターが学生時代に東京湾クルージング船でアルバイトをしていた時に、その女性と知り合い、お互いが海に思い入れがあり、結婚を約束するまでに至ったことから来ているものと思われます。

★★☆

1月前半の読書と感想、書評 2024/1/13(土)

021 日傘を差す女(文春文庫)
2018年に単行本、2021に文庫化された、著者には珍しい長編警察ミステリー小説です。

2011年の作品「星月夜」の続編というか、同じ警視庁捜査1課が関わる事件で、「星月夜」の主人公が今回は若い刑事の主人公の上司として出てきます。

ビルの建設工事をしていた作業員が、隣のビルの屋上に遺体があることを発見し、状況から自殺のように思われましたが、主人公の捜査や、同じ凶器を使った殺人事件が2件続いて起きたことで、連続殺人事件となりほとんどない目撃情報や、口の堅い花柳界などに捜査は苦しめられます。

物語の舞台は東京だけでなく、殺された元捕鯨船船員の地元和歌山の太地町や、同じく厳しい環境の青森の最北端三厩なども出てきて旅情豊かで楽しめます。

以前読んだ「志賀越みち」(2010年)は京都の花柳界が舞台でしたが、今回は赤坂の花柳界が出てきます。著者はきっと花柳界が大好きなのでしょうね。

★★☆

9月後半の読書と感想、書評 2023/10/4(水)

020 志賀越みち(光文社文庫)
2010年に単行本が発刊されてずっと文庫化されるのを首を長くして待っていたら、ようやく昨年末(2022年12月)に文庫版が発刊されました。単行本から文庫になるまで12年もかかるのって珍しくないですか?なにか事情でもあったのでしょうかね。

それはともかく、ベタベタな恋愛小説のこの著作は、私も何度もクルマで走ったことがある志賀越みち(=山中越え)が最初と最後に出てくる小説で、志賀と言っても信州の志賀高原ではなく、滋賀県にかつてあって現在は大津市に吸収されている志賀町から、比叡山の中腹を通って京都の白川へ通じている険しい山道のことを指しています。

時代は昭和30年代、主人公は東京の大学生で、大学で知り合った京都祇園の芸者置屋の息子に誘われ京都へやってきます。

そして朝の散歩中に建仁寺で熱心にお参りする女性に一目惚れし、その女性が祇園でも有名な舞子さん(芸者さんの卵)で、、、という禁断の恋が始まって、、、。わかりやすいドラマです。

祇園の掟というか、当時は現在と比べてもより保守的で男尊女卑な世界がまだ残っている中での恋愛物語は読んでいても新鮮な感じがします。

様々な祇園の行事や、見習いからスタートし、舞子、芸者へと上に登っていく色町の世界、踊りや所作の厳しさ、上客との関係など、様々なしきたりや風俗が垣間見られてなにか行った気になれて楽しめます。

今でこそ、舞子や芸者の世界に飛び込むのは、第一に本人の希望があってのことですが、昭和30年代と言うとまだ、悪い言葉で言えば口入れ屋を通して10代初めの娘をお金で売ってしまうというようなことがおこなわれていた時代です。

そうした不幸を背負いながらも一所懸命に日本有数の花街・祇園で生きていこうとする女性と、裕福な家庭の大学生で、長期間学校を休んで親の金で京都や金沢でブラブラ遊んでいる男との恋愛ですから、これはもう女性を泣かす悲恋に終わるだろうと思うのは火を見るまでもなく明らかです。

京都にはあまり縁がないと思っていた著者ですが、よく調べて書いてあり、本当にしばらくそこに住んでいたのだろうか?と思うような祇園の風景描写が素晴らしいです。

★★★

1月前半の読書と感想、書評 2023/1/14(土)

019 愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない (集英社文庫)
2014年に単行本、2017年に文庫化された自伝的長編小説です。

と、言うことは、亡くなった前妻夏目雅子さんのことを「愚者」とは何事!とちょっと不審に思いながら読み始めました。

著者の自伝的小説と言えば、私も読みましたが「海峡」、「春雷(海峡 少年篇)」、「岬へ(海峡・青春篇)」の三部作が有名です。

タイトルにある愚者とは、もちろん若くして亡くなった前妻のことではなく、気の合った友人、スポーツ紙の競馬担当記者、弱小芸能プロダクションの社長、小説を書くように執拗に迫る出版社の編集者の三人のことを指しています。

妻の死で、酒とギャンブルに溺れていた主人公が、それら3人の友人と深く関わっていくことで、再生していく姿を描いています。

この著者の自伝的な話しを読んでいると、なんとこの人のごく近い周囲には死が満ちあふれているのだろうと思ってしまいます。もちろん本人の責任ではないのですけど、、、

最初は子供の頃、一緒にいた幼い弟が海で溺れて亡くなり、周囲の猛反対を押し切って結婚した夏目雅子、この小説に登場する上記の3人(生死がわからない人含む)や、応援していた年配の競輪選手、小説を書くきっかけとなった阿佐田哲也(色川武大)との出会いと死など、常に死がつきまとっています。

暗く重い内容が続きますが、今の著者を知っていれば、そうしたモヤモヤも我慢して読めます。

著者は昨年2020年にくも膜下出血で手術を受けましたが、予後は良さそうで、また「ノボさん 小説正岡子規と夏目漱石」(2013年)のような、明るく面白い小説を期待したいところです。

★★☆

5月前半の読書と感想、書評 2021/5/15(土)

018 ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石(上)(下) (講談社文庫)
2013年に単行本、2016年に文庫化された小説で、若い頃からの正岡子規と夏目漱石の友情と、正岡子規が後世に残した偉大な文化などの話しが中心となっています。

正岡子規(1867年〜1902年)というと、真横から撮影されたはげ頭の頭部が異常にでかい?写真がすぐ思い浮かび、ちょっととっつきにくそうな感じがしますが、四国松山から上京し、東大へ通っていた頃は誰もから好かれる好男子だったのですね。

それとその横顔でひげを生やした写真からは、お爺さん?って感じを受けていましたが、35歳という若さで亡くなっていますから、やや老け顔だったのでしょう。

その正岡子規、ほぼ同世代に夏目漱石や同じく松山出身で日露戦争で活躍する秋山真之、俳句で知り合った森鴎外も懇意で、その他にも歴史的人物が子規の周囲に次々と登場してくるのは驚きです。

特に東京大学入学後からの夏目漱石との仲は深く、お互いにその才能を尊敬し合い、行く道は違っていてもその友情はずっと変わりませんでした。

また正岡子規は野球が日本に入ってきてまもなくプレーヤーとして日本での普及に大きな影響をもたらし、ベースボールをもじって野球、バッターを打者、ランナーを走者、四球をファーボールなど訳した最初の人でもあり、野球に対して一家言ある著者(伊集院静)にとっては、この正岡子規を取り上げなければならない運命だったのかも知れません。

松山から希望が叶って上京し、予備門から東京帝国大学へ入学、その間にも俳句や短歌、随筆、浄瑠璃などを書き、自分には小説が向いているのではと創作活動を続けます。

タイトルは、正岡子規の幼名正岡升(のぼる)から、松山時代の友人達から「ノボさん」と親しみを込めて呼ばれていたことからです。

そのハチャメチャで貧しく短い人生ですが、多くの人に影響を及ぼし、明治という時代を駆け抜けていった一人の人間正岡子規を魅力ある人物として描いた小説として秀逸です。

★★★

10月前半の読書と感想、書評 2019/10/16(水)

017 不運と思うな。大人の流儀6 a genuine way of life
大人の流儀」シリーズの第6弾で、2016年刊の新書です。確か週刊現代に連載されているエッセイをまとめたものだと思います。

帯に「生きる勇気が湧いてくる。感動の1冊」と大げさに書いてあったので、60過ぎのオッサンに生きる勇気を持たせてくれるのかと、わくわくしながら読みましたが、肩すかしも良いところです。

著者の小説やエッセイは好きで、過去に16作品(19冊)を読んでいますが、著者の作風が変わったのか?それとも読み手の私が年齢とともに感性が変わったのか?その両方かもしれませんけど、これはいただけません。

とにかく、同じ事を何度も書く、しつこく書く、中には自慢たらしく思えるようなことを自慢げに書く、過去の美しい想い出を何度も書く、あまり考えずに単なる思いつきだけで書いている?と思う箇所など、これはいずれも高齢者の多くに見られる現象のような気もします。著者は今年で69歳、いつまでも若くはないですね。

好きな作家さんだけに、こうした症状が垣間見えるのは、ちょっと残念です。

もっとも、若い人にとっては、こうした波瀾万丈の生き方をしてきた人の経験を垣間見ることで、いろいろと考えることもできるでしょうから、すべて悪いと言うつもりはありません。

要は読み手がどう思うかですから、私も個人的な感想を述べているだけで、それを誰かに批判されても困ります。

★☆☆

9月前半の読書と感想、書評 2019/9/14(土)

016 大人の流儀(講談社)
2009〜2011年に週刊現代に連載されたエッセイ集で、それらから抜粋して2011年に発刊されました。そのせいか、その時代時代のニュースを元にしたネタも多く、残念ながら今読むと「そんな古い話題を取り上げても・・・」って感じを受けます。

小説だと10年前でも30年前でも100年前のものでも楽しく読めますが、時事ニュースの多いエッセーにはどうも向きません。

例えば自民党で参議院のドンとまで言われていた青木幹雄氏が2010年に政界をスパッと引退したと思うと、その後任に自分の息子をしっかりと据えていたことに対し「そんな世襲政治をやっていたのでは自民党の復活は遠い」なんてことが書かれていますが、その後民主党の失敗などもあり、すぐに自民党は復権したことはご存じの通り。

著者は団塊世代の1950年生まれですので、2009年当時ほぼ60歳という年齢からして、大人が若い人に対して「大人の考え方」のアドバイスを送るというような内容・文章となっていますが、今の若い人にとってはやはり「そんな古臭い考え方を持ち込まれても・・・」となってしまいそうな気がします。

結局は同じ団塊世代や、私のように団塊世代と一緒に苦楽を共にしてきた(彼らの使いっ走りとも言う)人間が読むと、妙に納得できたり、そうだそうだと、若い人にはなかなか理解されない苦労を大人の言い分として自己弁護に役立てるものかもしれません。

もっともそうした週刊誌を読むのは若い人ではなく、団塊世代を中心とするオッサンばかりという現実もあり、それが正しい書き方でもあり、読み方だと思います。

厳しい感想を書きましたが、著者の書く小説は概ね好きで、すでに15冊を読んでいます。このエッセイが「大人の流儀」ではなく、天下の大女優で美女達夏目雅子や篠ひろ子をメロメロにして妻にまでした「男の器量」を自己分析した「自分の流儀」的なものであればもっと腑に落ちたのではないのかなとちょっと残念です。

最後の章で、夏目雅子との出会いと別れや現在の妻の篠ひろ子との関係について少し書かれていますが、ギャンブル好きで借金まみれの不良中年がどうしてこうもてるのかは謎のままです。

あとこの本の最初に書かれていた言葉は覚えておきたいと思いました。ネットの世界だけにこもっていたり、あまり積極的に外へ出たがらない若者に対してのメッセージと思えますが、逆に年老いてなにもする気が起きない人に対しても激励するいい言葉です。

"旅をしなさい。どこへむかってもいいから旅に出なさい。
世界は君や、あなたが思っているほど退屈な所ではない。"

5月前半の読書と感想、書評 2015/5/16(土)

015 羊の目 (文春文庫)
最近著者の作品で目に付くのは女性が主人公で甘ったるい恋愛ものが多く、食傷し少し敬遠気味でしたが、「これぞ待っていました!」といえる、人間味あふれるハードボイルド的な小説で、2008年単行本、2010年に文庫化されました。

侠客と言うと「ヤクザとどう違う?」とか「昔のギャンブラーでしょ?」とか言われそうですが、正式には「強きを挫き、弱きを助ける事を旨とした任侠を建前とした渡世人の総称」(wikipedia)ということで、江戸時代から昭和初期頃までに流行った伊達で粋な男の生き方を具現化した言葉です。

世知辛い自己中の今の世の中ではすでに死語となっていますが、実在した人物としては会津小鉄、国定忠治、清水次郎長など、フィクションでは木枯らし紋次郎などが侠客と言えます。昨年亡くなった高倉健さんがデビュー初期の頃に演じていた役もそれに近いものがありそうです。

その侠客、任侠の世界とハードボイルドを描いたのがこの作品で、まだ日本が貧しかった戦前に生まれ、夜鷹だった母親に捨てられた子が成長し、育ててくれた親を命を賭けて守り抜くことを唯一の生き甲斐とし、汚れ仕事を引き受け、殺人罪で刑務所にもつながれ、戦後のヤクザの縄張り争いに巻き込まれます。そしてその親にも裏切られ、果てはアメリカへ逃げたあとも地元のマフィアと血を血で洗う戦いに発展するという壮大な男の生き様を描いています。

ちょっと話しが時代を一気に飛び過ぎるきらいがありますが、それだけスピード感があって、430ページはあっという間に読む終わるなかなかワクワクする面白い小説でした

1月前半の読書と感想、書評 2015/1/14(水)

014 瑠璃を見たひと (角川文庫)
この作品は1992年に初出ということで、同年に直木賞を受賞した「受け月」の前後に書かれたものと推察がされます。また同年には篠ひろ子と再婚し(最初の妻夏目雅子さんは1985年に死去)、同氏にとっては絶頂と言える時期だったかもしれません。

主人公は神戸の名門資産家に嫁いだものの、満たされぬ思いを感じてある日突然夫を捨てて出奔します。そして亡き父親の遺言にあった「なにか困ったことが起きたときにここへ電話をしなさい」というの実行します。

そこには父親と若くして亡くなった母親の知人で、謎の中国人女性が待っていて、何も聞かずに住む場所や仕事を提供してくれます。そしてその女性に頼まれ、それを対で持つと富と権力が手に入るという伝説の彫刻を探しに香港、フランス、ベルギーへと旅立つことになります。

そこまでもなにかあり得そうもない不思議なストーリーですが、ここから後半にはいるとさらに中国マフィア、ナチの残党、囚われの身となったままでシルクロードへの旅、ジンギスカンに滅ぼされた西夏文明の遺跡と、奇想天外、斬新奇抜、空前絶後、荒唐無稽な話しがジェットコースターのように進んでいきます。ちょっと待ってくださいよねぇ、と言ったところです。

本のタイトルにもなっている瑠璃色とは「やや紫みを帯びた鮮やかな青」ということで、このストーリーでは探し求めるタオティエという彫刻に使われている翡翠の色と、北京の西千キロほどにあった西夏の都の遺跡に残る伝説の瑠璃色に光る湖などを現しているものと思われますが、読む前はもうちょっとロマンティックな物語を想像していました。

この小説の中には日本人はほとんど登場せず、主人公を含め日本に住む中国系、または華僑など外国に渡った人、元ベトナム難民などアジア系の人達ばかりです。悪役で日系ドイツ人などは出てきますが、ちょっと毛色の変わった登場人物ばかりでそこのところは面白く読むことができました。

8月後半の読書と感想、書評 2013/9/4(水)

013 星月夜 (集英社文芸単行本)
30年に及ぶ作家生活で初めての推理小説というこの作品は2011年に発刊されています。つまり東日本大震災が執筆中に起きていて、小説の中にはわずかながらずっと昔に津波で亡くなった家族の話しが出てきますが、その津波のイメージを入れたように思われます。

出版社のサイトにこの本について筆者のインタビューが公開されています。

初の推理小説で人の哀しみを描く(文藝春秋サイト)

その中にあらすじっぽい話しが書かれていますので、ここでは省略して感想だけを書くことにします。

著者の作品は、今までに直木賞を受賞した「受け月」を始め、12作品を読んでいて割とお気に入りの作家さんです。特になにか特徴があるかと言うと、実はあまりなく、読んでいると宮本輝氏、五木寛之氏、白川道氏などの作品とあまり区別がつかず、複数の小説を並行して読んでいるとこれは誰の作品だったっけと時々わからなくなるときもあります。

しかし「海峡―海峡・幼年篇」「春雷―海峡・少年篇」「岬へ―海峡・青春篇」の三部作は、在日韓国人二世だった自伝的作品ですが、もっとも内容が濃く感動させられる小説でした。

やはり自分が歩いてきた道をベースにして描くのと、空想や創造力だけで描くのでは著者の思い入れが違ってきます。そういう自伝的作品を超える作品を創り出せるかが一流の作家の証となるのでしょう。

著者の作品の中では珍しい警察官や鑑識官を主人公としたこの作品は、冒頭のインタビューにもあるとおり、岩手から東京に出てきた若い女性と島根の老人が、なぜ殺されて一緒に東京湾に沈められたかを一歩一歩調べて行くというミステリー仕立ての小説です。

そのストーリーやプロットは最初に小樽で身元不明の死体が上がり、その謎を定年退職した刑事が必死に追いかける白川道氏の作品「最も遠い銀河 」ともよく似ていますが、「星月夜」のほうが話しの設定に無理がなく、より洗練されているように感じます。

その「最も遠い銀河」は先日テレ朝の開局55周年記念ドラマとして放送されていましたね。なんとなくタイトルも両方共通しているところがあるのが不思議です。

2月前半の読書 2013/2/20(水)

012 水の手帳 (集英社文庫)
この「水の手帳」は1995年に初出(文庫は1998年)の作品です。1992年に「受け月」で直木賞、1994年には「機関車先生」で柴田錬三郎賞受賞と作家として脂がのった頃の作品のはずでした。

実は読了後にわかったのですが、この本は1998年に一度購入して読んでいました。読み出して最後まで気がつかなかったというのはいよいよ老人ボケが入ってしまったか、よほど印象に残らない駄作だったのか、その両方なのか。

同氏の作品ではよくある、若くて美人の女性が主人公で、様々な出会いや別れ、それになぜかその合間にヨーロッパの観光地が登場し、そこのうんちくを披露するという流れです。

そう考えると宮本輝氏の小説となんとなく似ていて、過去に読んだ中にもこの二人の作品の区別がつかなくなることがあります。

ま、それはさておき、今回は出だしが軽井沢、そのあと実家の長崎へ飛び精霊流し、と思ったらパリへ飛んで古城を見学し、そこから南下して兄が暮らすアフリカはケニアへ。

ケニアからいったんパリに戻って帰国してから成田へ戻ると、空港からそのまま北海道へ、さらには実父らしき人を訪ねて韓国へとめまぐるしく舞台が変わっていきます。これほど舞台が次々と変わるのは007シリーズぐらいしかありません。

著者自身が韓国系日本人2世ということもあり、その血脈については深い思い入れがあるのでしょう。この小説では主人公の女性が母親が亡くなるまで知らなかった自分の本当の父親が韓国にいるらしいという手掛かりをつかみ、訪れて最終的には再会するというストーリーです。

感想はと言うと軽快で都合よくできた小説で、過去に読んだ著者の14冊(12話)の作品と比べると、残念ながらあまり誉められたものではありません。やっぱりなんとなく著者とタイトルに惹かれて買ってしまった本は当たり外れがあるものです。

11月前半の読書 2012/11/17(土)

011 白い声〈上〉〈下〉 (新潮文庫)
スペインと金沢が舞台の2002年に発表された伊集院静氏の恋愛小説です。小説の中にはいくつものスペインの都市の名前が出てきますが、普通の日本人でスペインの形すら思い描ける人は少ないのではないでしょうか。私も位置はわかるものの、地名を聞いてもそれがどこにあるのかはさっぱりわかりません。

ストーリーは、親の仕事の都合でスペインで生まれ育った日本人のヒロイン(もちろん絶世の美女)が、子供の頃事故に遭ったとき偶然救ってくれた日本人男性と、思いがけず金沢の街で出合い、恋に落ちていくというストーリーですが、この日本人男性はかなりの悪で、ヒロインが事故に遭ったのも、その男が警察から追われてクルマで逃亡している際に、轢かれそうになって崖から転落したもので、読者はそれがわかっているので、なぜそんな男に惚れるのか?と疑問符だらけで読み進めることになります。

そして健気にもヒロインは、どこまでも逃げる男を追いかけて、心身共に最後まで尽くしていくという、ま、男の身勝手さとあらゆる妄想が生み出す男冥利に尽きる内容ですが、ありえねぇ、、、。

しかも著者は女性読者が多い作家さんですから、こういう小説が一部の熱狂的な女性読者には受けるのでしょう。よくわかりませんが。最後になってそれほどまでにダメ男を追い求めるのには、なにかワケがあったのか?と期待を持たせますが、結局よくわからないまま終わります。う〜(うめき声)

男の視点でもって、徹底的に「尽くす女」と自己中心的な「ワル男」を自由奔放に書けば、こういうものになるのでしょうが、しかし「男は本質的にこういう事を求めているのか?」と女性方々に誤解されてしまうのもちょっとどうかなと思ってしまいます。ま、誤解するわけないかな。

スペインのしかも田舎へのんびりと旅行する際のガイドブックにするにはいいのかも知れません。そして小説のように運命的な出会いがあなたを待っているかもしれません。ふへぇ〜(ため息)

7月前半の読書 2011/7/18(月)

2021/10に再読(10年前に読んだの気がつかず)しました。

感想
2002年に単行本、2005年に文庫化された恋愛長編小説です。

ただ先に言っておくと恋愛と言うにはあまりにも身勝手で節操のない色情ダメ男と、幼いときから規律正しいクリスチャンとして育てられた若い女性との一方的な恋愛ですので、あまり気分が良い恋愛物ではありません。

小説の舞台となるのは、金沢の街と、スペイン北部のバルセロナからサンティアゴ巡礼の道などで、スペイン大好きな人には恋愛部分はすっ飛ばし、紀行小説としても楽しめるかもしれません。

主人公は、父親の仕事の関係で中学生の頃までスペインで過ごした後、訳あって叔母が住む金沢で高校生活を送っている女性。

もうひとりの主人公は、能登半島で極貧生活を送ったあと、20歳でベストセラー小説を書いて一躍作家になったものの、様々な鬱積にまみれ、その後20年間次作が書けず、ジゴロというか女のヒモの生活を続けている男性。

暴力と血にまみれ、女にだらしなく、口だけは巧いこういうワル男はモテるのだ!と言ってしまえばそうなのかもしれませんが、その男のことを知る人は皆「あの男には近づかない方が良い」と言っても、「あの人はそんな人ではありません」と繰り返し、なすがままにされ、それで満足を得る聖女のような主人公もちょっとあり得そうもない感じです。

著者らしい小説と言えばそうなのかも知れませんが、個人的には花村萬月氏の小説と、白川道氏の小説と、そして著者の小説を足して3で割ったような中途半端な感じがしました。

軟弱でモテない男性にとっては夢のような物語でしょうが、恋愛部分はただただ男の願望だけが詰め込まれていてつまらないものでした。

なお、この小説は2011年にも一度読んで感想も書いていました。後になって気がつくとはトホホです。

★☆☆

11月前半の読書と感想。書評 2021/11/17(水)

010 アフリカの王(上)(下) (講談社文庫)
2003/05/16読了

「BOOK」データベースより
「一度アフリカに足を踏み入れた人間はアフリカの手に掴まえられてしまう」無頼の編集者、黒田十三もその一人だった。雑誌の撮影でケニアを訪れた彼は現地の画家ムパタの絵に強く惹きつけられる。パリでの取材を放り出し、フランス娘パスカルとともに、再びアフリカの大地に立つが。

ついに出版社を飛び出した黒田十三。建築家・藤巻龍三郎と意気投合した彼は、ケニアの丘に旅行者のためのロッジを建てることを決意する。日本でムパタの展覧会を成功させ、現地に乗り込んだ十三を待ち受けるものは!?アフリカの大地に夢を描いた男と女の物語、クライマックスへ。

009 岬へ―海峡・青春篇 (新潮文庫)
2002/09/06読了

「BOOK」データベースより
なつかしい故郷を離れて、東京の大学へ進学した英雄を、過酷な運命が待ち受けていた。変わり果てた旧友との再会、父と「高木の家」への訣別、初めての狂おしい恋、そして荒海に消えた弟・正雄。別れの痛みを背負ってひとり旅立ち、最果ての岬にたどりついた英雄を、海潮音が包みこむ…。人の絆の重みと生きることの意味を熾裂に問いかけた自伝的長編「海峡」三部作、ついに完結。

008 春雷―海峡・少年篇 (新潮文庫)
2002/09/02読了

「BOOK」データベースより
篤い友情、淡い初恋、差別的な教師への敵愾心、弟・正雄との心の絆、父・斉次郎への初めての反抗、海の彼方へ去る者への惜別―。沸騰する感情と旅立ちの予感が、中学生に成長した英雄を内側から激しく揺さぶる。十四歳という嵐の季節を、傷つきながらも一途に突き進み、大人の世界へ踏み出そうとする少年の姿を、自らの体験に基づいて峻烈に描き上げた感動の自伝的長編「第二部」。

007 海峡―海峡・幼年篇 (新潮文庫)
2002/08/02読了

「BOOK」データベースより
少年にとって、父は聳える山だった。母は豊かな海だった―。土木工事や飲食店、旅館などで働く五十人余りの人々が大家族のように寄り添って暮らす「高木の家」。その家長の長男として生れた英雄は、かけがえのない人との出会いと別れを通して、幼い心に生きる喜びと悲しみを刻んでゆく。瀬戸内の小さな港町で過ごした著者の懐かしい幼年時代を抒情豊かに描いた自伝的長編「第一部」。

006 オルゴール (講談社文庫)
1999/05/27読了

「BOOK」データベースより
哀しい過去のある出来事からバイオリンが弾けなくなった木葉子と、無頼に生きる行雄の、心のすれ違いを描いた表題作、夢の中でしか現れないような奇妙な女性たちの魅力あふれる「鏡の中の女」など、伊集院ワールドの傑作ばかりを集めたオリジナル短編集。思わず涙が零れ落ちる、大人の愛を描いた一冊。

005 ジゴロ (角川文庫)
1998/11/21読了

「BOOK」データベースより
渋谷・US劇場の看板ストリッパー・ローズは十七年前の聖夜にひとりの男の子を産んだ。神山吾郎。ローズを愛するさまざまな職の男たちの誰もが吾郎の父親になろうと勇んだ。そして現在、吾郎は様変わりした渋谷の喧騒の中にひとり佇んでいる。人の生き死に、やさしさ、人生のわけを知った幾人かの“父親たち”に見守られながら、吾郎は大きく成長を遂げようとしていた―。世が流転しても変わらぬ、人と人との濃密な時間を描き切った、やるせなく心震える青春巨編。

004 受け月 (文春文庫)
1995/11/30読了

「BOOK」データベースより
人が他人のために祈る時、どうすれば通じるのだろうか…。鉄拳制裁も辞さない老監督は、引退試合を終えた日の明け方、糸のようなその月に向かって両手を合わせていた。表題作ほか、選考委員の激賞を受けた「切子皿」など、野球に関わる人びとを通じて人生の機微を描いた連作短篇集。感動の直木賞受賞作。

003 白秋 (講談社文庫)
1995/09/01読了

「BOOK」データベースより
花を活けに屋敷を訪れる文枝に、生れて初めて恋をした真也。病床に伏す身ながら心をときめかせる真也に、長年看護をしてきた志津は妬心の炎を燃やす。狂気の行動に出る志津。真也と文枝は御堂のなかで遂に愛し合うが…。鎌倉を舞台に男女三人の揺れ動く心模様を見事に描いた、伊集院ワールドの傑作恋愛小説。

002 三年坂 (講談社文庫)
1994/07/15読了

「BOOK」データベースより
七夕の笹を求めて分け入った山中で窮地に陥った父を助けようと必死に走る少年の思い(「皐月」)、店が開店した日に事故で亡くなった母親の在りし日が鮨職人の心に鮮やかに甦る瞬間(「三年坂」)…。めぐる歳月と人生の哀切を、抒情あふれる端正な文章で描き出した、著者の原点とも言うべき珠玉の作品集。

001 遠い昨日 (講談社文庫)
1993/11/16読了

「BOOK」データベースより
異国の街の港、カジノ、酒場、ホテルでの意外な出逢い、ふと甦る少年時代の記憶、苦い離別の自省を綴った表題作に、港町で育った少年が新聞記者の世界に飛び込んで成長していく過程を描く「男が目を閉じる時」、断片的な風景から生きる意味を探る「森への径」を収録。瑞々しい文体が心を打つ、オリジナル。



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